海外トピックス

2015/7/21

vol.278 アメリカの一戸建ては門がないという不思議?

典型的なアメリカの都会の住宅街の街並み。たっぷりとした歩道の右は車道となる(イリノイ州シカゴ市 以下同)
典型的なアメリカの都会の住宅街の街並み。たっぷりとした歩道の右は車道となる(イリノイ州シカゴ市 以下同)
典型的な正面全景。このように門も塀もない一戸建てが多い
典型的な正面全景。このように門も塀もない一戸建てが多い
中西部では、地下室の部分が半階持ち上がる分、玄関入り口は階段を上がるスタイルが多い。門も塀もない
中西部では、地下室の部分が半階持ち上がる分、玄関入り口は階段を上がるスタイルが多い。門も塀もない
100年前に建った古い家。門はあるのだが、表札も門扉もない
100年前に建った古い家。門はあるのだが、表札も門扉もない
左側の入り口ドアを開けるとすぐリビングルーム。1980年代以降にこのスタイルの郊外住宅が数多く建てられた
左側の入り口ドアを開けるとすぐリビングルーム。1980年代以降にこのスタイルの郊外住宅が数多く建てられた
塀を巡らせる住宅も決してないわけではない。それでも門扉がなく、白く塗ったフェンスは開放的だ
塀を巡らせる住宅も決してないわけではない。それでも門扉がなく、白く塗ったフェンスは開放的だ

 アメリカの住宅には「門」がないことに長い間気がつかなかった。「奥ゆかしい門構え」とか「門から中をそっとうかがうと?」…なんて、そんな光景にはお目にかからない。一戸建ての家には室内に入るドアが正面についているだけ。門も垣根もない造りだ。広々した歩道から家全体が見渡せ、驚くほど開放的な眺めである。

 表札は?・・・これもない。番地が玄関ドアか郵便受け付近についているが、名前の表示はまずない。
どうしてアメリカの一戸建ての家には門がないのだろうか?

歩道から丸見え。隣の家とも見晴らし良く…

 しかしよくみると、門がないのは一戸建てに限っての話で、柵や塀で囲ってあったり、名前が表記してあるコンドミニアムやアパートは決して少なくない。そういった集合住宅を除けば、塀も門もない一戸建て住宅がアメリカでは圧倒的に多いと言ってよいかと思う。
 
 普通の人々が住む郊外の中流住宅地域では、道路と歩道ははっきりと区別されていて、車道と歩道との間は芝が植えられた並木道。楓や樫、いちょうなどの街路樹が市町村によって植えられる。歩道から内側がそれぞれの住まいとなるわけだが、日本のような「門」はなく、(つまり塀もない)歩道から住居まで芝生が敷かれ、しかも隣の家とは、芝生が四方に広がっていて余計に見晴らしがよい。散歩すると歩道からどの家も丸見え。他人のためにきれいにするわけではないにしても、どの家も例外なく家周りを美しく保っているのに感心する。

外部とリビングルームを隔てるのはドア1枚

 春がくると花々が植えられ、芝生は週に1度は刈られる。花や芝生を美しく保つよう散水も毎日欠かさない。早朝5時頃にはあちこちの家で地面の下に備え付けられた自動散水機が起動し始める。

 そんな清々しい朝に散歩していて、アメリカの住まいには門や塀がない上に「玄関」の造りも違うなあ…と気づいた? アメリカの住宅は玄関スペースを備えた家もないことはないが、多くはドアを開けてすぐにリビングルームとなる。特に1980年代からレーガン大統領の声がかりで郊外が大規模に開発され、廉価な一戸建て住宅が大量に増えたせいもあろう。開放的な住宅のデザインが好まれたのかもしれない。

 最近は靴をぬいで室内に入るアメリカ人達も増えたが、まだ多くの人々は靴のままで室内に入る。だから日本のように靴をぬぐスペース、いわゆる玄関の間は持たない。日本では靴を脱ぎ、一段上がる、という段階を経て室内に入るが、アメリカの家はドアから一歩入れば室内。外と室内との境界がなく気軽である。

治安の良い地区、悪い地区。それぞれの理由で塀や柵が

 例外もある。アメリカは地域によって治安の良い地区、悪い地区がある。それもかなり極端に。そして両方とも住宅には塀が巡らせてある。悪い地区には塀で囲ってあるのに加えて、窓に鉄格子がはめてあるし、ドアには頑丈な錠や鉄鎖がかけてある。いとも簡単に泥棒に押し入られてしまうから防御のためだ。

 一方、富裕層が集中する超高級住宅街でも背の高い柵が巡らしてあり、防犯カメラが何箇所かについている邸宅もある。しかし、それらは防犯より、むしろ威容を示しているように思われる。まあ、それ程警戒しなくても、高額納税者が多い地域は公共施設へ豊潤に税金がゆき渡るためか、パトカーが頻繁に目を光らせる余裕があり、そう神経質になる必要はないと思うのだが。

アメリカ人は基本的にオープンスペースが好き?

 門と塀で家周りを囲うというのは、実際に防犯対策として役立つかどうかは疑問である。極端な例外は除いて普通の人々が住む地区では、何人かの友人に聞いて見た所、門や塀があるとかえって泥棒が身を隠せて危険ではなかろうか、という意見が多かった。

 富裕層であっても、屋敷と隣の屋敷との境界を塀で遮らない人も少なくない。森や林に囲まれた家だと、訪れる者には境界線がどこかわからない程。だから門もない。これらを観察してみると、アメリカ人達の多くがオープンスペースが好き、という性格によるようで、さらに掘り下げてみれば、文化的な違いが見えてくるかも知れず、興味は尽きない。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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