海外トピックス

2015/8/20

vol.280 夏休み中の校舎を利用したユニークなワークショップ(その2)

ダイニングホールへの入口。ワークショップでは集合場所としてもよく使われた。中央はハーブガーデン。右側はチャペル(テネシー州セントアンドリュースワニー校のキャンパス。以下同)
ダイニングホールへの入口。ワークショップでは集合場所としてもよく使われた。中央はハーブガーデン。右側はチャペル(テネシー州セントアンドリュースワニー校のキャンパス。以下同)
U.S. グリーンビルディングカウンシルのLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)で金賞を受けたサイエンスビルディング。ワークショップの教室に使われた
U.S. グリーンビルディングカウンシルのLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)で金賞を受けたサイエンスビルディング。ワークショップの教室に使われた
平和部隊でアフリカから帰ったばかりだが、自転車で走り回り用事をあっという間にかたずけるパワフルな助手のケイト。背後は生徒達の作品
平和部隊でアフリカから帰ったばかりだが、自転車で走り回り用事をあっという間にかたずけるパワフルな助手のケイト。背後は生徒達の作品
ダイニングルームは知らない人々と話題を共有する楽しいひととき。右から3番目はカナダ人の講師アンジェリカ
ダイニングルームは知らない人々と話題を共有する楽しいひととき。右から3番目はカナダ人の講師アンジェリカ
木陰でランチを食べる参加者達。一人で参加してもすぐに仲良く仲間になるカジュアルな雰囲気である
木陰でランチを食べる参加者達。一人で参加してもすぐに仲良く仲間になるカジュアルな雰囲気である
セントアンドリュースワニー校の寮。一戸建ての家ごとに5室あり、普段は生徒達がそれぞれ住む。夏には寮がワークショップ参加者達の宿舎になる
セントアンドリュースワニー校の寮。一戸建ての家ごとに5室あり、普段は生徒達がそれぞれ住む。夏には寮がワークショップ参加者達の宿舎になる

 アメリカ南部地方の伝承がある。
 ならず者や得体の知れない流れ者などが密造酒を作って密かに売っていた頃のテネシー州スワニー村。酒が欲しい客はとある崖っぷちに行き、窪地に向かってぼろきれ(ラグ)を振って(シェイク)切り株にお金を置く。古い民謡に歌われるように、「そこから曲がり角まで歩いたらもどっておいでよ。あらよ!酒ビンにはいっぱいの酒が…、ほ~れ。」
 歌に従い、客は切り株から歩き出し、ぐるりと回ってしばらくしてから戻ってくると、切り株にはガラスのジャーに入った酒が!
 窪地界隈に住む密造酒を作る人はお上に見つかればお縄にかかるので(当時ならず者は簡単に射殺された)、住処も顔も客にわからないようにこのような取引をしたのだ。
 しかし、この取引は両者間の信頼をもとに行なわれる。「シェイクラグワークショップ」は、その「信頼」に着目して名づけられた(www.shakerag.org/page.cfm?p=777)。 

テーマも講師も…多彩なバリエーション

 夏休み中で空いている校舎を使った大人のアートキャンプ、シェイクラグ・ワークショップの概要については、前回レポートした。
 前期後期それぞれ8つのコースがあり、最新のメディアを使ったクラスと伝統的な技法のクラスがある。MIT出たてのバリバリの若手・グレッグは、アートと幻影についてコンピューターを使って教えた。「マジックランターン、幽霊屋敷、特殊効果」という副題がついているが、旧世代には理解不能…。察するに、ヴァーチュアルリアリティの技法を学ぶのであろう。
 ティルカは、オランダから招かれ、刺繍という技法を使ってアート制作を奨励した。
 カナダから招かれたアンジェリカは、「ディコンストラクション&リコンストラクション」というクラスで、例えば、すでにあるドレスを壊して新しく作り直したり、部分を付け替えたり…、意外性とファッションの楽しさを教える。
 ダイアン・ウィロウは、前期に「サイト、サウンド」を教えたが、普段気がつかない音を再現。水面下の音や、花が開いたり、蟻が歩く音などを記録。不思議でわくわくする「気づき」をうながした。

部隊からの帰国者、元弁護士、子育て女性等々、個性豊かな生徒たちと

 筆者は染めを教えた。受け持った13人の生徒達はさまざまな仕事や経歴を持ち、年齢もばらばら。助手のケイトは2年間アフリカへ平和部隊員として参加し、現地のアフリカ人と協力して漁業の基盤作りに励み、帰ったばかりだったので、アメリカ社会に適応するのがかえって難しいと語っていた。平和部隊での経験を活かして、秋からテキサスの大学院で建物の保存法を勉強する予定。
 ロリィは、ロスアンゼルスの弁護士だったが、40歳を過ぎた頃、ストレスの多い弁護士稼業を思い切って辞め、織物を習って現在はスカーフなどを制作している。経済的には比較にならないが、精神的にはるかに充実した暮らし、と満足。 
 ヴィッキーは精神科医で、頭でものを考えすぎるきらいがあるが、ここで遊び心を学んだと思う。パトリシアはニューヨークの自然博物館のキュレーターだったが、恋に落ちてワシントンD.C.に引っ越し、さまざまな人生を経て、現在はスミソニアン博物館で働いている。
 4歳と6歳の幼児がいる年若いジェーンは近くに宿をとり、幸運にもご主人が日中子供達を見てくれていた。マリオンは仕事の都合で2年間インドに住み、異文化に触れた。キャシーはインテリで前衛的な意見を持つニューヨーカー。
 このように色鮮やかなグループで、食事の時のおしゃべりは刺激的であった。

南部特有の「もてなしの心」が随所に

 シェイクラグ・ワークショップが借りるセントアンドリュースワニー校は私立の全寮制中学高校で、ボーディングスクールと呼ばれ、アメリカの他、イギリスやスイスなどにこのタイプの学校が多い。良家の子弟が大学進学を目的として寮に住んで、勉強はもちろんだが、団体生活を通して礼儀や規律、自立心を身につけ、人との交流を学ぶ。 セントアンドリュースワニー校は南部一古く、伝統と格式のあるボーディングスクールなのだ。
 シェイクラグ ワークショップのスタッフの多くは、同校の卒業生だったり、教師だったり、何かしらセントアンドリュースワニー校とつながりがあり、ボランティアも多かった。
 片道2時間かかるナッシュビル空港に来てピックアップしてくれたのはスタッフのクリスティのご主人であった。ディレクターのクレアは英語教師で、毎夕食後、アートレクチャーが行なわれる前に詩を朗読した。南部のもてなしの心(サウザーンホスピタリティー)は有名だが、このような心遣いが滞在中随所に感じられた。

気持ちも身体もリフレッシュした1週間

 シェイクラグ・ワークショップの参加費は講習代金と1週間朝昼晩の食費を含めて840ドル。寄宿舎は一人部屋420ドル、二人部屋285ドル。旅費を概算で200ドル加えると合計1,325ドル。1ドル124円として、二人部屋でおおよそ17万円弱となる。人里離れた田舎の美しい環境でさまざまな人々と話す機会を持ち、一人だけで制作に集中する時間もある1週間は、パックになったグループ旅行や買い物ツアーとは違う味わいに違いない。
 アメリカ南部特有の文化、とりわけ南部魂と誇りを垣間見る稀な機会でもある。17万円の費用が安いとは決して思わないが、多くの参加者が気持ちも体もリフレッシュし、その費用をカバーするだけのものを得て現実世界に戻って行く様子がうかがえる。
 働く事と遊ぶ事をきっぱりと切り離して、ダイナミックに休暇を楽しむ参加者に驚嘆するばかりであった。

Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年4月号
市場を占う「キーワード」
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。