海外トピックス

2013/9/20

vol.235 「犬の保育園」 ~フルタイムで働く人々に福音

ボニー・レムペリスの保育園は楽しい壁画が一杯に描かれている(シカゴ市 Central Bark
ボニー・レムペリスの保育園は楽しい壁画が一杯に描かれている(シカゴ市 Central Bark
 owner Bonnie Lemperis)
owner Bonnie Lemperis)
ブティックも兼ねている
ブティックも兼ねている
壁がおしゃれな色に塗り分けられた室内の運動場
壁がおしゃれな色に塗り分けられた室内の運動場
室内運動場から遥かに庭を望む
室内運動場から遥かに庭を望む
保育園を経営するかたわら、ボニーは4匹も自分の犬を飼っている。捨て犬や迷い犬を放っておけないたちなのだろう
保育園を経営するかたわら、ボニーは4匹も自分の犬を飼っている。捨て犬や迷い犬を放っておけないたちなのだろう

フルタイムの仕事を持ちながら、犬を飼っている人が予想外に多い。長時間犬を一人で放っておいて大丈夫なのだろうか?
丸一日留守の間に吠えたり散歩(つまりおしっこなど)の心配は?犬がひとりぼっちで毎日過ごすのは孤独にすぎないか? 広い牧場で自由に走り回れるのならいざ知らず、都会の住宅事情では犬を飼うのは夢だ。
しかし、狭いマンション住まいでも犬を飼いたい人々が周囲に増えている。そんな需要に応えてか、子供を預けるのと基本的には同じシステムの犬の保育園が盛況と聞いた。親(飼い主)が出勤前に犬を保育園に預ける。保育園では犬の健康などを親に問診したあと、犬達は庭で他の犬達と遊び始める。沢山の遊具があってそれらに飛び乗ったり、くぐったり、追いかけっこをしたり…、保母さん(トレーナーだが)も交えて楽しく午前中いっぱい遊ぶ。それから待ちに待ったお昼ご飯(犬によりダイエットが違うので、飼い主が用意)。そのあと昼寝の時間。充分に休んだあとは又みんなで広い運動場で遊ぶ。夕刻になるとパパかママ(飼い主)が引きとって家に帰る。

高収入女性の増加で需要増

社会の変化、特に女性の専門職への進出はペットの増加と無関係とは思えない。「結婚適齢期」という言葉はいまや死語となって久しいが、結婚年齢は以前より遥かに高い。自分の選択で結婚をしなかったり、離婚して一人暮らしの人々が、ペットを「仲間」として暮らすのはうなずけよう。
また、結婚して共働き、子供を持たずペットを飼うカップルも30代に多い。
ところで、家にいて犬の面倒をみられるシニアや専業主婦は別として、フルタイムで働く人々が犬を飼う場合、どのような選択肢があるのだろうか?仕事をパートタイムに変えるか、犬を仕事場に連れてゆくか?隣人家族に世話を頼み込むか?
その点、犬の保育園は最良の選択のように思えるが、保育料が高額なのが難点。ところが、専門職に就き、男性にひけをとらない収入を得る女性達の台頭がそのビジネスを可能にした。

朝夕、マイクロバスで犬の送迎サービスも

シカゴには十数ヵ所の犬の保育園がある。そのうちのひとつ、セントラルバーク(Central Bark)を訪れてみた。
ここでは20頭から多い時は40頭位の犬を預かるそうで、大きい犬と小さい犬とはグループ分けをしている。オーナーのボニー・レムペリス嬢(以下敬称略)は大きなシェパードを洗い終え汗みどろ、疲れていたにもかかわらず、保育園の内部を案内してくれた。
入園資格は社会化ができているか(つまり他の犬達と仲良くできるかどうか)、避姙/去勢してあるか、最低限のしつけがなされているか、各種予防注射済みかどうか、などのテストにパスしなければならない。犬に熱があったり身体の調子が悪い時は断わるそうだが、他の犬達に病気が移るから当然であろう。親とも緊密に連絡を取り合っている。
ボニーがすべての犬の名前や特徴など把握しているのには感心した。時間的に忙しい人達のためには、朝夕、マイクロバスで犬の送迎サービスもある。犬達が遊ぶエリアは、庭とは言え周囲はコンクリートの建物に囲まれ緑が少ないのが気になるが、都会では仕方がないのだろう。車の往来が激しいので散歩には連れ出さず、広い室内と庭で一日中過ごす。30数頭がごろりと昼寝する光景が見られなかったのは残念至極。

「ドッグウォーカー」は、時間単位で犬の散歩を

保育園へ入れる経済的な余裕がない、そうまでする必要を感じない、大勢の犬達と馴染めないかもしれない、他の犬から病気がうつるのが不安、などと考える人もいる。その場合には「ドッグウォーカー」に犬の世話を依頼する、という選択肢もある。
ドッグウォーカーは1日1回(あるいは何回でも)、犬を家から散歩に連れ出す。ドッグウォーカーに家の鍵を預けて、家人の留守中に犬を連れ出すので、信頼がおける人を選ぶのは当然だ。個人、グループ、保育園などでそうしたサービスを行なっており、保育園程は厳しくないにせよ、最低限のしつけや予防注射は必要である。
何匹も一緒に散歩に連れ出すウォーカーもいるから、犬同士喧嘩をしたり、すれ違う人に噛み付いたりしたらオオゴトだ。
価格の例をひとつあげると、歩く速度で30分の散歩は1回1,500円。エネルギーを充分発散する運動つき30分の散歩は1,800円。続けて頼むとか、1日1回以上の散歩は値引きがある(www.sitinchicago.com/#!)。

月額約20万円でも、リッチなビジネスマンは歓迎?

保育園の料金は、施設の内容や地域によりさまざまではあるが、朝9時から17時、5日単位で2万円から4万円程度が相場と言えようか(1ドル100円で計算)。
引き取る時間が遅くなったり、ミニバンでの送迎は価格がプラスされる。月額20万円近く見込まねばならないので、犬の保育園はリッチなコンドミニアムが多いシカゴ都心部に集中している。
「主に企業の要職や医者など専門職についている人が顧客」と、セントラルバークのシェリルは述べるが、若い女性も決して少なくないそうだ。疲れ果てて帰宅すると、犬は大喜びで出迎え、皮肉も言わず批判も決してしない。
上記のボニーは「人より犬が好き!」と笑うが、ストレスが多くて孤独になりがちな都会暮らしに犬は最適の友、と考える人が増えて来たのかもしれない。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年6月号
「特定空家」にしないため…
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/5

「月刊不動産流通2024年6月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年6月号」の発売を開始しました!

編集部レポート「官民連携で進む 空き家対策Ⅳ 特措法改正でどう変わる」では、2023年12月施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」を国土交通省担当者が解説。

あわせて、二人三脚で空き家対策に取り組む各地の団体と自治体を取材しました。「滋賀県東近江市」「和歌山県橋本市」「新潟県三条市」「東京都調布市」が登場します!空き家の軒数も異なり、取り組みもさまざま。ぜひ、最新の取り組み事例をご覧ください。