海外トピックス

2015/3/20

vol.270 マジックドッグとスーパーマジックパム

介助犬のピーナッツ。認定されたという青いベストを着ている(写真提供:パム・クレーマー)
介助犬のピーナッツ。認定されたという青いベストを着ている(写真提供:パム・クレーマー)
とりわけ低学年の小学生達は先を争ってピーナッツをなでたりさすったり(写真提供:パム クレーマー)
とりわけ低学年の小学生達は先を争ってピーナッツをなでたりさすったり(写真提供:パム クレーマー)
小学校での災害時の避難訓練。ピーナッツは大活躍だ(写真提供:パム・クレーマー)
小学校での災害時の避難訓練。ピーナッツは大活躍だ(写真提供:パム・クレーマー)
パムにすっかりなついているパフィ(オーム)(イリノイ州リバティビル市。以下同)
パムにすっかりなついているパフィ(オーム)(イリノイ州リバティビル市。以下同)
キッチンでわれわれのためにデザートを用意するパムだが、3匹の犬達が手元に注目している
キッチンでわれわれのためにデザートを用意するパムだが、3匹の犬達が手元に注目している
パムと音楽家のご主人クレーマー氏。左からベントリー、クロウィ、ピーナッツの犬達。猫は4匹もいるが、集合整列させるのは不可能
パムと音楽家のご主人クレーマー氏。左からベントリー、クロウィ、ピーナッツの犬達。猫は4匹もいるが、集合整列させるのは不可能

パムは小学校の教師。毎朝介助犬のピーナッツを伴って学校へ出かける。ピーナッツが着ている青いベストは介助犬認可の証でもある。
ピーナッツは生徒達の「マジックドッグ」。気分が落ち込んだ生徒や、障害のある生徒、喧嘩をして泣き出した生徒がパムのオフィスにやってきてピーナッツの手を握るとあら不思議、悲しいことも嫌なことも吹き飛んでいってしまう。犬を怖がる生徒達でさえその思い込みが変わり、ピーナッツの大ファンに。
学校側の協力によって介助犬が導入されたが、パムの「助けることが好きだ」という精神が導入への強い働きかけとなった。助ける事により人や社会に役立ちたいと願い、教職に加えて、捨て犬や災害で行先を失った動物を保護してしつけ、養子先をみつける。また、学校がより働きやすい環境になるよう、区域の450人の教師組合の長として精力的な活動もしている。「スーパーマジックパム」と言っても決して過言ではない。

2年間の厳しい訓練を受けて、介助犬に

学校で介助犬受け入れ許可が下りた時に、パムはカリフォルニア州のT.D.I. (セラピードッグ・インターナショナル)へ出張、2週間の訓練を受けてとりわけ相性のよいピーナッツを選び、連れ帰った。犬達は生まれてすぐに介助犬として訓練を受けるが、2年間の訓練後、卒業して介助犬として働ける犬は10匹のうち4匹!という。介助犬への道は厳しい。
介助犬のうち、セラピードッグと言われる犬たちは、卒業後、学校や病院、施設で働く。ピーナッツは45のコマンドに対応できるとパムは言うが、決して吠えない。だから「Speak(お話しなさい)」というコマンドに対して「ワン!」と答える訓練は受けていない。吠えるのは子供を怖がらせるからだ。

犬に触りたいときは、まず先生の許可を得て

学校でのパムは時に厳しい。ピーナッツが来ても生徒達は走り寄って遊ぶことはしない。ここは生徒たちが犬について学ぶ第一教育の場だからだ。
例えば犬と握手するためには、パムにどのように許可をもらうか。きちんと言葉を選んで、“Ms. Kramer, May I please pet Peanuts?” (クレーマー先生、ピーナッツに触わってもよろしいですか?)と問い、“Yes, you may.” とパムから許可を受けて初めて触れるのである。
ピーナッツは災害や火事などの避難訓練にも参加する。静かでおっとりした気質のピーナッツは、怖がる子供達の気持をなだめる役割を果たしている。

中国で拾った子犬をアメリカへ。家族総出でケア

家族全員が動物好きを示すひとつのエピソードがある。
パムの愛犬クロウィは、数年前、博士号取得のために中国で勉強していたパムの娘が拾った子犬で、長いいきさつは省くが、娘からやむなくクロウィを引き取るためにパムは中国へ飛んだ。動物空輸に優れている航空会社を選んだは良いが、北京からシカゴへの直行便はなく、途中デトロイトで乗りつぎしなければならない。22時間プラス乗りつぎ数時間の飛行は動物にとって過酷極まりない。乗り継ぎを避けるため、心優しいご主人はシカゴからデトロイトまで吹雪の中8時間車を運転し、デトロイトのホテルに1泊したパムとクロウィを乗せてシカゴに戻ったという。
クロウィは生まれたての頃中国で車にはねられたらしく、前足が妙な具合に曲がっていたので、シカゴで矯正手術をし、さらにその後緊急手術を2回もしなければならなかった(大変な散財でびっくりしたが、家族は決して余分な収入があるわけでない。しかし筆者が口をさしはさむべきではなかろう)。
健康を取り戻してから躾をして、パムはクロウィの養子先を探すことになろう。

捨て犬を引き取り躾、買主探しでは自ら面談

人を助け、社会に貢献したいと願うパムだが、その願いを実行に移す行動力と組織力には感嘆する。
パムは定期的に書評を書く仕事もしているが(www.examiner.com/book-in-national/pamela-kramer)、たまたまシカゴに立ち寄った作家を招待して講義をしてもらう段取りをつけ、会場で集めた参加費を動物愛護協会に寄付した。
また、拾った犬のしつけをしてから養子先を探す広告をローカル新聞に出している。養子の申し込みがあった場合には、その家を訪ねて犬にふさわしい環境かどうか納得しないとパムは承諾しない。たまたま筆者の親戚がパムの仲介で犬をもらったのだが、わざわざ家にやってきて十分に点検し、家族とよくよく話し合ってから養子が成立したと親戚から聞いて笑ってしまった。

弁護士から不動産業、そして教師に…。パムはスーパーウーマン

パムは小さい頃から動物が好きで、犬や猫だけでなく、馬や牛、ウサギ、スカンクまで飼っていたという。長じて弁護士の資格を取り、不動産ビジネスにも関わった(締結時には弁護士が立ち会う)が、思うところがあって方向転換。子育てをしながら教育修士号を取得し、教師として現在に至る。
3人の子供達は巣をはなれ、ご主人と3匹の犬(ピーナッツ、クロウィ、ベントリー)、4匹の猫、オーム1羽、そして2匹のカエルと共にシカゴ郊外で暮らしている。家は2BRの平屋。小さいながら囲いをした1エーカー(4,047スクエアメーター)の庭は犬達が駆け回れる十分な広さだ。ハミングバードやキツツキ、鷹まで訪れる。夏は庭の隅に野菜を植え、平和な暮らしを楽しんでいる。
子供達を教えることと動物が芯から好きで、社会に貢献したいと望みつつ、それらを生き生きと楽しむ「スーパーマジックパム」である。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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