海外トピックス

2015/12/21

vol.288 ペットは家族の一員

犬はすでに家族の一員である。アメリカは土地が広く家も大きいので、大型犬が多いが、しっかりと訓練されている(イリノイ州ハイランドパーク市)
犬はすでに家族の一員である。アメリカは土地が広く家も大きいので、大型犬が多いが、しっかりと訓練されている(イリノイ州ハイランドパーク市)
犬たちが食事を待ち構え、料理に励むカップル(イリノイ州リバティービル市)
犬たちが食事を待ち構え、料理に励むカップル(イリノイ州リバティービル市)
下の引き出しに犬の水や食事を入れ、必要がない時は閉める。アイランド型のカウンターが大人気だ(イリノイ州シカゴ市)
下の引き出しに犬の水や食事を入れ、必要がない時は閉める。アイランド型のカウンターが大人気だ(イリノイ州シカゴ市)
内容がわかっているかは不明だが、TVを楽しむ犬(イリノイ州シカゴ市)
内容がわかっているかは不明だが、TVを楽しむ犬(イリノイ州シカゴ市)
コンテストに出場するブルテリアともなると、専用の部屋が与えられることも?(イリノイ州レイク郡)
コンテストに出場するブルテリアともなると、専用の部屋が与えられることも?(イリノイ州レイク郡)
犬は、人の交流をスムーズにする(ベルギー、ゲント市)
犬は、人の交流をスムーズにする(ベルギー、ゲント市)

 犬猫用の自動ドアや、犬や猫が見やすい高さに設置した大型スクリーンTV、犬専用の部屋…、住宅開発業者や建築家がペットに焦点を絞って設計した住宅やタウンハウスが大人気だ。

 カリフォルニア州の大手住宅開発業者スタンダード・パシフィック社が発売したコミュニティーの住宅にペットルームをオプションとして付けたところ、幕開けの日に行列ができたという。書斎も持てないお父さん達が多い国の住宅事情を思い、首をかしげてしまう。
 
 犬になりたい、とひがみたくもなろうが、住宅開発業者や建築家が顧客獲得にペット作戦を打ち出したのにはわけがある。動物愛護協会の調査によると、現在、全米約1億2,000万世帯のうち約8,000万世帯がペット(犬、猫)を飼っている。

 犬に絞ってみよう。4,335万世帯が犬を飼っている(www.avma.org)が、犬の総数およそ8,000万匹のうち約半数の世帯が犬を1匹以上飼っている勘定。犬を「我が家の家族」と考える飼い主世帯は66.7%(2012年)もいるそうだから、この状況を不動産ビジネス業界が見逃す筈がなかろう。ちなみに猫もほぼ同じような割合である。

住宅建築でも無視できなくなってきた、ペットの存在

 アメリカン・ペット・プロダクツ・アソシエーションの調査によると、飼い主の主流がミレニアルズ(15歳-35歳)世代に移ってきており、彼らは両親や祖父母の時代よりも一層ペットに対して溺愛したり、お金をかける傾向にあるらしい。それを裏付けるように、建築家のリース・アルトマンは「犬を飼う人は増加しており、我々が住宅を設計する時に犬の存在はもはや無視できない。飼い主にとり、犬が寝て食べて排泄し遊んで、という主な行動を容易にするような家のデザインを顧客は望んでいる」と。シカゴトリビューン紙に述べている。

 昼間は仕事に出かけ家を留守にする友人がいる。客用寝室の大きな窓に沿って長椅子を置き、彼女の愛犬は通りを歩く人々や、前の公園で遊ぶ子供達を眺めて日中過ごす。また、TVもつけ放しにしてあり、喜んで見ているそうだが、彼女にとって犬は単なる動物以上なのであろう。

犬が近づくと、自動で食器が出る仕掛けが!

 あるカップルが家を建てる時に重視したのは、どうしたら犬が快適に暮らせるか、という点であった。建築家と1ヵ月にわたる話し合いの末、さまざまな工夫を凝らしたペット優先の住宅建築を着工。広大な敷地には犬の遊び場が数箇所設けられ、周囲は景観面を考慮して目に見えない電流フェンスを巡らす。キッチンに隣り合わせたパティオには、壁に嵌め込んだ大きな犬用キャビネットを設置し、ドッグフードやシャンプー、ブラシ、引き綱などの犬用品を収納。犬がキャビネットに近づくと、首輪にセットされたマグネットキィで自動的に下方の引き出しに入った水のボウルと食器が出てくる仕掛けになっている。

 アメリカの多くの家庭は室内でも靴を履いているので、日本ほどは犬が泥足で上がるのに神経質ではないが、雨や雪解けの場合に備えて裏口の土間やガレージに洗い場を設けることも。そこに犬の小物をまとめて収納する人が多い。

 ペットフレンドリーのウェブサイトを立ち上げた不動産エージェントのローナ・スッターは、ペットフレンドリーの賃貸や一戸建て住宅、ペットに合わせた改築や改装、犬や猫を伴う引越し、バケーションホームレンタル、ペット製品まで幅広く紹介している。

床材やドアもペットに配慮

 食べやすい高さに合わせた犬の食器と水ボウル用の引き出しと共に、犬用のドライフードを収納できるアイランド型のキッチンキャビネットは現在人気ナンバーワン。引き出しは犬の食事時間以外には閉めることができるので、家族がつまずくのを防げるし、食べ散らかしも目につかない。

 また、一般的になってきている木のフローリングだが、犬は爪が滑るので好まない。だから建築家は新素材を探す祭にも、例えば、自然の木のように見えて、犬の転倒も防げるようなものを念頭におく。

 硬い木の床は犬の爪を傷めるだけでなく、幼犬の場合は手のひらの筋肉の発達を妨げることにもなると獣医さんからも聞いた。対応策として、犬の足のサイズに合わせて爪にはめ込むグリップが7種類つくられている。カーペットを敷きつめる手もあるが、匂いがついたり毛が落ちるので人気はない。

 犬猫用の自動ドアも顧客の要望が多いそうだ。建築家や建設業者によって設置されるが、夜半はセットした時間に犬が自分で庭にトイレに出るのに使われている。

ペットというより、もはや家族

 元来、犬は用心のためとか、牧羊犬や運搬に使ったりと、人間の暮らしに役立つために飼ったのだが、今やペット以上の地位を確立したようだ。そこまでする必要があるのだろうか?と感じることもしばしばだが…。

 ある朝、犬を連れて散歩中、道ですれ違った年配の方と言葉を交わしたのだが、「最近犬を亡くして…」と悲しい顔をなさった。「犬は家族ですものね。」と言ったら、「そうなんですよ!!!」と声を大にしてなつかしげな笑顔を浮かべたのが深く印象に残った。

参考資料
シカゴトリビューン新聞2015年10月25日
/www.daltile.com/inspiration-and-diy/wood-look-tile/wood-look-tile-flooring
www.humanesociety.org
www.petrealtynetwork.com


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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