海外トピックス

2015/5/20

vol.274 モノを処分してスリムな暮らしの提案

すっきりとデザインされたパティオでくつろぐ、インテリアデザイナーのチィ(カリフォルニア州ハンティングトンビーチ市)
すっきりとデザインされたパティオでくつろぐ、インテリアデザイナーのチィ(カリフォルニア州ハンティングトンビーチ市)
たくさんあるペイントブラッシュを壁に飾ってしまうアーティスト。ブラッシュの形が結構面白いことに改めて気づいた(イリノイ州シカゴ市)
たくさんあるペイントブラッシュを壁に飾ってしまうアーティスト。ブラッシュの形が結構面白いことに改めて気づいた(イリノイ州シカゴ市)
引っ越しをするので、道具や材料の類を処分するアーティストと、品定めをして持ってゆくアーティスト(イリノイ州シカゴ市)
引っ越しをするので、道具や材料の類を処分するアーティストと、品定めをして持ってゆくアーティスト(イリノイ州シカゴ市)
資料がよく整理された照明デザイナーのスタジオ。手前の引き出しには製図が入れてある(ミズーリ州カンサスシティ市)
資料がよく整理された照明デザイナーのスタジオ。手前の引き出しには製図が入れてある(ミズーリ州カンサスシティ市)
ポーランド人街で、家の前にセールサインをくっつけたスクーター(イリノイ州シカゴ市。以下同)
ポーランド人街で、家の前にセールサインをくっつけたスクーター(イリノイ州シカゴ市。以下同)
春はガレージセールが多い。家の前に沢山の品を広げて売る。2軒から4~5軒がまとまってすることもある
春はガレージセールが多い。家の前に沢山の品を広げて売る。2軒から4~5軒がまとまってすることもある
彼の家はどこもすっきりまとまっているが、地下室は大違い。ジャンク、修理中のもの、不要な品物がいっぱいに置かれている
彼の家はどこもすっきりまとまっているが、地下室は大違い。ジャンク、修理中のもの、不要な品物がいっぱいに置かれている

インテリアデザイナーのチィとディビッドの室内は、意識的に置かれた植物や小物がアクセントとしてよく映え、すっきりした空間である(前回参照)。

アメリカは国土が広いので、従って住まいの空間も広い印象はぬぐえない。だが、果たして「広さ」だけが、すっきりした空間を形作る要素だろうか?
アメリカの家は、ソファも、食卓テーブルも、椅子も、皿に至るまで、アメリカ人の体格同様に大きいし、部屋数も多いから、家具小物など全体数は多くなる。食料もまとめ買いするため、その量は部屋が埋まるほどだ。紙製品等の消耗品も場所をとる。スペースがあるだけに、溜まってゆくモノの量も膨大である。モノに埋まるか、広い空間を保てるかは、モノをどう処置してゆくか、そのやり繰りが分かれ道となろう。
チィとディビッドをはじめ、すっきりと暮らしている周囲の友人達を観察、意見も聞いてみた。

モノを貯め込みがちなアーティストたちの「処分法」

モノを思い切って処分してしまうのが、すっきり暮らす一番の方法ではある。アーティストの友人が多いが、彼らは皆「いつか作品制作に役立つだろう」とモノを貯めこむ性向がある。一方で、布を使ったアート作品から編んだ銅線を酸化し彫刻作品へと進化させたアーティストがいるが、彼は「3年使わなかったモノは否応なく捨てる」と決めている。だからこそ、彼は次のステップに必要な器具やいくつもの試作品をおく空間を確保でき、新たな作品を生み出せたに違いない。

では、どうやってモノを処分するか?
知人友人にどんどんあげてしまう仲間が圧倒的。中には「スタジオセール」と銘打って、不用品を売るアーティストもいる。いずれも日時を決めて自宅かスタジオに引き取りに来てもらうのが定番だ。

慈善団体への寄付が一般的

不用品を引き取ってくれる業者が星の数ほどあるのはありがたい。多くは慈善団体で、モノは再利用される。「何日何時頃トラックがその通りへ行きます。」という通知が年に4回位来るので、寄ってくれるよう連絡し、トラックが来たらまとめておいた衣類や靴などを手渡す。言ってみれば寄付するわけだが、古着や靴などひとつひとつ自分で適当に値段をつけて手渡すとレシートをくれるので、税申告時に役立つ。

サルベーションアーミィなど大きな慈善団体では、衣類はもちろん、家具や電気製品、冷蔵庫や自転車に至るまで引き取ってくれるが、当然のことながら、まだ使える品が望ましい。古い長椅子やベッドなど大きいモノを引き取る業者もある。査定に来たあと持って行ってくれるが、重さや量により引き取り料を請求されることもある(www.collegehunkshaulingjunk.com/junk-removal)。

シカゴ市では、週に1度ゴミ収集があり、椅子やタンス、ベッドまで出す隣人もいるが、近々大型ゴミは普通ゴミと一緒には収集しなくなりそうな気配がある。

子供たちの教育や救済のための資金源にも

慈善団体に引き取ってもらえば誰かの役に立つというもの。車の処分も可能だ。盗難車でない証明は必要だが、エンコした車でもさびついた車でも24時間以内に牽引車が来て運んで行ってくれる。全米で一番大きな組織では「カーズフォーキッズプログラム (Kars4Kids)」があり、寄付された車による利益は子供達の教育に使われる(www.kars4kidsprograms.org/about-us/)。

カーズフォーキッズプログラムでは、学校に行かれない貧しい家庭の子供達や放課後ギャング化の危険がある荒れた子供達を救う資金として、寄付された車が使われる。他にも車の寄付を乳癌や退役軍人、盲人などの救済資金として使う慈善団体もあって、さすが車社会だと感じる。

手順はいずれも同じで、まず団体へ連絡、査定、書類記入のあと、車の中身を全部出し洗車をして、やってくる牽引車を待つ。ちなみにこちらから運転して持っていく場合には、車を置いたあと、家まで送ってくれるというサービスも。
先に述べたように、税申告時期には査定された車の価格は税金を払う際に慈善という名目で税額控除となるので、レシートをもらう人が多い。

捨てるよりは、誰かの役に立てれば…と

春になり、人々が表に出てくる頃になると、ガレージセールやヤードセールの看板をよく見かけるようになる。家の前に売りたい品々を並べて処分するものだ。たまたま近所に引っ越してきてこれから調理器具などが必要となると、一切合切ひとまとめで何千円、売り手も買い手も笑顔、ということも起きる。

貴重な本は図書館に寄付すると喜ばれるし、寄付された本を図書館や学校でセールをして資金集めの催しをすることも時折ある。製図板や織り機、特殊なプリンター等は専門家やアートスクールに寄付をする人も多い。ネットを通じて不要になったものを売る人ももちろんいるだろう。アメリカ人は、モノを捨てるよりは誰かの役に立てば、と合理的に考えるのだ。

地下室、屋根裏、ガレージが、物置になる前に

さて、処分されないモノ、例えば古いアルバムや使わない家具、子供達が小さい頃に着て捨てるにしのびない服、ドールハウスや鳥かごなどは地下室や屋根裏に雑然と収納される。地下室も屋根裏もない場合は、ガレージの空きスペースに収納。いっぱいになるといよいよガレージが物置に代わり、車は路上に駐車。それでも収まりきれない時は貸し倉庫に預ける。貸し倉庫に夏物、冬物の服や家具を分けて収め、季節ごとに取り出す人もいるが、そうまでして沢山のモノを保有する必要があるのだろうか。
どんどん始末して誰かに有効に使ってもらえば、贅肉を落としてスリムな暮らしがおくれるような気がするのだが…。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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