毎日自分の口に入れる食べ物がどこからくるのか、安全なのかどうか疑問に思う人々は少なくないだろう。野菜を自分で育てる人が都会に増えている…といっても、窓辺にパセリの鉢を置くレベルを越え、農作業に近い。
「コミュニティガーデン」が各所にでき、運営にかかわる人々や参加者達が環境保全に留意しつつ食べ物を自分の手で作り、さらにコミュニティとしての絆も深めようとしている。
コミュニティガーデンは新しい時代の到来を感じさせる。
「自分の手で、納得できる食べ物をつくりたい」
都会に暮らす誰もが一戸建てに住み、野菜を植えるスペースが十分あるわけではない。「コミュニティガーデン」は、そんな人々の需要を満たすためにが生まれた。
それにしても何故多くの都市生活者が自分で野菜を育てようとしているのだろうか?
シカゴのスーパーマーケットでは一年中どんな野菜も果物も手に入る。それらはアルゼンチンやイスラエル、メキシコなど外国から、あるいは3,000キロ離れたカリフォルニア州から運ばれるが、遠い場所から輸送されるガソリンや排気ガスを考えると、環境保全の点で「待てよ…」とためらう気持がある。
できるなら地元で採れた野菜や果物を食したい、さらに一歩進んで、自分の手で納得のいく食べ物を作りたい、という気持を持つ人の増加であろう。
環境保全や食文化の意義等を伝えるのが目的
今回訪ねたコミュニティガーデンは、ピーターソンガーデンプロジェクトの一環で、「ハローハワードガーデン」。
この組織によるコミュニティガーデンはシカゴ市内に6ヵ所あるが、2年から5年公開したあと、まるごと別の場所へと引っ越す。永久にその場所で野菜づくりをしてもらうわけではなく、園芸を通して人々に環境保全や食文化の意義などを伝えるための啓蒙運動を行なっているのだ。
大半のコミュニティガーデンがシカゴ市や数多くのスポンサーの援助を受けて運営する非営利団体であり、土地を保有しているわけではない。
高校や大学、博物館などの組織とパートナーシップを結び、土地を借り、そこを参加者に供給。野菜を育てることで食文化や社会・環境問題の教育の一環とする。また、数年後にはビルが建つ予定の遊休地を数年間使わせてもらう場合もあるようだ。
畳1畳の広さ。24時間週7日いつでも利用可
コミュニティガーデンを利用したい場合、まず会員になってコミュニティガーデン区画を申し込む。どこも毎年2月には満員になってしまうそうで、今シーズンもどこも空きがない盛況ぶりだ。
ハローハワードガーデンでは、4月に有機土壌で満たされ整備された畳1畳くらいの区画が申込者に供給される。週7日24時間使えるので、利用者は都合の良い時に行って自分の区画の野菜の手入れをする。
周囲は塀が巡らしてあり、出入り口には鍵が取り付けられている。約100区画あるうちのいくつかは車椅子使用の人にも使いやすいよう床が高くしてある。シャベルなど道具は借りられるし、何箇所かある水槽に備え付けられているじょうろで水やりをする。
年会費は組織によりさまざまだが、6,000円前後と聞いた。
体質改善をテーマにした料理教室も開催
ピーターソンガーデンプロジェクトではボランティア達がいくつかの区画で野菜を育て、収穫された野菜を地元の選ばれた団体、主に低所得者を救済する組織に供給している。5年前のプログラムスタート以来、何と合計6トンの野菜が寄付されたそうだ。
一方、収穫野菜をただ寄付するだけではなく、食べ物が病気を予防したり体質を改善するなど、よい食べ物を摂ることがいかに大切か、地元の人々と話し合う機会も作っているそうだ。
ピーターソンガーデンプロジェクトでは、自宅で健康的な食事を作るようにと、野菜を主にした料理教室も催している。食事の取り方や内容次第で、太り過ぎや成人病などの原因ともなり、食の改善は現在アメリカで深刻な社会問題でもある。
利用者同士、気軽な絆づくり
コミュニティガーデンは気軽な絆づくりの場とも言える。苗や種を分け合ったり、道具を貸したり借りたり。野菜作りを通して話題が発展してゆく。休暇や出張など何らかの理由で水やりができない時には「しずくマーク」のプラカードを自分の区画に立てておくと、目にした誰かが水をまいてくれるという助け合いもある。
1年間で区画利用は終了するので(実際は4月から秋までの半年間)、血縁、地縁によってできる絆ほど深く重くない分、都会生活者にとっては気楽である。
アメリカの食文化に与える影響は
ピーターソンガーデンプロジェクトのコミュニティガーデンは、環境保全をテーマにしているので、その考え方に賛同できない人には向かない。例えば、食べられる植物は植えられるが、愛でるだけの花はお断り。有機土壌を使い、環境保全の防虫剤を使用。できるだけ自動車使用は避け、自転車かスケートボードでの来場が奨励される。
他のコミュニティガーデンも似たようなルールであるが、根本にあるのは環境保全であろう。自分で作る野菜とはいえ有機土壌は高価だし、手間を考えると決して経済的ではない。大げさに言えば、この活動は環境保全や人との交流、文化を学ぶ社会運動だろうか。
汗を流して野菜の手入れをする人々を眺めていると、コミュニティガーデンはアメリカの食文化を大きく変えつつあるのを確信する。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。