海外トピックス

2012/12/20

vol.217 Y世代をターゲットに販路を開けるか?

スウィートウォーター住宅開発地区。あひるがたくさん池に泳いでのどかな景色。周囲は畑と農場が広がる(イリノイ州ウッドストック市。以下同)
スウィートウォーター住宅開発地区。あひるがたくさん池に泳いでのどかな景色。周囲は畑と農場が広がる(イリノイ州ウッドストック市。以下同)
2台分のガレージは家に直結している。外見はシンプルでおとなしい
2台分のガレージは家に直結している。外見はシンプルでおとなしい
185平方メートルのモデルルーム。おしゃれな壁の色だが、特注だ。広いダイニングルーム
185平方メートルのモデルルーム。おしゃれな壁の色だが、特注だ。広いダイニングルーム
ストーブ、食器洗浄機、戸棚など、冷蔵庫以外ははじめからついてくる。それ程大きくないが、使い易そうに工夫されている
ストーブ、食器洗浄機、戸棚など、冷蔵庫以外ははじめからついてくる。それ程大きくないが、使い易そうに工夫されている
予備の部屋が2つ用意されている
予備の部屋が2つ用意されている
広い地下室。将来どんな風にも造り上げる楽しみがあろう
広い地下室。将来どんな風にも造り上げる楽しみがあろう

アメリカ不動産市場は2007年から世界的な経済の停滞で灰色の雲に覆われ、やっと薄日がさしてきたのかな…?という状況。とりわけ土地開発・住宅建設会社は、財布のかたい消費者をどうやったら住宅購入に振り向けることができるか、ここ数年来苦戦している。
厳しい競争下にあって、ターゲットをぎりぎりまで絞り込んだ戦略を展開しているのは、全米大手の土地開発住宅建設会社プルテ・グループの傘下にあるセンテックスホームズ社 (Centex Homes) 。その戦略というのは、Y世代に的を合わせ、彼等の動向を周到なマーケティングにより隅々まで調査した点にある。彼等がどのような家を望み、家購入に対して何を懸案しているか、どれ位の予算なら購入が可能か、など膨大な調査結果から割り出した一戸建て住宅を生み出した。Y世代の“ドリーム” ハウスでありながら手が届く新シリーズを「試作品」として、シカゴを含め全米数ヵ所で発表、これまでと違う購買層の開発に賭けるセンテックス社の住宅が気になる。

豊かな時代に育ったベビーブーマーズの子供たち

なぜY世代に的を絞ったか…。親会社であるプルテ・グループマーケティング担当のフレッド・アール氏によると、Y世代は全米人口で最大のブーマーズの子供達でその数も多い。現在7,100万人余りいる彼等の多くは賃貸アパートに住んでおり、一戸建て住宅購入の潜在的顧客と予測している。 Y世代とは、X世代のあとに続く若い世代で、1975年から1989年生まれ。ミレニアルジェネレーションやエコブーマーズとも重なり合う世代だ。現在24歳から38歳で、特徴としては、豊かな時代に育った両親のベビーブ-マーズ以上に豊かに育ったためか、親と同様の価値観を持ち、親や社会に素直。また、フォーマルよりも気軽さを好むのは、若さと収入に見合う楽しみ方と言えようか。 週末、家に友人達を呼んでビールを飲みながらTVでフットボールの試合を見たり、庭で友人や家族共々BBQを楽しみたいと望む。その前の世代が贅沢な外食やオペラ見物を好む傾向があったのに比べて、Y世代は家庭的な暮らしを好むようだ。

贅沢よりは実用性…、シンプルなつくりの住宅

そんなY世代の生活パターンに注目しつつ、センテックス社が提供するスウィートウォーター住宅地はシンプルの一言に尽きる。 12月初旬に訪れた時点で、377戸のうち50戸が残っているそうだが、贅沢よりは実用に重点を置くY世代の価値観を想定し、基本形は壁は白だし、地下室もむきだしで引き渡される。自分で好きなように造作できるスペースや部屋も設けられている。公開されている2戸のモデルハウスのひとつは138平方メートルの平屋建てで約1,200万円。2BR、1バスルームで、余分の2部屋は子供部屋かホームオフィス、客用寝室などに応用可。地下室が広いので、エクササイズルームや子供の遊び場などにもなるだろう。車2台分のガレージは部屋に直結しているが、シャッターがおりるので安全。 もう一つ展示されていた2階建てのモデルハウスは185平方メートルでやや広く、1,280万円だった。どれもシカゴ市内の物件に比べると格段に安い。(注:1ドル80円で換算)。

家賃並みのローン返済額で、住宅を購入

月々のローン返済金額は同じ地域の賃貸住宅家賃と競合できる範囲に抑えてあるので、2つのモデルルーム共におよその概算だが10万円程度とのことだ。Y世代にとっては、「家賃と同金額で新築の一戸建て住宅が手に入る? まさか!?」――彼等は住宅ローンを組める条件下にはないと思い込んでいるので、まず驚きが先に立つ。ベビーブーマーズやX世代は、いま住んでいる持ち家を売って別の家に買い変える場合が多いが、Y世代は初めて家を購入する人が大多数。頭金の用意や大きな買い物に対して不安も多い。 センテックス社ではそうした不安を取り除くために保険と税金、返済金額について説明し、住宅ローンに関する金融アドバイザーを個々に紹介し、彼等が納得してから購入に踏み切るようなシステムを作り上げた。

子育て世帯、ペット好きには魅力的な環境だが…

Y世代は家族を増やす時期でもあろう。スウィートウォーター住宅地は、子供を育てるには安全で静かな良い環境。緑が多く自然志向のY世代を満足させる。光熱エネルギーコストは通常に比べ30%節約できる、と強調する点もエコに敏感なY世代を想定か。庭や広い散歩道のある郊外は、犬好きが多いY世代にとって魅力的だ。 しかしながら、これだけ低価格に抑えた住宅というのはどこかに無理があるような気がしないでもない。価格を抑えた分、「シンプル」と言えば聞こえはよいが、壁は白、地下室はむきだしで、モデルルームのような色のペンキをぬったり個性的な仕上げにするには「特別仕様」で価格が上乗せされてゆく仕組み。最大の懸案はシカゴの都心部から遠いこと。ラッシュアワーでなくても高速道路で1時間半のドライブ。電車は不便。周囲は農場が一面に広がり単調だ。美術館、劇場、洒落た個性的な店など見当たらない。都心に住み刺激の多いライフスタイルと秤にかけると…。Y世代の選択はどうであろうか。

<参考資料>
http://www.centex.com/
http://www.socialmarketing.org/newsletter/features/generation3.htm
Chicago Tribune newspaper 8/5/2012


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。