海外トピックス

2014/6/6

vol.251 「仲人」が牽引役の共生の仕組み:ホームシェアプログラム

シニアは人口の4分の1を占める気配だが…。シニアの多くは元気一杯と見受けられる(メイン州にて)
シニアは人口の4分の1を占める気配だが…。シニアの多くは元気一杯と見受けられる(メイン州にて)
アメリカでは多くの催しには夫婦単位で参加する。現役ジャズピアニストのフランク・ウィンクラー氏と夫人(イリノイ州エバンストン市)
アメリカでは多くの催しには夫婦単位で参加する。現役ジャズピアニストのフランク・ウィンクラー氏と夫人(イリノイ州エバンストン市)
犬はシニアの最上の友となろう。孤独を友とはしたくないものだ(イリノイ州シカゴ市)
犬はシニアの最上の友となろう。孤独を友とはしたくないものだ(イリノイ州シカゴ市)
身体が不自由になると施設に入るシニアが多いが、他の選択肢は非常に少ない。パスウェイシニアリビング社のビクトリーセンターオブリバーウッズ(イリノイ州ローズパーク市)
身体が不自由になると施設に入るシニアが多いが、他の選択肢は非常に少ない。パスウェイシニアリビング社のビクトリーセンターオブリバーウッズ(イリノイ州ローズパーク市)
シニア用施設のアストリアプレイス。食事をするシニアの姿が見える(イリノイ州シカゴ市)
シニア用施設のアストリアプレイス。食事をするシニアの姿が見える(イリノイ州シカゴ市)
料理はプロ級、博愛精神に満ちた大学准教授のエリースは、ボランティアとして日系人を助けている(イリノイ州シカゴ市)
料理はプロ級、博愛精神に満ちた大学准教授のエリースは、ボランティアとして日系人を助けている(イリノイ州シカゴ市)

独立心の強いシニアは可能な限り自宅に住み続けたいと願ってはいるが、身体が弱くなって家回りの事ができなくなったり、若い頃には予想もしなかった深い孤独感に陥るなど、問題は少なくない。自宅を出て施設に入るという選択はあるけれど、経済的にも精神的にも喜ばしい結果を生むとは限らない。
誰でも年をとる。その時の暮らしを描けるだろうか?人口の4分の1がシニア、というほど高齢化が進む現在、彼等の経済的負担やさまざまな不安を取り除く対策が求められてきている。
アメリカ人の合理的考え方と博愛の精神で展開されている「ホームシェア」というプログラムが斬新で目を引いた。
“ホームシェア”の解釈には幾つかタイプがあるが、ここでは、自分の家に住みながら他人と同居を望む人と、住むところを探している人とを結びつける「仲人役」、ホームシェアプログラムについて紹介してみよう。

応募者は詳細に調査。紹介状を求める場合も

非営利団体「ホームシェア・ヴァーモント」は、助け合いの仲人役を30年も果たしてきている。ホームシェアを手がける組織は全米規模で広がり、いずれも国や州の補助金、基金、篤志家、個人の寄付で運営されている。
では、ホームシェアプログラムはどんなふうに進行するのだろうか?
ホスト(自分の家があり誰か同居人を望む人)として、あるいはゲスト(多少の家事を分担するかわにり安い家賃で住める場所を探している人)として応募するには、ホームシェアプログラフォームに記入し登録する。登録を受けたホームシェア側では応募者とインタビューを行なう。同時にバックグラウンドチェックがなされる。これは犯罪歴、薬物や飲酒歴、精神面などで過去に問題がないか、いくつかの組織に照会を行なうものだ。応募者には3通の紹介状提出を求められる場合もあるという。これらをパスすると、応募者はホームシェアについて具体的な要望を述べる。例えばホストなら、ペットがいるとか、猫アレルギーがあって猫は苦手とか。車がないと活動には不便とか。
ホームシェア・ヴァーモント側では、膨大なデータベースから要望に合致するゲストを選び出す。選んだペアにそれぞれ連絡をとって、次は「お見合い」である。お見合いで両者気が合いそうであれば、同意書に署名して短期滞在体験に移る。

条件があえば、まずはテスト居住

ホストとゲスト互いのプレッシャーを軽減するために2週間のテスト期間を設けるのは良い手立てと思う。
住む場所を望む「ゲスト」はスーツケーツひとつで「ホスト」宅に住んでみる。条件と違うとか、相手とうまくいきそうな確信が得られなければ、2週間後この絆は無かったことにするわけだが、アメリカ人は気に入らない部分があればあいまいにせず、率直に意見を述べる。実にさっぱりとしている。もし互いが気に入ればホームシェアの同意書を再度確認し、修正や追加などもこの時点でなされる。
ホームシェア・ヴァーモント側には仲人料金として1万円から5万円(ホスト、ゲストの年収により異なる)を払う。
ゲストはいよいよ本格的に引っ越してくる。同居期間は数カ月の契約から1年で、更新可。ホームシェア側ではうまく進行しているかどうか見守ってゆく。
ホームシェア・ヴァーモントの調査によると、自宅にゲストを置いた場合、ホストは以前と比較して89%がより幸福に感じ、83%が家事万端スムースに行なえるようになるという。また、82%がより安全に感じている、との結果も出ている。
ゲストは、ゴミ出しをするとかトイレ・洗面所の掃除をする、などの軽い家事の交換条件で通常の賃貸よりはるかに安く暮らせる。ゲスト平均の家賃は1万2,000円で、最高でも月4万円位とか。大学院生や留学生、仕事を失い経済的に苦しい数多くの人々がゲスト順番待ちという。

シニアの孤立を防止する役割も…

同様のホームシェア仲人役を果たす団体、NYFSC(New York Foundation for Senior Citizens)がニューヨーク市にある。
ホームシェア・ヴァーモントのプログラムと基本的には同じだが、ホストかゲストどちらかが65歳以上という年齢制限がある。そしてニューヨークという大都会だからか、ヴァーモント州に比べて家賃ははるかに高額、交換条件についても詳細に及ぶ。ゲストは何を(多くは家事だが)どの程度するのか、電話代は?遊びにくる友人は泊めていいかどうか、食事の買いだしは誰がして、どう金額を分担するか、ちょっとした修理は誰がするか、など文書に細かくしたため、ホスト、ゲスト、そして仲人役の三者が契約書に署名する。
プログラムディレクターのリンダ・ホッフマン氏によると、ホストの平均年齢は67歳、ゲストの平均年齢は39歳。ホストが若くゲストがシニアという逆の場合ももちろんある。ニューヨークでは生活費が高いため、ゲストは家賃として月4万円から10万円をホストに支払うが、市の平均賃貸料は1BRで約12万円だから決して高くない。NYFSCでは、利用者がプログラムに参加してうれしかったこととして、孤立した気持ちや孤独感がなくなった、という結果が得られていることを公表しているが、気持ちの面でシニアにとって大きな助けになっているのは言うを待たない。
シニアが増える現在、ホームシェア・プログラムを「合理的」と割り切る以上に、ホスト、ゲスト、プログラムに関わるスタッフやボランティアに至るまで、自分が持っているものを…それはお金だったり、労力だったり、時間だったりするが…誰かに分け与えよう、という博愛精神に感じ入った。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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