海外トピックス

2013/1/21

vol.219 金か銀か? シニアのライフスタイル

ミッションヒルカントリークラブビレッジの中の一棟、夫妻は5階に住んでいる
ミッションヒルカントリークラブビレッジの中の一棟、夫妻は5階に住んでいる
ラスとシャロン・コーガン夫妻。後ろの絵はいずれもシャロンの作品
ラスとシャロン・コーガン夫妻。後ろの絵はいずれもシャロンの作品
玄関を入ったところのスペース。すっきりとして、しかもあたたかく飾り付けられている
玄関を入ったところのスペース。すっきりとして、しかもあたたかく飾り付けられている
リビングルーム。左奥にはレンガ作りの暖炉が作り付けられている
リビングルーム。左奥にはレンガ作りの暖炉が作り付けられている
リビングルームの反対側はダイニングルームだが、夫妻はTVを見たり、読書をしてくつろぐスペースに仕立てた
リビングルームの反対側はダイニングルームだが、夫妻はTVを見たり、読書をしてくつろぐスペースに仕立てた
シャロン手作りのキルトがかかったベッド。ゆったりした寝室。ここにもシャロンや彼女の娘による絵画が飾られている
シャロン手作りのキルトがかかったベッド。ゆったりした寝室。ここにもシャロンや彼女の娘による絵画が飾られている
ひいおじいさん、ひいおばあさんなど先祖や家族の古い写真が飾られている
ひいおじいさん、ひいおばあさんなど先祖や家族の古い写真が飾られている

20年来の友人のご両親が一戸建て住宅からコンドミニアム(マンション)に引っ越した。それにしても40年間住み慣れたチャーミングな家から転居したのには驚いてしまった。
ラス・ コーガン(以下敬称略)は、長年家具の販売に携わったのち引退し、現在83歳。奥方のシャロンは79歳、時折り漫画家として仕事をしつつ3人の子供を育てあげ、孫達が小さい時は手助けをしたが、子供や孫に手がかからなくなった今は自由な時間を楽しんでいる。
“ゴールデン イアーズ”(Golden Years)にあたるシニア世代は、カップルで旅行をしたり、学んだり、スポーツをするなど活発である。からだも気持ちも健常で、ゴールデン イアーズ世代の典型コーガン夫妻は、コンドミニアムに移ることで、一戸建て住宅の手入れにかかる時間と費用を他の楽しみに当てるというスマートな暮らし方を選択した。

制約はいろいろあるが、安全安心な暮らし

夫妻が住むコンドミニアムは35年前に建てられたミッションヒル・カントリークラブビレッジにあるゲイティッドコミュニティだ。外来者はまず遮断機の降りた門番小屋で停車。門番が訪問先へ電話で問い合わせをして確認がなされると初めて踏切ゲートが上がり、訪問先をめざして車を走らすことができる。 外周はゴルフカントリークラブのグリーンが広がり、一戸建てとタウンハウス、そして8棟のコンドミニアムがグリーンに添って建っている。夫妻が住む棟は5階建て。落葉はき、雪かき、芝刈り、そしてさまざまな修理はこれまで頭痛の種だったが、今は、月3万5,000円払う管理費の中からコンドミニアム側が肩代わり。ただ、建物は60戸の共同生活なので、早朝や夜間、週末の配達はトラックの騒音を防ぐために禁止、ペット飼育は不可、食器洗浄機の稼働は夜10時までなど、一戸建て住宅に比べるとかなりの制約がある。この棟の居住者は、所得水準からみて中の上レベルの一人暮らしか夫婦だけで、皆同じような暮し向きのせいかトラブルは起きていないとか。

収入にふさわしい住まいを探した末に…

コーガン夫妻が住まいを替えた理由の一つは経済的な縮小を計ったこと。夫妻が40年間住んだハイランドパーク市は固定資産税が高く、年に90万円という高額は引退したラスにとって厳しくなったため、収入にふさわしい住まいを探し始めたと言う。 2年前は不動産市場は低迷期で、売りに出した家は5,000万円の価値はゆうにあっただろうが、3,300万円でようやく売れたそう。しかしその代わりに1,665万円で168平方メートル、2BR2バストイレのコンドミニアムが入手できた。この価格は数年前の何と3分の1の価格だそうで、夫妻は8~9軒の物件を見たあとで直ちに決めたと言う。築35年の中古ながら改修する部分はほとんどない。コンドミニアムの固定資産税は年に18万円で、年90万円に比べたら遥かに楽だ。家を売った差額の1,000万円余りで、今後の管理費や税金を充分に賄えるだろうと、夫妻は肩の荷がおりた様子。

足腰も弱り、階段の昇降、住宅の管理がやっかいに

転居のもうひとつの理由として、シャロンの膝が悪化し、2階への上り下りや家の外回りの手入れが重荷になった点があげられる。室内をいくらバリアフリーにしてもアメリカの多くの一戸建て住宅は2階が寝室になっているし、地下室には洗濯機や乾燥機などが置いてあり、日常階段の上り下りは避けられない。車社会のアメリカでは多くのシニア達がひざや腰に障害が出てきて平屋でないと暮せなくなる傾向にある。 雪かきや芝刈り、掃除などは人を雇うにしても、電球が切れたの、玄関のたたきにひびがはいった、ボイラーの調子がおかしい、など、シルバー世代にとって一戸建て住宅の管理は加齢と共にやっかいになってくる。

車社会のアメリカで、運転ができなくなったら…?

幸い夫妻は車の運転はまだできるので、毎日あちこち出かけて楽しんでいる。シャロンは絵のクラスに通ったりキルトを作ったり…。ラスは政治や社会動向を討論するグループに属している。これらは市のシニアセンターのプログラム。また、2人で週に2度は図書館で催される映画を見に行くそうで、いずれも無料である。病院、食材店など日用に必要な品はすべて近隣にあるが、歩ける距離ではない。 ノースブルック市はシニアにタクシーの値引き券を出してはいるが、アメリカの郊外はどこでも車なしでは不便だ。「車を運転できなくなる日がいつか来るかもしれないなんて以前には考えもしなかった」とシャロン。しかし、電車で身動きできる都心のコンドミニアムは中古物件でさえ非常に高価なのと、区域によっては危険が多い。 ともあれ、活動的なコーガン夫妻をはじめ、ゴールデン イアーズ世代は車の件など困難があるにせよ、将来合理的な方法をみつけてゴールデン イアーズを謳歌してゆくに違いない。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。