海外トピックス

2014/9/8

vol.257 寄付は日常のこと?アメリカ人が寄付をするわけ

ロナルド・マクドナルド・ハウスの玄関にはおなじみのキャラクターのピエロが(イリノイ州シカゴ市)
ロナルド・マクドナルド・ハウスの玄関にはおなじみのキャラクターのピエロが(イリノイ州シカゴ市)
ロナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティでは、学校や会社でソーダ缶のタブを集める運動を奨励している。集めたタブを置く箱を入口に設置したハウス(イリノイ州シカゴ市)
ロナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティでは、学校や会社でソーダ缶のタブを集める運動を奨励している。集めたタブを置く箱を入口に設置したハウス(イリノイ州シカゴ市)
山ほど集まったソーダ缶のタブ
山ほど集まったソーダ缶のタブ
ジョン・G.シェッド氏の寄贈によるシェッド水族館。シカゴ市の中心地にある(イリノイ州シカゴ市)
ジョン・G.シェッド氏の寄贈によるシェッド水族館。シカゴ市の中心地にある(イリノイ州シカゴ市)
慈善家のフィッグ一族が12億円寄付して完成したフィッグミュジアム(アイオワ州 Figge Art Museum)
慈善家のフィッグ一族が12億円寄付して完成したフィッグミュジアム(アイオワ州 Figge Art Museum)
敷石に寄付した人の名前が彫り込んである。寄付金額によって敷石の大きさが違うのだろうか?(イリノイ州シカゴ市。ロナルド・マクドナルド・ハウス)
敷石に寄付した人の名前が彫り込んである。寄付金額によって敷石の大きさが違うのだろうか?(イリノイ州シカゴ市。ロナルド・マクドナルド・ハウス)

ハンバーガーでおなじみのアメリカ・マクドナルド本社はイリノイ州シカゴの郊外にある。40年前に病気の子供に付き添う家族用宿泊所建設を積極的に応援して以来、世界58ヵ
国に322棟のロナルド・マクドナルド・ハウスを建てた。部屋数だと世界中で毎晩7,200室が、病気の子供を看病する家族のために用意されている。
地元だから、と味方をするわけではないが、前回のレポートで紹介したロナルド・マクドナルド・ハウスは、企業や人々の善意で運営されていると言っても言いすぎではないと思う。ドナルド・マクドナルド・ハウスを訪れた時に、ボランティアで働いている女性や戸外で草取りをしていたマネージャーと話したが、きさくな中にも彼等の真摯な姿勢と暖かい心を感じ、その奉仕精神に強い感銘を受けたのだった。
それにしても、「寄付」「募金」「慈善」などという言葉は、どこかうさん臭いというか、正直な所、素直に受け容れられない部分がある。アメリカ人はよく寄付をするが、その動機はどこからから来ているのだろうか?

慈善事業部門には、寄付金集めのプロフェッショナルも

期限切れ食肉問題で日本での人気はいまいちのマクドナルドだが、シカゴではマクドナルドが提唱して、学校、会社、個人でソーダ缶のタブを集め、リサイクルに回し、その売上金を施設運営に加えている。昨年、シカゴ市6ヵ所のロナルド・マクドナルド・ハウスでソーダ缶のタブを集め、合計4万ドルもの収益を上げた。
慈善事業を統括しているロナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティでは、寄付金集めにどんなイベントが効果的かさまざまな方法を取り揃えて相談にのっている。アメリカには寄付金集めのプロフェッショナル(=ファンドレイザー)が存在し、寄付を募るために人々に目的をはっきりと説明し、目標を達成するまでの間に中間報告をし、終了した時点で詳細を報告する。もちろん、募金の内容に説得力がなければ、人々は財布のひもを決してゆるめはしない。

5ドル、10ドルの寄付が、アーティストや教育者の育成に

前々回の記事でアン・ロリィさんが子供病院建設に100億円寄付したとレポートした。その金額にびっくりしたが、ロリィさんはご主人と共に不動産投資会社のパートナーとして経営に参加、アフリカの子供達の健康改善のために、これまでに300億円の寄付をしている著名な慈善家である。
以前紹介したラグディール財団は、アーティストや小説家を育成する団体だが、その費用は人々からの寄付で賄っている。テネシー州アローモント工芸学校でもアシスタントディレクターのビル・グリフィス氏が奨学金制度を10数年前に設立。その奨学金でアーティストインレジデンスとして学校に付属するスタジオに若者達を1年間滞在させ、制作する機会を与えている。すでに百人を超える卒業生達がアーティストや教育者として活躍中だ。この奨学金も一般の人々からの寄付で、主旨に同意して5ドル、10ドルの寄付をする人が多く、その数の積み重ねが大きな支援となる。

寄付行為に対する税制優遇、日米に大きな差

2002年の日本内閣府税制調査会の報告によれば、日本の寄付の1年間の合計金額は7,281億円。それに対しアメリカは24兆5,174億円とアメリカが遥かに多い。
個人と企業に分けると、日本では個人2,189億円、企業5,092億円の寄付で、企業が多い。一方、アメリカは個人22兆9,920億円、企業1兆5,255億円で、個人による寄付金が断然多く、日本の約110倍である。
アメリカでなぜ寄付する人がこれほど多いかというと、アメリカには寄付に対する税制優遇措置があるからとも言える。例えば筆者の年間の収入が100万円と仮定して、1年間に10万円寄付をすると、納税期には100万円でなく、寄付した分を差し引いた90万円に対して所得税を払えばいいのだ。多くの寄付先は非営利団体なので、寄付された10万円は収入でなく「ギフト」として受け取る。一方、日本ではある金額以上になると贈与税がかかるらしく、寄付金、見舞金をもらった側では、不相応な金額に対し課税されることもあるとか。日本の税制は複雑で理解が難しい。

アメリカ人にとっては、日常生活の一部分

アメリカ人達がよく寄付する理由として、税制以上に文化的な土壌が根本的に違うと感じる。「富める人は貧しい人に分け与えるべき」というキリスト教の精神。また、ユダヤ教でも3000年の昔から慈善を律法書の中で戒律として挙げている。豊かでも貧乏でも、収入の10%は寄付すべきだと主張するユダヤ系の友人もいる。
アメリカに旅行された経験のある読者の中には、学校、図書館、研究所、美術館、博物館など、寄贈者の名を冠した建物がやたらと多いのに気がつかれた方も多いだろう。シカゴ美術館の中にはたくさんの小部屋があって、寄贈者の名前が各部屋の上部に刻まれているし、フィールド博物館、アドラープラネタリウム、ルブロフ講堂(シカゴ美術館)など、いずれも寄贈者の名。人によってはそれを「売名行為」と受け取るかもしれない。だが、寄贈者の名をつけたにしても、アメリカ人達はその行為を、教育や芸術の支援者として賞賛し、名を記して残すのに抵抗はない様子。
40代のご主人を癌で無くしたロリィさんはご主人の名をつけた癌研究所を設立したが、人々は研究所でのリサーチは人類の役に立つ素晴らしい行為、と解釈。ユダヤアカデミーオブシカゴ小学校では、同校設立時に寄付した多くの人々の名前をそれぞれ真鍮のプレートに彫り、生徒が座わる椅子の背に取り付けたとも聞いた。
また、一定の金額を寄付すると(1万円くらい)、レンガに寄付者の名を彫り込み、道に敷いたり、壁にはめ込む。レンガやプレートに親しい人の名を刻んで寄付する人も多い。税制の違いはともかく、何よりも寄付を乞う側にそのための努力が見られるし、寄付はアメリカ人にとって、もはや暮らしの一部分なのである。


参考資料
www.jst.go.jp/cpse/risushien/investigation/contribution_vol1.pd
rmhccni.org/pop-tab-collection/
www.jpanet.co.jp/article/13743154.html


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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