海外トピックス

2013/4/4

vol.224 ラグディール(その1) ~広大な空間を、創作活動の場に

門からドライブしてゆくと、54エーカーの広い敷地内の正面にラグディールの中心である屋敷が現れる(イリノイ州レイクフォレスト市 以下同)
門からドライブしてゆくと、54エーカーの広い敷地内の正面にラグディールの中心である屋敷が現れる(イリノイ州レイクフォレスト市 以下同)
ラグディールフォウンデーションについて説明してくれるシンシア・クウィックさん。敷地に点在する一つの建物がオフィスとして使われている
ラグディールフォウンデーションについて説明してくれるシンシア・クウィックさん。敷地に点在する一つの建物がオフィスとして使われている
数年前に建て直されたプレィリースタジオ。ここにアーティストが2週間から4週間滞在して制作する
数年前に建て直されたプレィリースタジオ。ここにアーティストが2週間から4週間滞在して制作する
プレィリースタジオの内部。この時はちょうどアーティスト達の入れ替え時期で誰もいなかった
プレィリースタジオの内部。この時はちょうどアーティスト達の入れ替え時期で誰もいなかった
数年前に筆者が滞在したスタジオ内部
数年前に筆者が滞在したスタジオ内部
夕食にはアーティスト全員が食堂に集まりおしゃべりしながら親交を深める。夕食は毎晩違ったメニューがシェフによって料理される
夕食にはアーティスト全員が食堂に集まりおしゃべりしながら親交を深める。夕食は毎晩違ったメニューがシェフによって料理される

54エーカーに及ぶ広大な土地、ラグディール はもともとは個人の所有地だった。しかし、現在その場所は、詩人、小説家、音楽家、ビジュアルアーティストなどを短期間招き創作活動をする場所として使われている。滞在期間中に数々の名作がそこから生まれる可能性も…。
これはアーティスト イン レジデンスプログラムと言って、領地内に点在しているいくつかの建物に、全米ばかりでなく、世界各地からクリエイティブな人々が選抜されて招かれ、個室や個別のスタジオが与えられ、2週間から4週間滞在して創作活動に励むというもの。彼等にとっては「天国」のような環境と言ってよいだろう。なぜならここでは世の中の雑事に一切煩わされることなく、24時間、各人のペースで自由に創作活動のみに集中できるから。
このアーティスト イン レジデンス プログラムはラグディールファウンデーションの三大活動のうちの一つだが、第二の活動として、さまざまなイベントを通して一般の人々にラグティールを紹介したり地域との交流を図る「コミュニティプログラム」もある。第三は歴史的遺産であるラグディール全体の保存である。

外界とは遮断。何をしても自由

筆者は数年前にアーティスト イン レジデンスとして2回招かれ、それぞれ2週間ずつラグディールに滞在した経験がある。シカゴから北へ1時間半位のドライブで、富裕階級が住むレイクフォレスト市にあるラグディールに着く。周囲は森林に囲まれた閑静な住宅街だから、外界と遮断されて創作活動に専念できる。散歩やジョギングをして鳥達や動物としばしば出くわすことがあっても、人とはめったに行きかわない。 プログラムに応募するには、ラグディールでどんなことをしたいかの提案(プロポーザル)を自分の作品の写真と推薦者による推薦文を添えて年に2回の締め切り日までに提出する。ラグディール側では応募者の名前を伏せて各分野の専門家達による厳正な審査を行ない、毎回12人前後のさまざまな分野のアーティスト達を選出。選ばれたアーティスト達は滞在期間中に各人のペースで創作活動を進め、ラグディール側ではできうる限り静かで自由な環境をアーテイストに与える配慮をしている。その期間には外部からの見学者は受け入れないし、ラグディール側では制作具合などはチェックしない。夜に制作しようが一日中本を読もうが森を歩き回ろうが、ここではアーティストに完璧な自由が与えられている。

アーティスト同士、刺激を与えあう場にも

アーテイスト全員で囲む夕食は、アートを共通言語として話題がはずみ、それが創作へのインスピレーションにつながることも少なくない。英国から招かれた詩人のコメントを思い出す…、「まだ暗い早朝、湖へ泳ぎにゆき(注:ラグディールはミシガン湖に近い)、真っ暗な水の中にもぐって待っているの。やがて朝日が水平線からあがるその時、水面にあぶくが突然オレンジ色に一瞬輝く」。 この詩的イメージは画家や演奏家にも新鮮な印象を与えたに違いない。また、イリノイ大学教授でもある作曲家が「草原(注:54エーカーの敷地内でプレィリーとして保護している草原地帯)でゆうべは地べたに寝たんだけど、静かだと思いきや、けっこう賑やかなんだ。漆黒で何も見えないけど、いろいろな音がするんだよ。虫や動物が動き回る音、植物もきっと活動しているんだね」。 話題が広がり、各人のイメージがふくらんでゆく。そんな時間を共有し合うのは学生時代ならいざ知らず、社会人になると機会は稀となる。ビジュアルアーティストでも詩人でも音楽演奏家でも、創造のプロセスは異なるかもしれぬが、こういった刺激は創作活動の栄養素である。

日常を忘れることで、才能を引き出す機会を創出

ラグディール ファウンデーションのシンシア・クウィックさん (Director of Communications and Programs) が興味深い例を話してくれた。 ある小説家が選ばれて2週間のレジデンスとしてやってきたが、最初の日は一日中部屋で死んだように寝ていたそうである。翌日は半日以上寝ていた。3日目になって周囲を散歩したり、他のアーテイスト達ともしゃべり始めた。やがて机に向かう時間が少しずつ増えてき、後半は爆発的な集中力でいくつかの短編を完成したそうである。 彼女には小さい子供達が2人いる家庭があり、普段の生活は超忙しく創作活動どころではなかった。応募して選ばれた時には子供達の世話を何とか手配し、日常の生活から彼女自身を隔離させ、創作活動にとりかかれたのだという。 ラグディールはこのようにアーテイストが元来持っている才能を引き出す機会をも与えるのである。 次回詳しく述べるが、このアーティスト イン レジデンスプログラムは1976年、建物及び領地の継承者の一人であるアリス・ヘイズによって設立された。アリスはアーティストであり、筆者がラグディールに滞在中、ふらりとスタジオにやってきて、ラグディール敷地内にいくつか置いてある彼女が制作した彫刻を説明してくれた。当時90歳はすぎていたと思うが、凛としたアーティストという印象を強く受けた。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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