海外トピックス

2013/3/21

vol.223 パーソナルシェフ

自慢の台所用品が揃ったダイアンのキッチン。特に写真中央の赤い色の巨大なブレンダーはプロとして欠かせない製品(イリノイ州シカゴ市、以下同)
自慢の台所用品が揃ったダイアンのキッチン。特に写真中央の赤い色の巨大なブレンダーはプロとして欠かせない製品(イリノイ州シカゴ市、以下同)
広々とした居間。ダイニングテーブルの上には作りかけのジクソーパズルが…。熱中していると気持ちが落ち着くそうだ
広々とした居間。ダイニングテーブルの上には作りかけのジクソーパズルが…。熱中していると気持ちが落ち着くそうだ
ダイアンの部屋はのんびりと寛げ、つい長居をしてしまう。犬達もひとなつっこい
ダイアンの部屋はのんびりと寛げ、つい長居をしてしまう。犬達もひとなつっこい
ダイアンが愛用する年代もののティーセット。柔らかく明るい緑も気持ちを穏やかにする
ダイアンが愛用する年代もののティーセット。柔らかく明るい緑も気持ちを穏やかにする
エリーとピート。エリーはハリケーンカトリーナより救出されたシェルター犬。ピートもシェルターから。ダイアンは忙しい時間を割いてシェルターの犬達を散歩に連れ出すボランティアもしている
エリーとピート。エリーはハリケーンカトリーナより救出されたシェルター犬。ピートもシェルターから。ダイアンは忙しい時間を割いてシェルターの犬達を散歩に連れ出すボランティアもしている

ダイアン (Diane Botica: Product and Development Specialist) は特定の顧客に食事を作る“パーソナルシェフ”。
パーソナルシェフ とは、仕事に忙しく、買い物をしたり献立を考え料理を作る時間がない、しかし、満足のいく食事を自宅で食べたい、という人達のために料理を引き受けるビジネスである。
ダイアンの成功の秘訣はおいしい夕食を用意するだけでなく、いつも楽しさと変化と驚きとを料理に付け加える点にある。ニューオーリンズのマルディグラ(謝肉祭中に行なわれるパレード)は有名だが、例えばその時期の献立にはジャンバラヤとクロゥフィッシュ(ざりがに)のクリオール料理を中心に。また、顧客一人一人の嗜好(菜食主義とかダイエット中)に合わせてきめ細やかに調理する。
専門のシェフを雇って毎日食事を作ってもらうのは有名人かお金持ち、プロのスポーツ選手だけ、と思っていたが、働く女性が急速に増え、しかも専門職や重要なポジションにつくようになった現在は、女性にも充分に賄えるだけの収入があろう。ご主人がいたとしても、パーソナルシェフに料理は任せて、後顧の憂いなく仕事に専念、という選択肢もあるのだ。

バラエティ豊かなメニュー、特別な日にはデザートも

ダイアンが顧客に用意した1週間(5食分)のメニューを書き出してみよう。 ――緑野菜と、焼いた栗入りのラディチォ(美しい赤い葉でレタスのような野菜)に入ったサラダ、バターナットスクワッシュ(かぼちゃ)とシチュー ――ゆっくりと煮込まれ特別なソースがかかった牛肉と野菜 ――魚(モンクフィッシュ)及びマンゴーサルサと味噌をからめたいんげん ――プロヴィンス風に下味をつけた串ざしの鶏肉と野菜が味付けたライスの上に盛られたもの ――じっくりとシェリーで煮つめた牛肉入りのカントリー風ミートパイとマッシュポテト、野菜サラダ 加えて… ――バレンタインの日のデザートとしてマカデミアペースト入りのチョコレート

弁護士コースを卒業。法廷と食材店で働きながら勉強

フュージョン料理がダイアンの得意。アメリカはいろいろな国から来た人々で成り立っているので、多様な料理が存在する。それらを組み合わせてユニークな料理に作り上げるフュージョン料理は創造的なセンスが必要だ。ダイアンは毎日沢山の本を読み、ネットも調べ、アンテナを伸ばして料理やアート、最先端の出来事を知ろうと努力している。もともと母親が創造的な女性だったらしく、その影響か、8歳の時にスフレを作ったのがダイアンの最初の料理体験というからキャリアとしては相当なものだ。 しかし父親の希望で弁護士になるコースを選ばざるを得ず、法学部で勉強し、卒業後も法廷とグルメの食材店という2つの仕事場で働き続けたそうである。 その後、念願かなって入学した料理学校では、料理の技術だけでなく、料理をビジネスとしてどう開発するかに焦点を絞って学んだと言う。

顧客の条件に合わせた料理を、週に1度まとめて調理し配達

パーソナルシェフは、今脚光を浴びている新しいビジネスだが、ダイアンの場合は広告を出しているわけではなく紹介のみで現在は手一杯。問い合わせがあると料理の好みなど質問形式の文書にまず答えてもらい、その後面接し双方納得がいくまで話し合う。そして楽しいアイディアを盛り込んだ献立を考え、食材を購入。有機栽培の野菜や果物、チーズや魚、肉などを特別なルートで手に入れる。 夏にはシカゴ市のコミュニティガーデンで野菜を彼女自身で有機栽培。それらをレンタルキッチンで料理した後にパックして、現在12人から15人いる顧客の自宅に週に1度まとめて、プラスティックや紙、アルミニウムなどリサイクルできる容器に入れて届ける。いつ解凍するか、どれ位の時間オーブンに入れるかなどの指示も同封して。価格は2人分2週間の夕食分で約3万4,200円。高いか安いかは顧客の解釈の仕方によろう。

大企業のコーポレートシェフとしても活躍経験

コーポレイトシェフ(会社所属のシェフ)として2,400人の従業員の食事を毎日賄った時もあったそうだが、料理を作るだけでなく、動きが早くストレスの多い職場で働く彼等に、ただ腹を満たすだけでなく、良い食べ物とは一体全体何か?と教育も行なったという。 結婚式や記念日、同窓会やさまざまなパーティなどの料理も引き受けるが、そんな場合はカクテルを作るプロのバーテンダーや飾り付けをするデザイナー、デザート専門の菓子職人、駐車を仕切る世話係まで雇って全体をまとめる。 シェフとして忙しい毎日だが、変化に富む日々が好きだと言う。つらいのは1日12時間から15時間働き続けたり真夜中に調理する時もある厳しい労働条件。さらに、普通の人が休む祭日に働かねばならない事が多いのも…。しかしそのかわりに自分でスケジュールを作れるから休みをとって旅行に出かけるのは楽しみのひとつ。 ダイアンは、この仕事は「冒険的で創造的でもある」と言うが、彼女の人生そのものが冒険的で創造的であろう。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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