海外トピックス

2015/3/6

vol.269 借り手は悲鳴、アパートオーナーは超強気、の理由

ちょっと前にはこのような「入居者募集」サインを見かけることが多かったのだが、賃貸希望者が多くなってめったに見られないようになった(イリノイ州シカゴ市。以下同)
ちょっと前にはこのような「入居者募集」サインを見かけることが多かったのだが、賃貸希望者が多くなってめったに見られないようになった(イリノイ州シカゴ市。以下同)
おしゃれな界隈に変貌してきたウッドストリート。家賃は月に10万円(スタジオサイズ)でも難しくなってきた。さらなる値上げが懸念される
おしゃれな界隈に変貌してきたウッドストリート。家賃は月に10万円(スタジオサイズ)でも難しくなってきた。さらなる値上げが懸念される
ギャラリーではミレニアム世代の若者達が活発に動き出してきた
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アパート賃貸料金はうなぎのぼりで、職をやっと得ることができた若者達の懐は苦しい
アパート賃貸料金はうなぎのぼりで、職をやっと得ることができた若者達の懐は苦しい
アパート建設があちらこちらで盛んだ。景気が良くなってきた証拠か
アパート建設があちらこちらで盛んだ。景気が良くなってきた証拠か
ミレニアム世代が集まるとどんな話題がかわされるのだろうか(ミズーリ州カンサスシティ)
ミレニアム世代が集まるとどんな話題がかわされるのだろうか(ミズーリ州カンサスシティ)

現在、賃貸市場の空室率は全米どこも低い。アパートを借りる人が断然多いのである。2年前の2013年11月、NAR (National Association of Realtors=全米リアルター協会)は、空室率は全米平均で4%(*)と貸し手市場となっており、今後賃貸料は上がってゆくだろう、と予想している。
その通り、2015年に入ると賃貸の需要が増えた割には供給できる物件数が少なく、賃料相場は高騰となった。
(*空室率5%以下は貸し手市場と言ってよいだろう。)
大都市、例えばニューヨークやロスアンゼルスでは常に需要が供給を上回るため、賃貸価格が高いのは納得できる。しかし現在、賃貸物件不足と賃貸料値上げは全米の中小都市の至る所にまで波及しており、その動向が注目される。

景気回復とともに一気に動き出した若者たち

なぜか?
景気が動き出してきて、不況の間くすぶっていたミレニアム世代(13歳から33歳までの若者達)がやっと職を見つけられるようになり、これまで親の家に居候したり、ルームメイトと一緒に住んでいた20歳代前半の若者達がいっせいに一人住まいを希望。賃貸物件へ殺到した。
ところが、この大きな動きは賃貸物件における需要と供給のアンバランスをもたらす羽目になった。なぜなら、数年間続いている不況で賃貸用の建物が建設されなかったために、彼等ミレニアム世代の多大な需要に応えるだけの賃貸物件数が足りないのである。

賃貸住宅志向者が増える理由

賃貸で暮らす若い世代は2つにグループ分けできよう。アメリカンドリーム達成をゴールとした団塊世代(ミレニアム世代の両親達)の苦渋や破綻を眺め、自分の家を持つよりは「賃貸で結構」と考える若者達。もうひとつのグループは、値上がりする家賃を払い続けるよりは、その金額をローンに回して家を購入することを考えるが、結局あきらめざるを得ない若者達だ。
ローン金利はまだ低いが、借り入れのハードル、例えば信用調査などは以前より高く設定され、値上げされる月々の賃貸料金を払うだけで現実には精一杯。頭金を用意するだけの収入も得られない。このあきらめグループも、賃貸派グループと共に賃貸で暮らすことになる。

貸し手市場で、賃料10%値上げも

アパートオーナーにとっては嬉しい状況に違いない。10年前には借り手が少なくて、どうかな?と不安に感じる申込者でも受け入れた。駐車場の料金を無料にしたり、初月はフリーレントにするなど、おまけをつけなければ入居者を得ることが難しい時期が続いた。賃貸料が滞りがちだったり仕事を失った借り手に対して催促するのも控えたほどだ。
ところが現在は立場が逆転。オーナーは契約更新時期に大威張りで値上げを入居者達に通達。値上げはいやだと借り手がごねても、すぐに別の借り手がみつかるから強気だ。
この現象が、大都市ならまだしも、中西部のカンサスシティ市にまで広がり、アパート賃貸料は昨年に比べて倍の8.5%に上昇しているという(http://www.cnbc.com/id/102440614)。ミネアポリスでも10%近く値上げするなど、賃貸料の高騰は全米の小さな都市にまで及んでいる(www.marketplace.org/topics/business/landlords-have-upper-hand-many-rental-markets)。
景気上昇中の現在、需要に対応するために賃貸用の住宅建設があちこちで活発になってきている。完成するまでには少なくとも2年位はかかるだろうが、アパートオーナーはその頃までに良質な入居者獲得に励むべきだ。数年後にはこのアンバランスが是正されるのは目に見えている。

貸し手・借り手間のトラブル仲介サイトも登場

ミネソタ州には、借り手の権利を守るグループのサイト、HOMELineがあり、アパートオーナーが不当な値上げをした時借り手がどのように対処したらよいかなど、法的な立場を踏まえてアドバイスをしてくれる。もちろん、借り手サイドだけに立つわけでなく、アパートオーナーへも援助を惜しまず、貸し手も借り手も同等に扱う。
感心するのは、借り手側に問題がある場合、現実を把握できるよう示唆する点だ。
賃貸住宅で暮らす場合、借り手にとってはあくまでもそこは一時的な住処であり、そのスペースは借り手のものでは決してない。更新時には、次の年へとリースが更新される場合もあるし、拒否される場合もなきにしもあらず。借り手の中には、長期間住んでいると、権利が全て自分にあるように錯覚してしまう入居者もいるが、あくまでも「契約」で結ばれた借り手と貸し手の間柄であり、HOMELineはその境界線を借り手にきっちりと再認識させるのだ。
そのため内容によっては借り手にとって耳の痛い場合もあるが、結果としては借り手とアパートオーナー間の理解が深まり、両者の関係がスムースにいくそうだ。
こういった仲介サイトで案外さっぱりと互いに納得し合えることも結構多いのである。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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