海外トピックス

2014/4/16

vol.248 エメラルド色の「緑の日」、セントパトリックのお祭り

電車の中でみかけたカップル。あきらかにアイリッシュ系の風貌をしている。後ろの女性も何気なく緑色のリボンやセーターを身につけて(イリノイ州シカゴ市。以下同)
電車の中でみかけたカップル。あきらかにアイリッシュ系の風貌をしている。後ろの女性も何気なく緑色のリボンやセーターを身につけて(イリノイ州シカゴ市。以下同)
この日9時に緑色の染料がながされ、エメラルド色に染まったシカゴ川
この日9時に緑色の染料がながされ、エメラルド色に染まったシカゴ川
たくさんの人々がエメラルド色のシカゴ川を見物にくる。なぜろばだか馬だかのマスクをかぶるのかは不明
たくさんの人々がエメラルド色のシカゴ川を見物にくる。なぜろばだか馬だかのマスクをかぶるのかは不明
いずれもエメラルド色の小物をまとい、いざ、パーティに繰り出す三人組
いずれもエメラルド色の小物をまとい、いざ、パーティに繰り出す三人組
シャムロックが大きく取り上げられたパレード直前の山車
シャムロックが大きく取り上げられたパレード直前の山車
アイリッシュ系アメリカ人には消防士、警察官、軍人などの職に就く人が多い。勲章をつけ、誇らしげにパレードの順番を待つ軍人達
アイリッシュ系アメリカ人には消防士、警察官、軍人などの職に就く人が多い。勲章をつけ、誇らしげにパレードの順番を待つ軍人達

3月17日のセントパトリックの祝日には、誰もが「緑色」の何か、スカーフやセーター、リボン、帽子や手袋などを身にまとう。緑色の髪にしたり、じゃらじゃらとマルディグラの祭りにつけるような緑色のビーズを体中に巻き付けたり、飼い主と同じ緑のドレスを着た犬連れ、顔中を緑に塗ってしまう人まで出現。おまけにセントパトリック祝日にちなんでシカゴ川まで緑色に染めるという極め付き!
町中がどこも緑色に覆われる華やかな祝日である。

本国アイルランド同様にアメリカでも大盛り上がり

「緑の日」と言っても、自然に親しんだり、緑の木を植えたり、環境を考える、というわけでない。この日は5世紀にアイルランドにキリスト教を広めたという聖人、セントパトリックの命日なのである。
本国アイルランドの首都ダブリンでは5日間盛大にパレードやさまざまな催しがあるそうだが、アイリッシュ系移民の多いアメリカ合衆国やカナダ、オーストラリアなどでも同様に大いに盛り上がる。
北海道よりひとまわり大きく、英国の西側に位置するアイルランドは、メキシコ湾流の影響で気候が一年中温暖なせいか、緑が多い。しかし、その緑は針葉樹林の黒っぽく陰影のある緑と違い、黄味がかった鮮やかなエメラルド色、明るく透明な緑である。アイルランドの国旗はオレンジ、白、そしてこのエメラルド色が配されている。

国花シャムロックが祭りのシンボル

緑色のシャムロックはアイルランドの国花。クローバーと親戚のような一回り大きい三つ葉の植物で、昔、セントパトリックが布教に三つ葉を三位一体のシンボルに使ったとも伝えられ、セントパトリックの祭りにはシャムロックシンボルが至る所でみられる。アイルランドのなだらかな丘にシャムロックがエメラルド色の海原のように波打って群生しているそうで、とりわけアイルランドから移民して来た人々にとって、エメラルド色を見るにつけ、故郷アイルランドのシャムロックや牧草の眺めをなつかしく思い起すのではなかろうか。
アイリッシュ系アメリカ人の白い肌と金髪、青い目に、シャムロックのエメラルド色はとりわけ美しく映える。

19世紀のじゃがいも飢饉で一気に増えたアイルランド移民

アメリカ合衆国にはアイルランドからの移民が多い。ちなみにアイリッシュ系でよく知られているのはジョン・F・ケネディ、小説家のF スコット・フィツジェラルド、俳優のジョン・ウェイン、ジョージ・クルーニー、ハリソン・フォード、ウォルト・ディズニーもアイリッシュ系。
1840年代、アイルランドのじゃがいも飢饉で一挙にアイリッシュ系の移民激増。現在アイリッシュ系アメリカ人は12%だが、20世紀前半には合衆国内の移民の3分の1を占める程だったという (en.wikipedia.or)。
ところが、当時としては後発の移民だったためか、あるいは血の気の多いアイリッシュ気質からか、アメリカ上陸後得られた職種は危険が多い消防士や警察管、軍人などであった。家族の絆と兄弟愛が強いことでも知られているが、親子代々同じ職についているアイリッシュ系家族も多い。消防隊の葬儀などの式典で、アイルランド、スコットランドで使われるバグパイプが演奏されるシーンを映画でご覧になった方も多いと思うが、消防隊や警察にアイリッシュ系が多い由縁であろう。
当然、セントパトリックの祭りにはシカゴの消防隊がパレードのトップを飾る。警察や軍人達も大勢参加、晴れやかに行進する。

政治・宗教問題は忘れて、「誰もがアイリッシュ!」

セントパトリックの祭りは、アイリッシュ系アメリカ人達がそのルーツに誇りを持ち、共に祝う日である。
アイルランドは1922年に英国から独立したが、プロテスタント教徒が多い北部の一部は英国に属し、カソリック教徒の多い南部アイルランドといまだに紛争が絶えない。しかし、セントパトリックの祭りには政治的、宗教的な問題は取り上げず、この日は「誰もがアイリッシュ!」“Everybody is Irish!”と言い交わし、アイリッシュ系に限らず、東洋系だろうとラテン系だろうと、誰もが一緒に飲んで食べて陽気に祭りを楽しむのである。故郷の家庭料理、キャベツとコーンビーフの煮込みを食べ、エメラルド色のグリーンビールが定番か。
看板もインテリアもエメラルド色に塗り、シャムロックマークを散りばめたアイリッシュ系のパブ(酒場)は年に1度の稼ぎ時、とりわけ大酒飲みだと言われているアイリッシュ系を惹き付けようと朝から人寄せの声もかしましい。パレードは正午から始まるが、当日、見物人達は早朝からつめかけ、見やすい場所を確保し、飲み物食べ物を持って来て座り込み、緑の日、セントパトリックの祭りを楽しむ。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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