海外トピックス

2013/8/6

vol.232 「ペット可」は賃貸満室の決め手に?

アメリカではペットは家族の一員だ。ヨニ(左、シェパード)は強そうだが、実はジェシー(右、ボロニーズ)が親分(イリノイ州ハイランドパーク市)
アメリカではペットは家族の一員だ。ヨニ(左、シェパード)は強そうだが、実はジェシー(右、ボロニーズ)が親分(イリノイ州ハイランドパーク市)
パピヨンなどのミニチュア犬は多くの賃貸アパートで許可される(イリノイ州シカゴ市。以下同)
パピヨンなどのミニチュア犬は多くの賃貸アパートで許可される(イリノイ州シカゴ市。以下同)
独身で仕事を持っている多くの女性が犬を飼っている
独身で仕事を持っている多くの女性が犬を飼っている
気立てはやさしく従順にもかかわらず、ロットワイラー、ピットブル系の犬は賃貸アパートへの入居を断られるケースが多い
気立てはやさしく従順にもかかわらず、ロットワイラー、ピットブル系の犬は賃貸アパートへの入居を断られるケースが多い
ペット可のアパートに2匹の犬達と住むダイアン。ピートとエリーはいずれも雑種で、シェルターから貰い受けたそう
ペット可のアパートに2匹の犬達と住むダイアン。ピートとエリーはいずれも雑種で、シェルターから貰い受けたそう
条件付きの「ペット可」賃貸アパートで、猫はそれほど問題はないようだ
条件付きの「ペット可」賃貸アパートで、猫はそれほど問題はないようだ

「ペットフレンドリーの賃貸住宅」は、満室へと導く鍵を握っていそうな気配。
アメリカには1970年代に6,400万匹のペット(犬と猫)がいたが、40年後には約2.5倍に増え、現在は1億6,400万匹という。アメリカの人口は約3億140万人だから、数字で見る限りだが、2人に1人は何らかのペットを飼っていることになる (www.humanesociety.org)。
ということは、賃貸アパートをペット可にした場合、潜在的な入居者をかなり取り込む可能性があるはず。もっと言うと、前述したペット数のうち5,280万匹は犬だから、例えば賃貸で犬を閉め出していたら多くの借り手を自動的に失なっているともいえるわけだ。
特に賃貸のターゲットである若年層は、結婚時期も子供を持つ時期も年々遅くなり、代わりに犬や猫を飼う傾向が顕著に見られる。犬の散歩なら気軽に声をかけあえる。ドッグビーチ(犬を放せる湖岸部分)はさながら社交場。友だちを得るよい機会にもなっているようだ。犬を飼いたい人々が増えるのもうなずける。
では、賃貸住宅をペット可にした場合、どのような注意が必要だろうか?

重量制限、犬種などを入居条件に

賃貸で「ペット」と言うと、たいていは猫と犬をさす。猫は匂い(マーキング)と壁や床のダメージ、犬は吠える声が隣近所にうるさい、かみつく、散歩に出す必要があるため階段やエレベーターが汚れる、犬嫌いや犬を怖がる他の住民に迷惑…、などの問題が起きてくる。さらにアパート全体が「ペット可」になると、何匹かの犬達がその建物に住むようになり、共有の庭があれば犬同士のテリトリー争いが起きる。
これらを解決するのに「条件つきのペット可」にするというのは一案であろう。賃貸オーナーによってその「条件」はさまざまだが、例えば10kg以下なら許可、という重量制限が圧倒的に多い。パピヨン、チワワ、ポメラニアンなどのミニチュア犬や小型犬だ。犬の種類が条件としてあげられることもあり、ジャーマンシェパード、秋田犬、ロットワイラー、ピットブルなどの品種は攻撃的で危険、と考える人もいるから、これらの品種を除く犬をペット可の条件としている賃貸が少なくない。

犬と飼い主の関係を見抜くことも重要

犬と借り手に面談してから決めるのもよくとられる方法だ。犬へのしつけが充分でないと配達人や客に飛びついたり室内を荒らしたりする。また、犬に愛情を注ぎ過ぎると、飼い主が出かけている間中、不安で鳴いていることがしばしばある。犬や猫を放任する飼い主だと、ノミが増えたりフンの後始末の問題も…。
犬の行動の責任の大半は飼い主にあるから、短時間の面談の間に、飼い主と犬との様子を見ることも重要だ。
賃貸住宅で歓迎されるミニチュア犬は神経質でよくほえる犬が多い一方、危険視されるピットブルや秋田犬の多くはめったにほえないし従順でおとなしい。だからサイズや品種を入居条件とするのはベストとは限らない。犬や飼い主にもよるのだ。
「・・・・・・ちょっとまずいかも?」と面談で感じた場合、断るのは残念だが、日本人に比べてアメリカ人はイエス、ノーをはっきり言うせいか、賃貸アパートオーナー側は直裁に断るようである。

ペット分の家賃を上乗せ、問題があれば即契約解除

犬の手付け金を始めに請求する賃貸オーナーも多く、床や壁へのダメージはそこから差し引く。ペット分を月々の家賃に上乗せする賃貸オーナーもいる。
賃貸住宅のサイトを「ペット可」で検索すると、通常の家賃に加え、犬の手付金額や条件がリストアップされているケースが目につく。シカゴ市都心は家賃も犬の手付金も高く、1BRで家賃が13万円から18万円。ペットは約3万7,500円の手付金と月々2,500円といったところ。重量制限や犬の種類別の条件付きが大半だ(/www.peoplewithpets.com)。
都心から20km離れたロジャースパーク界隈は湖岸や公園が多く、ペットフレンドリーな地区として知られる。1BR家賃で9万円前後。ペットは無料から2万円の手付金、無料から月々2,000円前後ペット分を家賃に上乗せした物件が多い(www.apartments.com)。
ペットを受け入れる際には、口頭だけでなく、文書にして条件を契約書に含め、互いに了解し合うことが最も大切であろう。忘れてならないのは、他の犬との喧嘩や人に噛み付いたなどの事故、ペットの数の制限、隣近所から苦情がきた場合にはリース(賃貸の契約期限)がまだ残っていても契約を解除することをあらかじめ契約書に含んでおくことだ。

ゲーム感覚の広告に、30万人のアクセス!

ペット可はマーケティングツールとしても効果的。ペットは人目を引き、何よりインパクトがある。ユーチューブで30万人が見て大ヒットを飛ばしたというペット可の賃貸募集広告、「この絵の中から犬がどこにいるかみつけてごらん!」。似たような子供のゲームからヒントを得て、アパートのベッドルーム、洗面所、キッチン、居間等それぞれの写真のなかでどこに犬が隠れているか探すというもので、牛くらい大きいグレートデンのおでことかしっぽが、キッチンカウンター、ベッドの下、ソファの蔭からちょこんと見え隠れし、巨大な犬だけに何とも愛嬌がある。この物件はすぐに借り手がついたそう(Chicago Tribune newspaper 05/19/2013)。
ペットと飼い主、そして隣人が共生できるペット可賃貸アパートの提供は、需要が増しているだけに一考する必要があるまいか。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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