海外トピックス

2015/4/6

vol.271 不動産エージェントはピストルが必要?

拳銃を店内に持って入ることを禁止するレストランや店舗が増えた(イリノイ州シカゴ市。以下同)
拳銃を店内に持って入ることを禁止するレストランや店舗が増えた(イリノイ州シカゴ市。以下同)
今年になって物件のセールスがやや持ち直し、セールやオープンハウスの立て看板が目につくようになった
今年になって物件のセールスがやや持ち直し、セールやオープンハウスの立て看板が目につくようになった
オープンハウスを開催する時には、近辺のパトロールを頻繁にしてもらうよう警察に依頼するのも犯罪を防ぐ良い方法
オープンハウスを開催する時には、近辺のパトロールを頻繁にしてもらうよう警察に依頼するのも犯罪を防ぐ良い方法
物件を客に案内する時は、万一の場合を考慮してすぐ逃げられるよう、ドアなどを開けておく
物件を客に案内する時は、万一の場合を考慮してすぐ逃げられるよう、ドアなどを開けておく
コールドウェルバンカー社の不動産エージェント、ジュディ・ライクさんは、オープンハウス開催時には自分の身の安全を守るため万全を期しているという
コールドウェルバンカー社の不動産エージェント、ジュディ・ライクさんは、オープンハウス開催時には自分の身の安全を守るため万全を期しているという
NARでは「オープンドア ポリシー」を提唱しているが、不動産エージェントにとって競争相手同士になるので、それそれのオフィスを開放するのは難しいようだ(センチュリー21社。イリノイ州リバティヴィル市)
NARでは「オープンドア ポリシー」を提唱しているが、不動産エージェントにとって競争相手同士になるので、それそれのオフィスを開放するのは難しいようだ(センチュリー21社。イリノイ州リバティヴィル市)
「オープンドアポリシー」が実現すれば、不動産エージェントの安全はかなり確保できると思うが…(センチュリー21社。イリノイ州リバティヴィル市)
「オープンドアポリシー」が実現すれば、不動産エージェントの安全はかなり確保できると思うが…(センチュリー21社。イリノイ州リバティヴィル市)

昨秋、アーカンソー州の不動産エージェント、ビバリー・カーターさんが不動産物件を案内中に誘拐され殺害された事件は不動産ビジネスに関わる多くの人々を震撼させた。顧客に物件を見せたあと、次の2ヵ所のアポイントメントにカーターさんが現れなかったために心配になった夫が警察に連絡。捜索が開始され、数日後犯人は逮捕されたがすでに遅かった。

不動産エージェントは危険な状況に陥る可能性が多い職業と言われるが、調査した3,000人の不動産エージェントのうち、40%は危険を感じる状況に陥ったという経験があり、さらに3分の1はペッパースプレー(唐辛子粉を発射する自己防衛ツール)か拳銃を所持しているという調査結果が出ている(Chicago Tribune、 2015年3月15日)。

イリノイ州で最近ピストルを携帯できる法律が可決し、自分の身を守るために小型ピストルを車やハンドバックにしのばせる人も増えたと聞く。

全米リアルター協会(National Association of REALTORS=NAR)会長クリス・ポリクロン氏によれば、自分の任期中は、エージェント達の危険を避けるために万全を尽くす、と言い切っている(www.realtor.com)。

リアルターの6つの安全対策

NARでは、以前から6つのケースに分類して会員のために安全対策を講じているが、アメリカと日本では不動産ビジネスやシステムが異なるし、社会事情もそれぞれ違うので、同一線上で考えるのは難しいだろう。アメリカの不動産エージェントは個人で仕事を取り、そのコミッションが自分の収入になる。大半の不動産エージェントは、例えばコールドウェルバンカーなどの不動産オフィスに属するが、会社から月給をもらっているわけではなく、基本的には自分の顧客がいて自分で動き回り仕事を取る。だから以下の注意は会社単位でなく、一人で物件を見せたり客を乗せて車で物件を案内する時のアドバイスと考えると理解し易い。

  • 1.空き家に入る時:いつでも逃げられるようドアを開けておく。
  • 2.初対面の顧客に会う時:オフィスでまず会ってから物件へ案内する。
  • 3.ひとりで物件を顧客に見せる時:自分が先に立たず客を先へ進ませる。
  • 4.オープンハウス:近隣や警察にもあいさつ、連絡をしておく。
  • 5.不動産エージェント自身で自分の広告を出すとき:魅惑的、刺激的な衣装は避ける。
  • 6.車で顧客を物件に案内する時:携帯電話をすぐ家族や警察につながるようセット。

時には、危険を承知の上での営業活動も…

通常、エージェント一人で物件を案内するので、見知らぬ「怖い客」と二人だけになる危険も無きにしもあらず。安全策については以前からNARだけでなくそれぞれのオフィスでも検討、合気道やマーシャルアーツ(敵を撃退するトレーニング)を身につけることが奨励もされ、クラスを設ける不動産オフィスもある。

しかしながら、前述のカーターさんの場合、事前に物件の場所や時間を家族に連絡してあったにも拘らず、その注意は役に立たなかった。また、夜間は危険なので物件へ案内するのは昼間だけに、というアドバイスもあるが、実際、物件を見たい大半の客は昼間働いており、仕事のあと物件を見ることが多い。もしも「夜間は遠慮して欲しい」と客に言えば、すぐに他の不動産エージェントに乗り換えられるのは目に見えている。個人競争が激しい不動産ビジネスなので、無理を承知でセールスにこぎつけようとあせるエージェントも出てくる。

バーチャルオフィス時代の落とし穴

インターネット時代の現代、従来では考えられなかった思いがけない危険な落とし穴も多々ある。バーチュアルビジネスの増大である。

不動産エージェントは自分が属するオフィスで過ごす時間は少なくなり、ネットで得た顧客を物件へ直接案内するケースが増えた。以前から何度も言われてきたことだが、初めての客にはまずオフィスへ来てもらい、身分証明書などで身元確認をしてから物件を見せに連れて行くというシステムが定着していた。オフィスの人々が客の顔を覚えているだろうし、客も下手なことはできないぞ、と感じる。しかし昨今は、エージェント誰しもがネット上に自分自身の“バーチャルオフィス”を持ち、特定の物件が見たい、と請われた場合、エージェントはフットワーク軽く、客に便利なスターバックスのようなコーヒーショップで会って物件へ案内する場合も多い。

しかし、何かあった際にコーヒーショップではエージェントと顧客を覚えている人は少ない。客に(たとえ1時間かかる場所からでも)「オフィスへまず来て欲しい。それから(1時間かかる)物件へお連れします」ということになると、客は「じゃあ、またにします」と断るに違いない。

ビジネスチャンス拡大へ、「オープンドアポリシー」を提案

シアトルのブローカー(Coldwell Banker Danforth) デボード氏は、現実に起こっている危険に対応するために「オープンドアポリシー」というアイディアを提案した(Chicago Tribune  2015年3月15日)。NAR会員であれば、不動産エージェントが属する自分のオフィスでなくても近場の不動産オフィスを使って顧客に会えるようにしたらどうか、というものである。これなら前述したように客が1時間もかけて物件を担当する不動産エージェントのオフィスにやってくる手間も省ける。

調査では、このアイディアに対し、エージェントの59%は賛成。しかし、使われるオフィス側からは、自分達の利益にならないのに、なぜオフィススペースを提供しなければならないのか、という反対の声もあがっているようだ。

確かにオフィス同士は競争相手である。納得はできるが、それにしても互いの安全性を守るために「敵に塩を送る」思いやりがあってもよさそうなものだが。敵ではなく同じ不動産ビジネス仲間なのだから…。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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