海外トピックス

2012/10/22

vol.213 「ホームインスペクション」が必要なわけ

ホームインスペクター、George Rieger氏(North Branch Property Inspection Inc.) の自宅にて。愛犬がジョージの足下にうずくまっている(イリノイ州エバンストン市。以下同)
ホームインスペクター、George Rieger氏(North Branch Property Inspection Inc.) の自宅にて。愛犬がジョージの足下にうずくまっている(イリノイ州エバンストン市。以下同)
すべての器材が積まれたトラックで一人インスペクションに出かける
すべての器材が積まれたトラックで一人インスペクションに出かける
ジョージの自慢のはしごを見せてくれる。ステンレス製で軽く小さいが…。(下の写真へ)
ジョージの自慢のはしごを見せてくれる。ステンレス製で軽く小さいが…。(下の写真へ)
この梯子、ものすごく高く伸びる。2階建ての屋根の上まで登れるほど
この梯子、ものすごく高く伸びる。2階建ての屋根の上まで登れるほど
ボイラーや電気配線などは素人にはわかりにくいので、専門家による検査は役に立つ
ボイラーや電気配線などは素人にはわかりにくいので、専門家による検査は役に立つ

中古住宅を買う場合、その物件が果たして安全かどうか、故障や水漏れはないか、保証はどうなっているのか、売り手の言うことを信じてよいか…、など多くの疑問と不安があるに違いない。物件の状態を専門家としての視点から検査し、顧客に報告するのが「ホームインスペクター」の仕事である。
先日、知人の不動産エージェントを通してベテランのホームインスペクター、ジョージ・リーガー氏(以下敬称略)に会う機会を得た。彼の話もまじえて、なぜホームインスペクションが不動産ビジネスには必要とされるのか説明してみたい。
ちなみに世の中にはさまざまな職種に「検査人」が存在する。不動産ビジネスでは“ホームインスペクター” とか 、“プロパティインスペクター” と言うのが正しいのだが、ここでは単に「インスペクター」と略すのを許していただきたい。

住宅購入者の不安を取り除くのが目的

家の売り買いは気が張るものだ。ジョージの場合、依頼人の95%は中古物件を買おうとしている人だそうだが、顧客にとっては、その物件に大きな欠陥がないかどうか、売値が妥当かどうかなど、インスペクターによる検査結果が購入を判断する手がかりとして役立つ。 インスペクターの目的は、家を買う人の不安を取り除き気持を落ち着かせる点にあるそうで、具体的には物件が構造的・機能的な面から見てどのような状態にあるのか外見から診断をする。屋根、基礎、冷暖房装置、電気配線、上下水道、換気装置、車庫などの状態を調べ、チェックリスト、写真、および口述によって顧客に報告するというものだ。 州の検査基準が基本となるが、アメリカでは各州によって検査基準が多少違う。

いくつかの手がかりから、その家の状態を判断

インスペクターを使わずに中古住宅を買ったとしてみよう。雨が降ったあと、例えば天井から水が漏ったら大変だ。屋根をはがして新しくふき替えると、ジョージの修理概算表によれば、約1平方メートルにつき4万円から5万円はかかる勘定。予想外の出費はともかく、電気配線の不備などがあれば命の危険に関わるから、専門家によって家の状態を正しく把握しておけば安心だ。 ではインスペクターはどの範囲まで検査するのか。屋根を例にとると、虫メガネで木材のひび割れに至るまで逐一観察するわけでなく、その家がどれくらい年数が経っているか、いつふき替えたか、修理したか、水漏れの痕跡はないか、など幾つかの手がかりから判断を下すのだそうだ。全体的な家の状態の調査といえるだろう。 ジョージの場合、検査には一戸建てだと2~3時間、マンションだと1時間半から2時間くらい時間がかかり、料金は一戸建てで32,000円から36,000円、マンションでは24,000円前後とのこと。

インスペクターになるには?

インスペクターの免許は州から交付される。学校に通ったり、実務見習いや講習を受け、教本を勉強してのち、3時間に渡る試験に合格せねばならない。イリノイ州にはインスペクター養成の専門学校や講座を設けている大学もある。受験資格は高校卒、そしてこういった養成所の授業を60時間以上受けるか、実務に従事していたという証明が必要。 さらに、州の免許をとったあとでも2年毎に免許を更新しなければならないが、「更新はそんなに難しくはない」(ジョージ)そうだ。American Society of Home Inspectors(ASHI)が全米一大きい組織団体で、大半のインスペクターはASHIの会員。 ASHIでは、免許取得に備えての講習や各種講座を開いている。他にNational Association of Certified Home Inspectors などいくつかの団体がある。

建築業者から転職。通常の業務は一人で

ジョージは長年建築業者だったが、日々忙しすぎてビジネスとしてのストレスが多く、ある時“ホームインスペクター” という職業があることを知って転職したと言う。友人ジョンと、もう一人のインスペクターとで、「North Branch Property Inspection, Inc.」を1994年に設立、以来20年近く不動産物件の検査を続けている。 大きな商業物件のインスペクションのみ二人がかりで行なうが、通常はそれぞれ一人で検査をする。仕事の依頼は不動産エージェントからの紹介が大半で、その他不動産専門の弁護士、ローンを貸し出す金融関係者、以前の顧客の推薦等だ。それだけで手一杯なので、広告もウェブサイトも出していないそうだ。 インスペクターとしての仕事は、自分で仕事量をコントロールでき、毎日違った場所へ行ってさまざまな家を見ることができる。また、多くの人達との出会いもあり、そんな変化のある暮らしが好きだと言う。 「嫌な人もいる、ってこぼすじゃない?」と隣で夫人が一言。確かにいろいろな人がいるだろう。ジョンは自分のした検査に対して後々訴えられた時や、屋根から落ちたりして怪我をした場合に備えて、年間2000ドル(1ドル80円として16万円)の保険をかけているそうだ。免許を取ると保険加入は義務づけられるが、訴訟が多く、自分の身はしっかりと守らなければならないアメリカならでは、か。

※関連記事「Vol.95ホームインスペクター」もご参照ください。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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