海外トピックス

2015/2/6

vol.267 三世代同居の平和的解決法

キャロルと娘のジュリー家族2世帯が住む家。シカゴ都心へ通じる電車の駅へも徒歩5分でミシガン湖岸へも近い(イリノイ州シカゴ市。以下同)
キャロルと娘のジュリー家族2世帯が住む家。シカゴ都心へ通じる電車の駅へも徒歩5分でミシガン湖岸へも近い(イリノイ州シカゴ市。以下同)
左からキャロル、シドニー(6歳)、ジュリー、DJ(2歳半)、ジェームズ、エィデン(9歳)の家族
左からキャロル、シドニー(6歳)、ジュリー、DJ(2歳半)、ジェームズ、エィデン(9歳)の家族
キャロルの居間。右下には子供達が勉強したり遊んだりするテーブルが
キャロルの居間。右下には子供達が勉強したり遊んだりするテーブルが
よく整頓されたキャロルのキッチン。築100年の古い建物だが、当時の上質な建材が使われており、長年の使用に十分たえる
よく整頓されたキャロルのキッチン。築100年の古い建物だが、当時の上質な建材が使われており、長年の使用に十分たえる
ジュリーのキッチンはキャロルのキッチンと同じ作りだが、数年前に改装した。数々のモダンでおしゃれな器具や機器が見られる
ジュリーのキッチンはキャロルのキッチンと同じ作りだが、数年前に改装した。数々のモダンでおしゃれな器具や機器が見られる
シドニーとエィデンの寝室。祖母達や両親からもらったおもちゃであふれているが、よく整頓され、気配りがなされているのに感心する
シドニーとエィデンの寝室。祖母達や両親からもらったおもちゃであふれているが、よく整頓され、気配りがなされているのに感心する

10年前に娘家族と共同で2フラット住宅を購入、その1階に住むキャロルは、友人達と展覧会を覗いたりヘルスクラブで水泳を楽しんだりと引退後の自由な暮らしをおくっている。2階には娘ジュリーと娘婿ジェームスが3人の子供達エィデン(9歳)、シドニー(6歳)、DJ(2歳半)と賑やかに暮らしている。
2家族が購入した「2フラット住宅」とは、一戸建てに2世帯が住むように初めから設計されたタイプの建物で、玄関は共有するが1階と2階は全く別世帯。ローリングトウェンティーズといわれる1920年代まで人々がどっとシカゴ市に流入し、彼ら移民達の住宅問題解決のため、このタイプが数多く市内に建てられた。
年代を経ながらも、堅牢で上質な2フラット住宅は、現在でも市内至る所に健在である。

フルタイムで働く母親の代わりに、同居する祖母が子供の世話

キャロル達が住む築100年の2フラット住宅は、室内も庭も広く、地下室や屋根裏も備え、幼い子供達の遊び場が豊富。子供達が赤ちゃんだった頃、ジュリーはフルタイムで働いていたので、子供達の面倒はキャロルと近くに住んでいるジェームズの両親が交替でみたそうだ。ジェームズの両親は広東系中国人で、孫達はブロッコリー、インゲン豆、小松菜や豆腐など野菜たっぷりのおいしく健康的な中国料理をたらふくご馳走になったという。
英語が苦手な中国人のジェームズの両親は孫達とは手振り身振りで交流。孫達はクリスマスと中国のお正月を祝うし、ふたつの国の料理や習慣、言葉などを幼い頃から自然なかたちで身につけている。

学校の送り迎えは3人が協力し合って…

ジュリーは現在、コンピューターを使って家で仕事をするようになり、幼いDJに目を配れるようになった。しかし、小学校に通うエィデンとシドニーの送り迎えが必要で、ジュリーかジェームズかキャロルが毎朝7時に家を出て子供達を学校まで車で連れて行く。歩いて通える公立小学校が近くにあるが、学習レベルが高い別の公立小学校への編入を選択したためである。
クラブ活動などで二人の娘の下校時間が違うため、迎えはさらに大変だ。夜遅くまで働くジェームズにとって送り迎えはかなり負担になるが、教育優先で家族が助け合っている。

普段は距離を置く生活。子育てには公共サービスを賢く利用

キャロルは「賃貸料」としてジェームズ夫妻に家のローン返済金を半分払う。光熱費は個々に払う。幸いインターネットは共有できるのでかなり楽と話すが、基本的には別々に暮らしているので、キャロルは「私の手伝いが必要だったら知らせて」と、普段はジュリー家族とは距離を置いている。とは言え、キャロルが暖炉に本物の薪をくべる時は、燃えさかる炎を眺めるのが大好きな子供達がしばしばキャロルの元へやってきて膝に座りたがるそうだ。家の庭仕事はキャロルがしているが、孫達は野菜の手入れの手伝いをするのが大好き。
ちなみにキャロルもジュリーの家族も富裕層では決してない。全く普通の家族だ。例えば、娘達の誕生日パーティは近くの公園のクラブハウスで開く。特別な会場やレストランを借りたり遊園地を貸し切りにするなど贅沢にすれば際限がないが、市の公園クラブハウスは無料。夏は、市が開催する子供キャンプに参加する。4週間のキャンプ代金が何と1万円!プログラムリーダーとして監督指導する若者と子供達は、朝9時から午後3時まで湖で泳いだり遠足に出かけたり、ゲーム遊びや制作に熱中して夏の間あいだ精一杯遊ぶ。
これら公園もキャンプも、われわれ市民の税金で賄われるが、キャロルやジェームス夫妻はシカゴ市民として知恵を働かせつつ、さまざまな特典を上手に利用して楽しく暮らす庶民の典型といえるのではないだろうか。

親子世代間のギャップを孫が埋めることも

使い古された言葉ながら、「スープのさめない距離」に親世代と子世代が住むのは多くの利点があるようだ。ただ、働き盛りの子供世代と引退暮らしの親世代とは暮らしのスピードが違うから、その辺をわきまえる必要はある。
例えば親世代があれこれおしゃべりしようと若い世代に話しかけても、彼らは忙しくて、のんびり親の話を聞く時間はない。そのため親世代はおいてきぼりになったように感じ、孤独になる時もあるに違いない。そこを孫達が埋める場合もあるだろうし、孫達にとっては、親からだけでなく、異なる価値観を祖父母から学ぶ時もあろう。
親世代は怪我や病気など、何かあった時を想像すると、若い世代が隣に住んでいてくれれば安心感がある。疲れた時や雪や大雨など悪天候の時に買い物なども気軽に頼める。だから、1階と2階がそれぞれ独立している2階建住宅を家族で購入するというスタイルは、これからの時代さらに増えて行くに違いない。
こういった暮らし方を選択する知り合いが周囲に増えてきているので、特に最近感じるのだが、共通するのは夫婦共働きで、1階に住む母親が、必要であれば孫の世話を手伝う。仕事を終えた息子か娘は子供を引き取って2階へあがる。
互いに甘えすぎないことと互いのプライバシーを尊重すること。そうした一線をきっちりと引きながらもお互い同士を気使うことが三世代同居を成功させる秘訣と見受けられた。


参考資料
/gu.org/LinkClick.aspx?fileticket=yfGpYQNMuxk%3d&tabid=565&mid=1182
www.pewsocialtrends.org/2013/09/04/at-grandmothers-house-we-stay/


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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