海外トピックス

2013/12/20

vol.241 外国人を取り込む新たな戦略は?

メキシコからやってきたアルトロ。取れる仕事はすべて取って精一杯の暮らしだが、アメリカに定住したいと言う(イリノイ州シカゴ市)
メキシコからやってきたアルトロ。取れる仕事はすべて取って精一杯の暮らしだが、アメリカに定住したいと言う(イリノイ州シカゴ市)
中国人は世界中に散らばっているが、いつも同胞でかたまって助け合う。ワシントンD.C.のチャイナタウン
中国人は世界中に散らばっているが、いつも同胞でかたまって助け合う。ワシントンD.C.のチャイナタウン
タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアからの人々が住むアーガイル通り。難民一世が多いせいか、チャイナタウンとは多少雰囲気が違う(イリノイ州シカゴ市以下同)
タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアからの人々が住むアーガイル通り。難民一世が多いせいか、チャイナタウンとは多少雰囲気が違う(イリノイ州シカゴ市以下同)
ソ連のペテルブルグからやってきたアドリアナ・ポテラッシ。イリノイ州エバンストン市在住。アートを専攻してアメリカ定住を決意した一世である
ソ連のペテルブルグからやってきたアドリアナ・ポテラッシ。イリノイ州エバンストン市在住。アートを専攻してアメリカ定住を決意した一世である
シカゴの日系人を支援するJapanese American Service Committee の慈善パーティ
シカゴの日系人を支援するJapanese American Service Committee の慈善パーティ
中央は日本人、右は中国人で、花嫁(左)の大学院での友人達。彼等は留学生だったが、仕事を得てアメリカ社会に溶け込んでゆくだろう。立派な若い一世達である
中央は日本人、右は中国人で、花嫁(左)の大学院での友人達。彼等は留学生だったが、仕事を得てアメリカ社会に溶け込んでゆくだろう。立派な若い一世達である

移民はアメリカ合衆国の人口増加の主導力である。駐在、留学、観光、ビジネス、季節労働者、難民、不法残留者に至るまで、アメリカには大勢の外国人が住んでいるが、祖国に帰らず合法的に定住する外国人も少なくない。
不動産市場においても、移民達が関わる不動産セールスは、現在最も新しい波として打ち寄せてきている。ジェッド スミス氏(managing director of quantitative research at National Association of Realtors) は、外国人による不動産物件購入は、全米不動産売買全体の3%を占め、(注:海外からの投資は含まれていない)、そのセールスの半分はごく最近アメリカにやってきた移民による、と述べている(Chicago Tribune newspaper 08-18-2013)。
とりわけマイアミ、サンフランシスコ、そしてシカゴはセールスが活発だが、これらの都市は移民達がアメリカにやってきて最初の足がかりとする都市だからである。

年間120万人がアメリカへ移住

ナタリア・シニアヴスカイア氏(housing policy economist at the National Association of Home Builders) は、年間120万人が合衆国に入植し、そのうちの42%はアジアから、40%はメキシコ及び南米からやってくる、と連邦政府国勢調査に基づき述べているが(Chicago Tribune newspaper 08-18-2013)、確かに、シカゴではアジア系とヒスパニック系の移民達が多く見られ、新たな入植者も後を絶たないようだ。 やってきてすぐに住宅購入に踏み切る外国人は少ない。とりあえずは賃貸住宅に入居するが、将来も合衆国に落ち着いて仕事を続けたいと願い、充分な資力があるならば、一戸建てかコンドミニアム購入に踏み切ることになろう。借り入れローン利率も不動産物件価格も共に低く、今は買い手市場であるから。 しかし、不動産取得のプロセスは生まれた国とアメリカでは異なるし、言葉の壁もあり、買うにしても、売るにしても、共に容易ではない。

ビジネス成功は、文化の違いを理解することから

カリフォルニア州不動産ブローカー、マイケル・スン・リー氏によると、移民を顧客として不動産取引をする際、ビジネスが成功するかどうかは、彼等の文化を理解できるかどうかという点にかかっている、と力説する。 例えば、顧客がアジア系や中近東の女性の場合には、オフィスで最初に会った際に握手するのは控えた方がよい。アメリカ人が握手をしてから相手と置く距離は75cmだそうだが、国によっては握手をしてそのあと一歩踏み込んでくる場合と、日本人のようにおじぎをして、さらに一歩後退するというように、文化の違いがあるそうだ(Chciago Tribune newspaper 08-18-2013)。 アメリカでは目と目を互いに見ながら話すし、アイコンタクトをきちんと取ることは正直であることを示すのだが、一方、目を伏せることで尊敬を表す、とみなすアジアの国も少なくない。ささいなことだが、知らないと誤解を生むことも。 また、日本では「四」の数字を避ける病院やホテルがある。中国系も同様に四のつく住所や売値など嫌う。そのかわりに「八」は末広がりで縁起のよい数。数にしても、方角にしても、気にかけるアジア系の人々は多い。しかし、アメリカ人にとっては不可解だろう。

説明不足で訴訟を起こされたケースも

新しい移民、一世は英語が堪能でなく、アメリカ社会に溶け込んでいないためもあって、例えばシカゴでは、メキシコ人街、ポーランド人街、チャイナタウンなど同胞が多い地区に住む傾向がある。中国ではたった5%の世帯しか自分の家を持っていない、と聞いたが、新しくやってきた移民達はアメリカ人に比べて、不動産物件購入には慣れていない。ショールームを見学して家具も売値に含まれていると思い込み、訴訟を起こした移民もあるとか。説明不十分だった不動産エージェント側の失策ではあろうが、異なる文化間のコミュニケーションは難しい。 アメリカは歴史が浅いせいか、常に前進を奨励するきらいがある。一方、アジアの国々やメキシコ、中南米の国々は、古い歴史と文化の蓄積がある。アメリカの不動産エージェント達は、一世に対するセールスの際には、かれらの故郷の思い出や特別な祭りの日の出来事など、話を聞いてみたらどうだろうか?暖かい地域から来たヒスパニック系の移民達は、タイルや木の床を好む傾向があるし、中近東から来た人々は伝統を重んじる風潮があって石造りやギリシャ神殿風列柱のある建築を好むようだ。一世達の話には祖国の歴史や風土や習慣が深く根付いていることがわかるだろう。 話の中から彼等の夢や希望をすくいだし、現実としての「アメリカでの家」を紹介することは、不動産エージェントにとってチャレンジではあろうが、不可能とは思えない。それが新しい波である一世移民達を顧客として取り込む鍵だと言えないだろうか。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。