海外トピックス

2014/1/21

vol.243 外国人顧客への不動産ビジネス対応法

パム・フーサックさんはバリバリ働くベテランで、いくつか特別な賞も受けている(イリノイ州リバティヴル市 以下同)
パム・フーサックさんはバリバリ働くベテランで、いくつか特別な賞も受けている(イリノイ州リバティヴル市 以下同)
朝のミーティングのあと、エージェント達はそれぞれの予定に添ってオフィスを飛び出してゆく(センチュリー21 クリューザー&セィラー社。イリノイ州リバティヴィル市)
朝のミーティングのあと、エージェント達はそれぞれの予定に添ってオフィスを飛び出してゆく(センチュリー21 クリューザー&セィラー社。イリノイ州リバティヴィル市)
パムは生け花や染色など、日本の文化にも興味があり、このジャケットは自分でデザイン、制作した
パムは生け花や染色など、日本の文化にも興味があり、このジャケットは自分でデザイン、制作した
友人のインド人家族。彼等はアメリカナイズされてはいるが、インドの文化と伝統をしっかりと保っている(イリノイ州オークブルック市)
友人のインド人家族。彼等はアメリカナイズされてはいるが、インドの文化と伝統をしっかりと保っている(イリノイ州オークブルック市)
他国の文化に対して尊敬と興味を示すアメリカ人達が多い(シカゴ市で行なわれた茶道デモンストレーション)
他国の文化に対して尊敬と興味を示すアメリカ人達が多い(シカゴ市で行なわれた茶道デモンストレーション)

ロシアのマフィアがシカゴ郊外の高級住宅地で豪邸を買い漁っている、と噂が立った。すでに豪勢な屋敷が何ヵ所か売られたそうな。
外国人が、そして現金でぽんと家を買ってしまう、という噂だが、本当だろうか?
外国で動乱が起きて、金持ち達がアメリカに逃げてくる犯罪ドラマを正月早々見たせいもあろう。外国人がアメリカで家をそれほど簡単に買えるものかどうか、27年間住宅ローンの融資担当をしている不動産ビジネスのプロフェッショナル、ジョン・タマリ氏、及びベテランの不動産エージェント、パム・フーサックさん(以下敬称略)にうかがったところ、筆者の素朴な疑問にもかかわらず、真面目に説明して下さった。
基本的には、家の購入を望んでいる外国人に対し、家を売ることに関しては何ら問題はない、そして外国人だからと言ってアメリカ人の顧客と異なる扱い方はしないが、文化の違いを充分に踏まえた上で、顧客にとってよかれと思うような多少の心遣いはする、とのことである。

外国人がポンと現金を持ってきたら?

ジョンによれば、不動産物件購入において外国人だからといって問題はない、という最大の理由は、彼等は融資金融機関を無事通過した筈だからである。家を買いたい外国人は融資を受けるために、まず金融機関の融資担当者と会い、事前承認の書類を得なければならない。この書類は、買い手が特定の物件に対し購入する意思を示した時に売り手側に渡されるもので、売り手側では融資の事前承認書なしでは買い手との取引は敬遠する。 では、買い手がオファー(OFFER、買う意思を示す)する時や契約締結(CLOSING)の場へ、箱に入れた現金などを持ってきたら? この場合、買い手は売り手にそのお金が正当なものであると、資金源、例えば銀行口座や信用(クレジットの)口座など、示さねばならない。もしも買い手が実際のお金を手にして外国からやってきたのなら、アメリカの口座にそのお金をまず預けるべきである。そのためには、自国の国民登録番号か(アメリカでは政府から誰もがソーシャルセキュリティ番号を受けている)身分証明書を明示しなければならない。 アメリカの不動産ビジネスには不動産専門の弁護士が関わるが、その資金源についてあれこれ質問することなしに、現金での不動産物件購入が弁護士達にすんなりと受け入れられるかどうかは、甚だ疑問だ。

相手の国の文化・慣習にも配慮して

パムは外国人の顧客に対して特別な扱いをしているのか?彼等の文化によっては、そうするようだ。例えば、日本人に対しては幾分柔らかい口調で話す、とか…。言ってみれば、顧客である買い手の期待に繊細であるよう、そして物件購入のプロセスを可能な限り顧客が快適に感じ、スムースに進むよう努力しているようだ。 お年寄りの女性が家族の中で最も尊敬されているような文化圏から来た顧客の場合は、パムは常に彼女を会話に入れ、決断の大きな鍵を握っている様子を確かめつつ話を進める。 また、夫が圧倒的に主導権をにぎっているような文化圏であれば、不動産売買に関する会話は、まずご主人と最初に行なってから、と気を遣う。

不動産購入プロセスの違いを明確に説明

彼等が以前アメリカで不動産を購入したことがあるかどうかを確認することも大切だ。もし購入の経験があるのなら、州や地域によっても相違があるので、この土地での物件購入のプロセスを顧客ともう一度おさらいする。また、もし自国で不動産物件を買ったことがあるのなら、その購入のプロセスを聞いてみることも重要である。パムはその相違点を顧客に説明することもできる。例えば… 「アメリカで不動産物件を購入したいと考えているインド人夫妻がいました。アメリカでこれまで家を購入したことがない、という答えでしたので、インドとアメリカの不動産購入プロセスの対照的な違いを説明しました。インドでは買い手と売り手が合意に達した時点から、価格についての折衝が始まります。一方、アメリカではすべての交渉事は、最終的に合意に達してから5日間後に終結します。この5日の期間に不動産専門の弁護士が契約書類に目を通したり、買い手は不動産専門のインスペクターに最終検査を依頼するのです。そして了解し合った以後は交渉はなされません」といったふうだ。

「平等」でありながらも、特別な心遣い

話を聞いた中では、パムもジョンも外国人の顧客を平等に取り扱っていると言えるようだった。人を「差別」することは法律に照らして違法であるし(アメリカでは差別は重い罪になる)、不動産エージェントとして資格を得る時には、倫理に反しないよう、顧客を守るよう宣誓することが義務づけられてもいる。パムとジョンにしてみれば、もしも誰かを他と違ったやり方で取り扱うとしたら、それは差別しているわけでは決して無く、より助けるための心遣いなのだろう。 「これからもさまざまな文化の違いをより深く知ることによって、私達は彼等のストレスを減らし、顧客に良い経験を通して成功に導く援助が可能になることでしょう」と、パムは最後に結んだ。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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