海外トピックス

2013/6/20

vol.229 ミツバチハッチの謎の失踪

庭に咲いたリンゴの木。紅の蕾がひらくとピンクから白に変わってゆく(イリノイ州シカゴ市。以下同)
庭に咲いたリンゴの木。紅の蕾がひらくとピンクから白に変わってゆく(イリノイ州シカゴ市。以下同)
ミツバチがやってきて蜜を吸っている。開花の時期は沢山のミツバチが忙しく行き交う
ミツバチがやってきて蜜を吸っている。開花の時期は沢山のミツバチが忙しく行き交う
花が落ちるとリンゴの実が育ってゆく。このリンゴの木は、野菜などを捨てる場所から芽が出て大きくなった。収穫が待ち遠しい
花が落ちるとリンゴの実が育ってゆく。このリンゴの木は、野菜などを捨てる場所から芽が出て大きくなった。収穫が待ち遠しい
ログキャビンに住むローラはミツバチを飼っている(インデアナ州ニューハーモニー市。以下同)
ログキャビンに住むローラはミツバチを飼っている(インデアナ州ニューハーモニー市。以下同)
本職はテキスタイルデザイナーだが、畑仕事も好きなローラ。野菜やミツバチなどがしばしば作品に表れる
本職はテキスタイルデザイナーだが、畑仕事も好きなローラ。野菜やミツバチなどがしばしば作品に表れる
さまざまな野菜が夏中採れる。ミツバチは野菜が実をつけるのに欠かせない
さまざまな野菜が夏中採れる。ミツバチは野菜が実をつけるのに欠かせない

都会に住む人々はミツバチと言うと、アニメ「みなしごハッチ」か絵本「みつばちマーヤ」を思い出す人がいるかもしれないけれど、ミツバチとは暮らしにあまり縁がないだろう。シカゴの我が家の軒下に蜂の巣を見つけ、長袖シャツに帽子、マスクの完全武装で蜂の巣を落としたことがあった。黄色、特に山吹色のTシャツはスズメ蜂に狙われやすいという発見もあった。
蜂にさされてショック死、というニュースは春から夏にかけて聞く。世界には13万種の蜂がいるそうで、我が家の庭にリンゴやクラブアップルの花が咲く頃、賑やかな往来が見られるのは西洋ミツバチである。ミツバチが花粉を運んで野菜や果物が実を結ぶ役割を果たすということは小学校の理科で習ったが、もしミツバチが花粉を運ばなかったらどうなるか?実がならず野菜や果物の収穫が減り食料不足になって人類滅亡…、そんなことを誰が想像できよう。サイエンスフィクションの世界だ。
ところが、1906年頃からミツバチが突然大量に失踪する現象が世界各地から報告され、アメリカ政府ではその事実を深刻に受け止め、調査に乗り出した。

ミツバチ社会の緻密で感動的な仕組み

ミツバチは1匹の女王蜂、数百匹の雄蜂、2~3万匹の働き蜂達が巣箱(コロニー)で共同生活をする。女王蜂は卵を生む役目。雄蜂は女王蜂について集団飛行し、子供作りの奉仕のみに従事。働き蜂は気の毒なくらい忙しく働き続けて5~7週間で死ぬのである。 働き蜂の最初の2週間は巣房の掃除や餌を与えて幼虫の世話。体内からワックスを分泌して巣房を作り、運ばれて来た採取物を受け取る。翅を振るわせて巣箱の中の温度調節をしたり、蜜の濃度を高める。コロニーの警備にもあたる。成長してからは花粉や蜜、水を採集に出かける。ミツバチはだいたい半径2キロメートル位の周囲を飛び回って蜜を集めるが、1匹のミツバチが一生かかって集められる蜂蜜はわずかティースプン1杯だそう。飛んで行ったミツバチが巣箱へ戻るには、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、地磁気の感知能力などを総動員させるらしい。さらにミツバチはダンスをしてその動きの激しさなどでどこに花があるか、蜜が充分ある場所かなど、仲間同士で知らせ合う。自然界におけるこの緻密な仕組みは感動的という他はない。

養蜂業者がミツバチを飼育、受粉を促進

ところが20世紀になってから自然のミツバチが減り、現在では養蜂業者がミツバチを飼育、管理するようになった。アメリカは土地が広いせいもあり、カリフォルニア州では大農場で野菜や果物が大量に生産される。そのため受粉させる多量のミツバチが必要で、花が咲く時期には養蜂業者が大きなトレーラーで数十個の巣箱に入れたレンタル用のミツバチを農場へ運んでくる。例えば、カリフォルニア州のアーモンドの花が咲く早春、養蜂業者は巣箱からミツバチを出して受粉させる。それが終わると次はワシントン州の農場へ移動しブルーベリー受粉、次はウィスコンシン州に移動、という具合に、季節に合わせてトレーラーで全米を回る。ビジネスとして、ミツバチが生産する蜂蜜の収益よりレンタル収益の方が多いからだ。

養蜂ミツバチの4分の1が突然失踪

数年前からミツバチが突然いなくなる現象、Colony Collapse Disorder (蜂群崩壊症候群)が全米各地で突発し、アメリカでは養蜂業者のミツバチ全体の4分の1が失踪してしまった。アメリカ農林省 (U.S. Department of Agriculture/USDA) は、科学者や大学、環境庁などの専門家達を動員して調査を開始したにもかかわらず、原因は依然謎に包まれている。 殺虫剤の大量使用、遺伝子組み換えの農作物の影響、何らかの病気やヴィールス、全米を旅するストレス、オーストラリアから輸入したミツバチが病原菌を持っていたとか、数年来の異常気象で早く花が咲いてしまい、みつばちが蜜を得る時期に花が枯れ落ちてしまったとか…。 なんらかの原因で巣箱に戻ってくる能力を失ってしまったのだろうか。いくつか原因が重なり合っているのだろうし、天然のミツバチでなく、養蜂業者のミツバチにColony Collapse Disorder が起きている、というあたりに解明の鍵がありそうだが…、対策には時間がかかりそうな様子。

自宅でミツバチを飼う人々が増加

蜂の大量失踪に不安をいだき、その事態を深刻に受け止める一般の人々も増えてきた。植物園や自然公園でミツバチの生態や蜂蜜を集めるプロセスを紹介し、理解を求めるためのプログラムも増えた。自宅で蜂を飼って蜂蜜を集める友人も結構多い。 インディアナ州に住むローラの本職はデザイナーだが、趣味にミツバチを飼っている。「マスクをしてでき上がった蜜を集めるのは楽しいけれど、何よりもうちの野菜にミツバチが必要じゃない?」と主張する。 都会のニューヨークでミツバチを飼う人々が増え、近隣から蜂が飛び回り、刺される危険がある、と裁判沙汰になった。アマチュア養蜂家達 (bee keepers) は屋上に蜂の巣を設置するので、蜂が周辺を飛び回るのは避けられない。しかし、訴えは却下され、アマチュア養蜂家達はこの騒ぎで人類の生存に蜂がいかに大切か訴える良い機会になった、と前向き。 リンゴの花にミツバチが群れ、実がなって小鳥が食べて、種を土に落とし、その種が育ってまたリンゴがなってゆく。ミツバチの失踪はそんな自然の循環プロセスに警鐘を鳴らしているのではないだろうか。


参考資料
http://vimeo.com/26744158
www.wnyc.org/articles/wnyc-news/2012/jun/25/urban-bees-may-be-running-out-foraging-ground
www.epa.gov/pesticides/about/intheworks/honeybee.htm
www.tamagawa.ac.jp/hsrc/contents/pages/beebook/youhouka.pdf


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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