海外トピックス

2014/7/7

vol.253 退院事情:早い退院にはこんなわけがいろいろと…

リハビリの最中、フィジカルセラピストは患者に帯を巻き付けて端をしっかりと持ち、患者が転倒しないよう気を配っている(イリノイ州スコーキィ市)
リハビリの最中、フィジカルセラピストは患者に帯を巻き付けて端をしっかりと持ち、患者が転倒しないよう気を配っている(イリノイ州スコーキィ市)
病院(ノースショア ユニバーシティ ヘルスケア)の隣にあるリハビリセンター(Lieberman Center for Health & Rehabilitation)。すべて個室で240室あるが、病院とは取り扱う内容が違う
病院(ノースショア ユニバーシティ ヘルスケア)の隣にあるリハビリセンター(Lieberman Center for Health & Rehabilitation)。すべて個室で240室あるが、病院とは取り扱う内容が違う
グラバー(上)とソックエイド(下)。グラバーはハンドルを操作して下に落ちているものをつかんだり、持ち上げたりできるので、衣服の着脱に便利だ
グラバー(上)とソックエイド(下)。グラバーはハンドルを操作して下に落ちているものをつかんだり、持ち上げたりできるので、衣服の着脱に便利だ
ソックエイドの使い方。まず、靴下を「はかせる」
ソックエイドの使い方。まず、靴下を「はかせる」
両手でひもを持って足をソックエイドに滑り込ませ、紐を上に引っ張る。するとぴたりと靴下がはける
両手でひもを持って足をソックエイドに滑り込ませ、紐を上に引っ張る。するとぴたりと靴下がはける
写真は病院付属のリハブジム。同様のジムは各所にあり、利用料金は保険でカバーされる。さまざまな体操用器具を使ってフィジカルセラピストが患者の快復のための指導をする
写真は病院付属のリハブジム。同様のジムは各所にあり、利用料金は保険でカバーされる。さまざまな体操用器具を使ってフィジカルセラピストが患者の快復のための指導をする

前回も書いたように、多くのアメリカの病院が早々と患者を退院させるが、まだ普通の生活ができない患者はどうやって暮らしてゆくのだろうか?
調べたところ、退院後リハビリセンターに入るか、在宅介護を受けるか、2つの選択視がある。病院には付属のリハビリセンターが数多く備わっているため、自宅で暮らす準備がまだできておらず、不安な気持ちでいる患者にとっては、自宅に戻るまでの「つなぎ」として最適だろう。
退院後シャワーやトイレの介助が必要だったり、身体のバランスがとれず自宅で転ぶ危険性があったり、一人暮らしで食事の支度ができない患者などには、リハビリセンターの職員が様子を見ながら、病院と連絡をとりつつ、患者が普通の暮らしに戻れるよう手助けをする。
なぜそれを病院でしないのかという疑問が浮かんでくるが、病院では沢山の高価な医療器具が各病室ごとに備え付けられ、医師や看護婦をはじめ多くの医療専門家が一人の患者にかかわる。従って病院に一泊すると超高級ホテル並みの料金となるし、保険でカバーされる日数は限られる。リハビリセンターはすでに手術や危機を脱した患者が滞在するので、病室に特別な医療器具は必要ないし、医療関係者も病院に比べたら少ない。
病院とリハビリセンターは違った役割を分担するわけである。

退院し、練習通りに自宅へ

もうひとつの選択は病院から直接自宅に戻る場合。
退院前に在宅介護を取り扱う人が病室にやってきて、退院後どんな品が必要か、介助の用品をどこで買ったら良いか、レンタルはあるか、など患者に説明をする。いらなくなった介護用品を寄付する人が多いため、再利用して安く売る店があると聞いて驚いた。レンタル料は1ヵ月間は保険でカバーされるので、介護用品会社と連絡し、介助ベッドを自宅に運んでもらうよう連絡をとる。
筆者の場合はこちらのケースだった。
病院のリハビリ室で練習した通りに、そろそろと車に乗り込み、無事に家につき、習った通りに車から降りる。ウォーカー(歩行器)を使って室内へ。用意された介助ベッドにこれも練習通り横たわる。幸い家族や友人達が毎日食事の世話をしてくれたが、もしも一人だったら料理の配達という手もある。料金が何段階もあり、豊富なメニューが揃っている。出前は買い物も料理もできない期間の命綱。ベッドから起きたり横たわったり歩行器を使うトレーニングは既に病院で受けているから多少動ける。前回のレポートで説明した「ソックエイド」と「グラバー」を使って衣服の着脱も一人でできる。手術後4日目であった。

週3度、看護師とフィジカルセラピストが快復をサポート

翌日、看護師とフィジカルセラピスト(作業療法士)が来訪。週に3度ずつ保険でカバーする期間がやってくる。看護師は血圧や体温を計り、特に傷口からの感染症や血栓症予防に何種類かの薬の効果を確認したり、血液を毎回採取してその場で数値を計り医師に知らせる。緊密に病院と連絡を取り合いつつ患者の回復を助けてゆく。
フィジカルセラピストは台所で回復に向けた体操を指導!!!キッチンカウンターを伝って歩く練習や、流しに手をかけ片足を前後させるといった運動だ。台所は高さもちょうどよく、つかまる部分も多く、狭いのがかえって気持ちを落ち着かせてくれる。さまざまな体操を通してウォーカーから松葉杖、杖へと移行し、一人歩きへ。開拓精神あふれる国のせいで早く自立を促すのかと思ったら、寝てばかりいると筋肉が固まってしまい、快復が遅れるからだそうだ。とは言うものの、セラピストは患者の身体に帯を結び、端をしっかりと持ち、まだ弱々しい患者が転倒しないよう常に注意を怠らない。

約1ヵ月後からはリハブジムで体操練習

宅介護のあいだ、在宅看護師を通して担当医師が患者の快復具合をチェックしてはいるが、患者は月に1度病院に行き医師の診察を受ける。訪問看護師は退院後3週間くらい、フィジカルセラピーは4週間くらいで終了し、その後、患者は外部のリハブジムへ回復用の体操に通う事になる。リハブジムは病院付属のものだけでなくあちこちに沢山あるので、自宅から近い、保険がきく場所を確認して選ぶ。送迎サービス付きリハブジムもあるが、その頃には患者は車を運転できるようになろう。
リハブジムではさまざまな体操練習器具を使いながら、患者の状態に合わせて専門のセラピストが快復を助けてゆく。怪我や病気の程度、保険の種類にもよるが(アメリカでは個人で保険を1つ又はそれ以上かけるのでカバーされる内容が違う)、保険でカバーされる期間は続け、その後は自分で体操をして治してゆく。
このように一刻も早く患者が自立し普通の生活に復帰できるよう、治療全体がシステム化されているように見受けられた。

安全な場所とはいえない「病院」

周囲を見ても、手術してすぐの帰宅が多い。乳がんで手術した友人は手術後病院で数時間休み、その日に戻って来たと昨夜電話があった。膵臓がんで大きな手術をした知人さえ、5日でリハビリセンターに移り、1週間後に自宅療養に切り替えた。
保険でカバーされる日数の制限もあるが、病院が早く患者を退院させる理由に病院は危険の多い場所だという点があげられる。全米公共ラジオ(National Public Radio。6月24日 ) によると、抗生物質が効くバクテリア(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae 略してCRE)が全米の病院に曼延、患者に感染の危険が増え、特に病院に長逗留する患者は何倍もの感染危険率があると報告されている。アメリカ合衆国保険福祉局の報告でも、年間少なくとも18万人の患者が病院内での感染症及び手術などの手違いで死亡するそうで(http://articles.mercola.com/sites/articles/archive/)、 抵抗力の弱い患者にとって、病院は決して安全な場所とは言い難い。骨折で入院した友人が肝炎をうつされて亡くなった不幸な例もある。早々に退散するに越したことはないだろう。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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