海外トピックス

2014/2/6

vol.244 氷の街、シカゴの雪対策は?

今年は雪が多く、異常に寒い冬である(イリノイ州シカゴ市。以下同)
今年は雪が多く、異常に寒い冬である(イリノイ州シカゴ市。以下同)
イラスト:筆者
イラスト:筆者
雪が降ったすぐ後でも、除雪対策がしっかりとしているので、普通のタイヤで普段通りにハイウェイが走行できる
雪が降ったすぐ後でも、除雪対策がしっかりとしているので、普通のタイヤで普段通りにハイウェイが走行できる
傾斜のついた屋根が多く、雪の重みで家がつぶれる事故はないが、雨樋には注意が必要
傾斜のついた屋根が多く、雪の重みで家がつぶれる事故はないが、雨樋には注意が必要
誰しも自分の家の前の歩道だけ責任を持って(?)雪かきをする
誰しも自分の家の前の歩道だけ責任を持って(?)雪かきをする
自分の駐車スペースを椅子を置いて確保しておく隣人
自分の駐車スペースを椅子を置いて確保しておく隣人

シカゴの冬はいつも冷蔵庫の中より寒いが、今朝は冷凍室(フリーザー)の-22°Cを遥かに下回る体感温度-34°Cである。生命に危険があるとして、外出は避けるようラジオ、TVの緊急ニュースで呼びかけている。
公立の学校は今月で2度目の休校。完全武装して外に出ると顔はピリピリ、息を吸い込むと肺がチリチリ、鼻水は瞬時に凍るし、まつげも上下がくっつく。寒さだけならまだしも、今冬は雪が多く降り、寒さで融けない。シカゴのまちはどーんと白い毛布をすっぽりかぶせたように雪で覆われている。
「アーキテックヴォルテックス」(arctic vortex) という言葉を最近しばしば耳にするが、北極を循環している大気が弱まって西から押され、カナダを経て合衆国へ降りてきている。平年だとソリ滑りやクロスカントリースキー、戸外のスケートリンクで楽しむ人々の姿はシカゴの冬の風物詩だが、今年はアーキテックヴォルテックスが居すわり、寒すぎる。
交通マヒ回避の対策はどうなっているか?人々は寒波、雪、氷にどう対処しているのだろうか?

除雪車の出動で、幹線道路は常に通行可能

雪が降ろうが吹雪こうが、除雪車が夜昼問わず主要幹線道路を完璧に除雪し、普通にドライブできる状態にしてしまうのにはいたく感心する。市交通局の司令部には主要道路のあちこちに備え付けられたカメラの映像が写り、スノーコマンド(雪対策司令部本部長)は市の280台の除雪車をいつどこへ何台出すか、次々と指令を発する。
どのように除雪するかイラストを見ていただきたい。片側4車線のレイクショアドライブはシカゴ中心部へ向かう主要道路。雪が降り積もると、排雪板(ブレード)を車の前方に装着した除雪車4台が、間隔をずらしつつ並んで進む。一番前の除雪車が斜めに角度をつけた排雪板でどけた雪は隣の右車線にたまる。その雪をすぐに後方の2番目の除雪車が、角度をつけた排雪板ですくい取り、右側の次の車線へ押し出す。同様に3番目の除雪車がこの雪を次の右車線に押し出す。最後の4番目の除雪車は雪をハイウェイわきに押し出す。それぞれの除雪車は岩塩を道路に自動的に撒きながら進むので、道路は端から端まできれいに除雪された上に、残ったわずかの雪は岩塩で融ける。だからこのあと普通の車で運転できるという仕組みなのである。

対応が遅れ、クビになった市長も…

電車よりも車で通勤する人々が多いので、シカゴ市では夜を徹して主要道路を除雪し、朝のラッシュアワーに備える。雪や氷で道路の機能が悪ければ運送業務が停止し、ビジネス全体に大きな支障をきたすのは言うを待たない。だから市長は除雪対策に真剣に取り組む。過去に少なくとも二人の市長がやめさせられた(Michael BilandicとJane Byrne)。いずれもバケーションに出かけていて除雪対策が半日遅れ、ラッシュアワーまでに道路を整備できなかったことが原因だ。
ちなみに主要幹線高速道路は州の管轄で、州の交通局が除雪をする。まだ雪が降らないのに、何台もの除雪車がエンジンをかけて高速道路の出入り口に待機しているのを何度も見かけたことがある。

家ごとに屋根の積雪に備え

雪は重い!
NBCテレビのニュースレポートで、「60cmの積雪だと、標準の屋根の広さで雪の重さは19トン」だと言っていた。雪と氷に対して一戸建てや集合住宅で一番大切なのは屋根への備えであるが、シカゴで1年間の積雪合計は平均93cmにもかかわらず、今年は1月10日までにすでに合計89cmを超えたという。
シカゴの家々の屋根は降った雪が滑り落ちやすく傾斜をつけてあるのでつぶれる心配はなさそうだが、融ける雪水の対処が問題である。雨樋にたまる落葉を冬前に落としてあるだろうか?例えば、雪が積もった後に融けた水は、雨樋に落葉がつまっていると排水用の縦樋へ流れず、つまってあふれた水は屋根裏や天井裏、室内にまで流れ込んで大変な被害となる。
もう一つの問題は、雪が融けてまた凍り、雨樋にがっしりと固まってしまう場合。融けだした水は氷の塊で樋を通れずあちこちに流れてしまうから、これも室内へと水漏れを起こす。氷塊を除くには、熱湯で氷を溶かすか専門業者に頼むしかない。氷を金槌で掻き落とすと樋をこわす。
事前に防ぐには、秋の樋の清掃の他、樋のすぐ上の屋根部分に全長3メートル位の弱い熱線をめぐらせるヒートテープとか、溶ける雪をコントロールするスノーガードを屋根に施工するなどの方法がある。雪が降るとすぐに長い柄のついたシャベル(snow rake)で下から屋根の雪を落とす人もいる。

年明け1ヵ月で、除雪費用はすでに年間予算の半分以上に

それにしても、すでにシカゴ市では昨年12月31日の降雪以来、11億2,000万円を除雪に費やした。内訳は塩が7億2,000万円、人件費が2億5,000万円、器材が1億5,000万円。1年間の除雪対策予算は20億円なので、まだ1ヵ月にもならない現在、すでに1年分の除雪予算の半分以上を使ってしまったことになる(1ドル100円で計算)。
また、寒さと雪で道路に沢山の大きな穴ぼこができるのも避けられない被害。雪と寒さで道路が凍り付き、温度が上がると膨張、また凍り付き、膨張…。何度も繰り返すと表面が割れて穴があく。
マンホールのような穴は運転していて危険きわまりない。パンクしたり、車体が傷ついたり、よけることで事故にもなる。穴を埋めるのは現在のところひたすら人力に頼る他ないので、市は週末返上、日夜通して交代制ですでに今年に入り、6万7,000個の穴を埋める補修工事をしたが、追いつかない。
エマニュエル市長は「必要な分は(予算を超えても)必要なだけ使う」と確約。
今夜は吹雪で20cmの積雪というニュースが流れる中、自衛のために雪かき用のシャベルと自分の家にまく塩を玄関前に備える。スーパーマーケットは数日分の水と食料を買い込む客で賑わうシカゴである。


参考資料
www.chicagotribune.com/news/columnists/ct-getting-around-met-0127-20140127,0,7362976.column
chicago.cbslocal.com/2014/01/07/snow-removal-costs-piling-up-for-chicago-suburbs/
articles.chicagotribune.com/2014-01-10/news/chi-chicago-already-plowed-through-half-its-snow-removal-budget-20140110_1_snow-removal-budget-pothole-crews-inches
www.npr.org/blogs/thetwo-way/2014/01/07/260455201/what-is-the-polar-vortex-and-why-is-it-doing-this-to-us


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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