海外トピックス

2013/2/20

vol.221 空飛ぶホワイトハウス

スミソニアン エア&スペース ミュージアム。歴代の飛行機が展示してあるが、エアフォース ワンは海軍によりしっかりと護衛され、一般に公開されていない(ワシントンD.C.以下同)
スミソニアン エア&スペース ミュージアム。歴代の飛行機が展示してあるが、エアフォース ワンは海軍によりしっかりと護衛され、一般に公開されていない(ワシントンD.C.以下同)
ミュージアムには、月に到達したアポロも展示してある。エアフォースワンはアポロ以降、最も新しい航空技術を採り入れている
ミュージアムには、月に到達したアポロも展示してある。エアフォースワンはアポロ以降、最も新しい航空技術を採り入れている
ホワイトハウス。ここで大統領は執務をとる。また、大統領一家の住まいでもある
ホワイトハウス。ここで大統領は執務をとる。また、大統領一家の住まいでもある
ホワイトハウス(反対側)。大統領はここからヘリコプターで海軍基地にあるエアフォースワンへと移動する
ホワイトハウス(反対側)。大統領はここからヘリコプターで海軍基地にあるエアフォースワンへと移動する
「空飛ぶホワイトハウス」、エアフォースワン(イラスト筆者)
「空飛ぶホワイトハウス」、エアフォースワン(イラスト筆者)

大統領専用機“エアフォースワン”は、別名「空飛ぶホワイトハウス」と呼ばれる。真っ白と薄いブルーをベースに、濃いブルーのラインが中央に入り、「UNITED STATES OF AMERICA (ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ)」の文字が機体にくっきり描かれている。後方には小さな星条旗。
エアフォースワンは大統領を目的地へ運ぶだけでなく、「オフィス」としての機能を充分に備えたコンパクトな住まいである。クリントン元大統領は、同氏がホワイトハウスからカリフォルニアへ移動するときの様子をドキュメントしたテレビ番組『エアフォースワン』(ナショナルジオグラフィック社制作)の中で、「5時間のフライトの間、不必要な電話や用件は取り継がれず仕事に集中できるから、ここでは非常に能率があがる」と述べている。
大統領はアメリカのすべてを仕切る舵取り。軍事においても全責任を負うチーフなので、常に最善のコンディションを保てるように、あらゆる面において工夫されている。

オフィス、会議室、寝室、食堂完備。医者や料理人も同乗

空飛ぶホワイトハウスはどれ位の広さか? ボーイング747機で3階建ての特別仕様、合計372平方メートルの居住面積である。日本-シカゴ間の飛行に多く使われるのも同じボーイング747だが、エコノミークラスだとぎゅうづめで、機内が広いという感覚には程遠い。 400人位の乗客数に比べ、大統領機は80人前後の乗客数だから広々しているのは当然で、庶民の旅とは格段の差。エアフォースワンの内部には大きな大統領専用オフィス、会議室、居間、寝室、シャワーや食堂。階下には機関士やシニアアドバイザー、シークレットサービス、大統領付き報道関係者、ゲストの各オフィススペースもとられている。医者が常に同乗し、医療器具が揃い機内で簡単な手術も可能。世界広しと言えども、料理人が機内のキッチンで実際に調理し、100人の食事を食卓に出せるのはエアフォースワンだけだろう。

テロ攻撃直後、全米でただ一機飛び続けた「エアフォースワン」

2001年9月11日、フロリダでテロ攻撃の報告を受けたブッシュ大統領(当時)は、即座にエアフォースワンに乗り込み離陸、上空から各首脳と交信し、指令を出した。第2次世界大戦中に国際間を行き来する必要からフランクリン・ルーズベルト大統領が空飛ぶホワイトハウスを提唱、大統領専用機が実現して以来、この時は大統領が初めて緊急事態に直面した歴史的な瞬間だったろう。いつもは5機も6機も上空に忙しく行き交っているのに、テロ攻撃当日、飛行機は全くかき消えてしまっただだっ広い空だった。アメリカ中が異様な空気に満ちていた朝を思い出す。 その時、全米でただ一機の例外はエアフォースワン。地上のテロ戦を避けるために、めざす地点なしに上空を飛び続け、大統領は地上と交信していたのである。この日を貴重な教訓として新たに改造を加えた新エアフォースワン機は、以後、危険に満ちた中東への旅を大統領と共にすることになる。

世界中の国と交信可能、核弾道ミサイルも搭載

エアフォースワンは最高の頭脳が結集した住まいと言える。空中で給油可能、最新の電信及びサテライトコミュニケーションを備え、87本の電話回線は世界中のどの国(自由主義圏)とも会話が可能。そしてこの「住まい」の安全性については全米一だ。大統領の安全確保のために核弾道ミサイルを装填、大統領専用車を機内に収納してあり、世界中どこへ行ってもエアフォースワンが地上に着陸するやいなや、爆弾も防ぐ装備付き専用車で機敏に行動に移せる。 こうしてみるに、エアフォースワン機の住人としての権限の大きさには驚くが、興味深いのは大統領の任期が終われば、次の大統領にエアフォースワンは引き継がれるということだ。自己で所有するわけではないから、賃貸のようなもの、と言ったら失礼だが…。 それにしても、空飛ぶホワイトハウスは、王様でも金持ち個人の所有物でもない。国民によって選ばれた大統領により使われる。だからエアフォースワンは、アメリカ民主主義のシンポルとも言えないだろうか。閣僚が乗り込み、目的地に向かいながら飛行中に会議が行なわれる事もしばしばあるそうだが、大統領以下トップが揃い、熱のこもった空飛ぶホワイトハウス会議室内の様子が目にみえるようだ。


(注)エアフォースワンというのは、厳密に言えばアメリカ合衆国大統領が搭乗した場合にのみ使われるコールサイン(radio call sign) であって、このジェット機はアメリカ空軍に属する『エアフォース ボーイング747機』である。大統領が乗っていない時や、飛行中にもしも大統領の資格を失った場合(任期が切れたとか)には、同じエアフォースワン機であってももうエアフォースワンとは呼ばない。


参考資料
“Inside American Power:Air Force One”
“On Board Air Force One”
“ National Geographic documentary films”
www.af.mil/information/factsheets/factsheet.asp?fsID
www.whitehousemuseum.org/special/AF1/index.htm
www.boeing.com/defense-space/military/af1/index.html


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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