海外トピックス

2012/7/6

vol.206 オランダの町家が民宿(B&B)に?

正面の通りから見たバースとマリエッタ夫妻のB&B(民宿)。中央建物の左半分が彼らの所有で、右半分は隣人の住まい。左側の家とも壁で接していて隙間がまったくない(オランダ ティルバーグ市。以下同)
正面の通りから見たバースとマリエッタ夫妻のB&B(民宿)。中央建物の左半分が彼らの所有で、右半分は隣人の住まい。左側の家とも壁で接していて隙間がまったくない(オランダ ティルバーグ市。以下同)
バースとマリエッタ夫妻の居間。中央に見える小部屋は裏庭に面していて、ここで朝食をとる
バースとマリエッタ夫妻の居間。中央に見える小部屋は裏庭に面していて、ここで朝食をとる
バースとマリエッタ夫妻、右は助手のジェニー。マリエッタもジェニーも背が高く170cmをゆうに超すが、天井はさらに高い
バースとマリエッタ夫妻、右は助手のジェニー。マリエッタもジェニーも背が高く170cmをゆうに超すが、天井はさらに高い
毎朝違うテーブルクロスがかけられ、コーヒーか紅茶、ジュース、さまざまなチーズ(とりわけやぎがおいしい)、薄切りのソーセージやハム、半熟卵、各種のパンやクラッカーが出される。隣のテーブルには、フルーツ、グラノラ、庭からとれた胡桃や干したあんずやさくらんぼ、ヨーグルト、はちみつなども置いてある
毎朝違うテーブルクロスがかけられ、コーヒーか紅茶、ジュース、さまざまなチーズ(とりわけやぎがおいしい)、薄切りのソーセージやハム、半熟卵、各種のパンやクラッカーが出される。隣のテーブルには、フルーツ、グラノラ、庭からとれた胡桃や干したあんずやさくらんぼ、ヨーグルト、はちみつなども置いてある
バースが手入れをしている裏庭。家庭菜園のスケールではあるが、夫妻とB&Bの客をまかなうには充分な収穫があるそうだ
バースが手入れをしている裏庭。家庭菜園のスケールではあるが、夫妻とB&Bの客をまかなうには充分な収穫があるそうだ
清潔で居心地のよい個室。中世の頃から織物で富を築いたオランダだけのことはあって、シーツ類は美しく伝統的な縫い取りがしてある上質な布だった
清潔で居心地のよい個室。中世の頃から織物で富を築いたオランダだけのことはあって、シーツ類は美しく伝統的な縫い取りがしてある上質な布だった

寝室と朝食だけのコンパクトで家庭的な宿

1910年に建てられた典雅な町家にしばらく滞在した。バースとマリエッタ夫妻が経営する民宿、…と言っても、たった3部屋の個室と共同のシャワーとトイレ、泊まり客用のキッチンがあるだけの家庭的な宿である。泊まり客用のキッチンには冷蔵庫や電子レンジ、鍋や皿、調味料もそろって簡単な夕食も作れ、外食をする必要がなく、家具付きのアパート住まいと言っても良いほど。 ヨーロッパでは、こういった朝食付きの宿、略してB&B(ベッド&ブレックファスト)が非常に多い。アメリカの友人達から、B&Bを利用してヨーロッパを経済的に、そして長期間旅行する話しをよく聞いていた。家庭的な雰囲気が味わえるし、地元の最新情報が聞けるのもいい。 バースとマリエッタ夫妻のB&Bでは、庭からつみたての花々が部屋に活けられ、普通のホテルでは味わえない程おいしくてたっぷりした朝ごはんが供され、幸せな気分で毎朝仕事を開始できた。

裏庭で穫れる新鮮な野菜や果物が朝の食卓に

バースとマリエッタ夫妻のB&Bは伝統的な町家のつくりだそうだが、アメリカの住宅とは大変違っている。だが、こういったタイプの「3階建てのっぽ町家」はオランダの都会では普通のようである。もっとも、のっぽ町家はここティルバーグ市やアムステルダム市など都会だけの話で、郊外や田舎に行くと平屋をたくさん見かけた。きっと都心は昔から土地が限られていて高価だったせい、と勝手に想像するが…。 隙間なく家同士、壁を接して建っている町家が多く、のぞいても当然裏までは見通せない。そして、どこの家にも細長い裏庭がついていて、三階の窓から見下ろすとそれぞれ裏庭の様子が丸見え。正面は均一なレンガ作りの家々が整然と並んでいるように見えても、裏庭は家によっては花畑になっていたり、建て出して大きい建物になっていたり、テラスでお茶をのんでいたり、千差万別だ。 バースの家は隣の親戚の家の庭をもらったとかで庭は2倍の広さ。レタスやトマト、キュウリなど植えた野菜畑と、りんご、あんず、梨、桃、プラム、胡桃が収穫出来る果樹園、木々の下にはベンチが置いてあり、花が美しく咲き乱れている。 バースは庭の手入れに忙しい。料理の成功は70%はよい材料を得ることにつきると思うが、夫妻のB&Bに限ってもその通りで、庭から穫れる新鮮な果物や野菜がおいしい朝食の秘密に違いない。

100年前に先代が建てた家を修復しながら使用

1910年というと、日本ではまだ明治時代だが、そんな昔にバースのお父さんが自分の住まいとしてこの家を建てたそう。バースはここで生まれ育ち、美術教師を引退したあと、譲り受けた家を改造。1階は居間と食堂およびキッチン。2階はバースとマリエッタの住まい。そして3階が3部屋の個室や洗面所や泊まり客用キッチンなどの民宿部分である。エレベーターはないから、天井の高い分、部屋まで相当な数の階段をのぼることになり、重たい荷物を持って上り下りするのは体力がいる。当時の素材をこつこつと修復している最中ではあったが、とりわけ太い横木や床材など材質がしっかりしており、まだあと100年はゆうに持つのではあるまいか。 19世紀末にヨーロッパで流行したアールヌーボー様式、当時の本物のガラスがドアに嵌め込まれていた。窓に使われているステンドグラスも鉛でつなぎ合わせ色ガラスをはめこんだ100年前のアンティックである。しかし、「アンティックに囲まれて」というような肩のはる感じでは決してなく、暖かみがあり居心地のよい空間である。個人的な好みかもしれないが、何もかもが新しくモダンなデザイン、という家はどうも落ち着かない。

楽しみながらマイペースで暮らす生き方

滞在中、助手をつとめてくれたベルギー人のジェニーは徒歩クラブに入っていて、週に1回皆で歩いたり、1年に1週間位クラブ主催の旅行でフランスやドイツへ行って皆で現地を歩くのだそうだ。若い人から子供連れの家族、シニアまでさまざまな年齢層だが、クラブ員それぞれのペースで歩く。道にはバスや車が待機していて、疲れたらそこで休んだり車に乗って宿舎まで運んでももらえる。いろいろな国へ行くにしても、クラブ員が経営するB&Bはメンバー価格で割安になる。ベルギー人のジェニーはヨーロッパ徒歩クラブのメンバーリストを通して、オランダのバースとマリエッタのB&Bに宿泊問い合わせの連絡をとったわけである。 バースとマリエッタは徒歩クラブの旅行で中南米のキューバを1ヵ月歩いてきて、タイミングよく帰宅した所だったそう。その間はB&Bは休み…、のんびりしたものだ。 町家を民宿にして、背伸びをせず、楽しみながら自分のペースで暮らすのもよいものである。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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2024/5/1

「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。