海外トピックス

2013/12/6

vol.240 ハイブリッドホリディ:感謝祭とハヌカの文化的共存 

オーブンで焼き上がった12kgの七面鳥が切り分けられる。右下はクーグルというマカロニグラタンのようなユダヤ料理(イリノイ州シカゴ市。以下同)
オーブンで焼き上がった12kgの七面鳥が切り分けられる。右下はクーグルというマカロニグラタンのようなユダヤ料理(イリノイ州シカゴ市。以下同)
ハヌカ(光の祭り)の第8日目には燭台いっぱいに蝋燭が灯される。窓越しにあちこちの家で見られる冬の風物詩である
ハヌカ(光の祭り)の第8日目には燭台いっぱいに蝋燭が灯される。窓越しにあちこちの家で見られる冬の風物詩である
右はベーグル、左はライ麦パン。いずれもハヌカで具される
右はベーグル、左はライ麦パン。いずれもハヌカで具される
ローストビーフ、パストラミ、ターキィハムなどさまざまな冷肉。真ん中は刻んだレパー。ライ麦パンにマスタードを塗ってこれらの肉をはさみ、サンドイッチにするユダヤ風の食べ方。テーブルクロスはハヌカのテーマ色の青でまとめた(フリーマン家)
ローストビーフ、パストラミ、ターキィハムなどさまざまな冷肉。真ん中は刻んだレパー。ライ麦パンにマスタードを塗ってこれらの肉をはさみ、サンドイッチにするユダヤ風の食べ方。テーブルクロスはハヌカのテーマ色の青でまとめた(フリーマン家)
サンクスギブカで沢山のプレゼントをもらう子供達
サンクスギブカで沢山のプレゼントをもらう子供達
遠くに離れて住んでいる家族が集まり、食卓を共にするサンクスギブカの祝日
遠くに離れて住んでいる家族が集まり、食卓を共にするサンクスギブカの祝日

今年は感謝祭とハヌカ(ユダヤ教の祭り)が重なるという歴史的な祝日。次に日にちが重なるのは7万9000年後(!)だそうで、一生に一度巡り会える人もそうはいないという稀なハイブリッドホリディとなる。感謝祭は家族が集まって食事を共にするアメリカの祝日で、毎年11月の第4木曜日に行なわれる。
一方、ユダヤ教の「光の祭り」ハヌカはユダヤ暦(今年は5774年)に基づき、たいていは12月だが、西暦に従うと日にちは毎年移動する。
11月28日の感謝祭とハヌカ第一日目(第二夜)が重なる今年の “サンクスギブカ”( thanksgivukkah=サンクスギビングとハヌカをつなげた造語 ) をどう祝おうかと、ユダヤ系アメリカ人達は、さまざまな楽しい工夫を凝らして、この日を迎えた。

ハヌカの料理も感謝祭風に

世界中に散っているユダヤ人達が作るハヌカの料理は、5000年余の歴史の流れの中でさまざまに変容してきているが、ジェリーをつめた揚げドーナツや、生のジャガイモをすりおろしてたっぷりの油できつね色に揚げる、天ぷらのようなラットケス(latkes=ポテトパンケーキ)など、ハヌカ期間中の料理は、儀式に用いられるメノラ(蝋燭立て)の聖油をイメージしてか、油を使った献立が圧倒的に多い。 感謝祭とハヌカを同じ日に迎えるユダヤ系アメリカ人達の家庭では、料理を感謝祭風にアレンジする。例えば、感謝祭に登場するコーンブレッドのかわりに、パンプキンハラー (challah=ユダヤ教の祝祭日に食べる縄編み状のプリオッシュのような味わいのパン)、感謝祭でのマッシュポテトやサツマイモパイのかわりにラットケス(ポテトパンケーキ)を作る。本来のユダヤ料理では揚げたてのあつあつラットケスにたっぷりのサワークリームとアップルソースをかけていただくが、アップルソースのかわりに感謝祭に具されるクランベリーソースをかけるとか、折衷案で、クランアップルソース、という手もある。 感謝祭の飾り付けは、茶色、オレンジ、赤が主調だが、ハヌカは青が主調なので、どんな風にアレンジするか…? 楽しい悩みはつきない。七面鳥をかたどった燭台(メノラ)をプロジェクトとして制作する小中学校もいくつかあるとか。

「家族仲良く」の願いが込められた祝日

感謝祭の主役はパンや、玉葱、ピーマン、栗、セロリなど、腹一杯につめものをした大きな七面鳥。テーブルにでんと居座り、グレィビィソースと甘いクランベリーソースが添えられる。マッシュポテトやさつまいも、炒めたベビーオニオン、人参、いんげんなど、入植当時を思い起させる素朴な料理の数々だ。 アップルパイやバンプキンパイはデザートの定番。感謝祭は、普段離ればなれに暮している家族や友人達が一同に集まって食卓を囲むアメリカ全国民の祝日であり、現在は宗教色はない。だが、もともとは新教とカソリックの宗教争いに端を発する。1620年、宗教弾圧から逃れてイギリスからメイフラワー号でアメリカ東海岸に無事に上陸できた人々。不幸にも彼等は東部の厳しい冬を過ごせず、大半が死亡した。翌年はそこに住むインディアン達の助けを得て、とうもろこしやジャガイモなどを収穫、無事に越冬でき、これを記念して神に感謝し、インディアン達と共に祝ったと伝えられている。 感謝祭をアメリカの祝日と設定したのは、新教徒入植から240年も経った19世紀半ばだ。リンカーン大統領が南北戦争終了後にアメリカ国民の団結を願って制定した。南北戦争はアメリカ国民がまっぷたつに分かれ、家族内でも北軍と南軍に別れて戦うような悲惨な国内戦争であったので、リンカーンは家族仲良く、という強い願いを込めたのであろう。

世界中のユダヤ人が祝う「ハヌカ」

ハヌカの起源は感謝祭に比べると遥かに昔、紀元前に遡る。イスラエルは当時シリア系ギリシャ人の支配下にあったため、異教であるユダヤ教は禁じられていた。弾圧されたユダヤ人達は紀元前165年、ついに反乱を起こす。ジェルサレム神殿を奪回したが、争いの最中、儀式の燭台を灯す大切な灯油を入れた樽をギリシャ人達に破壊されてしまう。しかし、幸いにもひと樽だけ被害をまぬがれ、その日一日だけの礼拝を執り行える灯油が残っていた。儀式が始まり、火を灯したところ、明かりは消えずに8日間も燃え続けたという。 ハヌカはこの奇跡を記念して2000年以上も続いている宗教色の濃い祭りである。第一夜の日没、祈りを唱えながら燭台に明かりを灯す。毎晩1本ずつ、8日間にわたり明かりを増やしてゆく。感謝祭はアメリカ合衆国とカナダだけだが、ハヌカは世界中のユダヤ系の人々が祝う。

料理、飾り付け、ゲームにも象徴的な意味合いが

ユダヤ教のある律法師は「ハヌカは奇跡と神からの祝福を思い起こし、いまある命に感謝の気持ちを捧げるとき。」(www.ibtimes.com/)と述べているが、ハヌカも感謝祭もいずれも起源は宗教の自由を得るための戦いであった。現在ではばらばらに別れて住んでいる家族が一同に集まって、無事息災を感謝する楽しい祝日になった。 移民で成り立っているアメリカ社会は、さまざまな人種が混じり合っている。感謝祭やハヌカは、ひとつひとつの料理の背景に故郷の国や地域、宗教などの特色が色濃く反映される特別な日でもある。料理だけでなく、飾り付けやゲームにまで象徴的な意味が含まれていたり、それぞれの民族の歴史が織り込まれてもいる。それらについて家族で語り合い、共有できるハヌカや感謝祭は、個々の文化を保ち、次世代に伝えてもゆく、素晴らしい祝日と思われる。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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