海外トピックス

2016/2/5

vol.291 人生の幕をひくときは…

アメリカ南北戦争で亡くなった北軍兵士達の墓。修復、建て直されて記念碑が添えられている(イリノイ州シカゴ市)
アメリカ南北戦争で亡くなった北軍兵士達の墓。修復、建て直されて記念碑が添えられている(イリノイ州シカゴ市)
海軍の基地にて。訓練を受けた若い兵士達はここから直接戦場や海外のアメリカ合衆国基地へ出向く(イリノイ州ハイウッド市)
海軍の基地にて。訓練を受けた若い兵士達はここから直接戦場や海外のアメリカ合衆国基地へ出向く(イリノイ州ハイウッド市)
さまざまな記念祭典に軍隊の兵隊達がパレードに参加する(イリノイ州シカゴ市 以下同じ) 
さまざまな記念祭典に軍隊の兵隊達がパレードに参加する(イリノイ州シカゴ市 以下同じ) 
墓に自分の彫像を飾る人も…
墓に自分の彫像を飾る人も…
18歳のお嬢さんを亡くした時に大学進学奨学金制度を創設した友人のミラー夫妻
18歳のお嬢さんを亡くした時に大学進学奨学金制度を創設した友人のミラー夫妻
葬儀場から墓へ棺を運ぶ葬儀車。家族や友人の車が何台もあとに続く
葬儀場から墓へ棺を運ぶ葬儀車。家族や友人の車が何台もあとに続く

 1月22日、猛吹雪に襲われたアメリカ東部、ワシントンD.C.。アーリントン国立墓地で無名戦士の墓を守る第三歩兵連隊兵士達は、零下22度の寒さにもかかわらず、墓の守護を続行していた(/www.nytimes.com/live/winter-storm-jonas/tomb-of-the-unknown-soldier/) 。

 吹雪と極寒の中で不動の姿勢を長時間とり続けることができるのは訓練の成果だけではなかろう。彼らは国に命を捧げた無名戦士達に対して最大の敬意を捧げているのではあるまいか。

 墓の守護は1948年以来、365日24時間いかなる状況下でも決して休むことはない。現時点でも中東で日々兵士が斃れているが、何十年も戦争のない平和な日本では想像もつかないことだろう。

 戦地で亡くなった兵士はアメリカ本土へ送還され、体と身につけた腕時計やメダルは軍隊の専門家によって血や泥など落とされ、丁寧に心をこめて浄められたあと棺に納められる。そして棺は兵士達により厳かな儀式に沿って大きな星条旗ですっぽりと包まれる。引き取り手がいなかったり、身元がわからない場合は、アーリントン無名戦士の墓地に埋葬される。

 第三歩兵連隊兵士達は、アメリカ全国民を代表して感謝と哀惜の気持ちを惜しまない(/www.flickr.com/photos/theoldguard/sets/72157661492204694/)。

アウトドア派だったデザイナーのお葬式は…

 人生にはさまざまな葬り方、葬られ方がある。

 友人のご主人が亡くなった。カリフォルニアに生まれ育ち、海が好きでサーフィンや大型のヨットで太平洋を航海したり、オートバイ(ハーレ―デヴィッドソン)も大好きな徹底したアウトドア派で、職業はインテリアデザイナーであった。彼の遺言で火葬され、灰となって戻って来た。息子がオートバイに乗り、妻は灰が入ったカンをバックパックに背負ってオートバイの後ろに乗り、故人が好きだった海岸や海に突き出た桟橋、新婚当時に住んだ海が見晴らせるアパート、全米サーフィン大会が行なわれる海岸などをドライブした。オートバイ仲間達が彼らのオートバイの前後を何台かで警護したという。

 初七日には筆者と友人とで故人が大好きだったイタリア料理店へ行き、いつも故人がオーダーしていた一品を頼み傍に置き、思いをこめてワインで乾杯。食事を共にした。1ヵ月後、友人達が集まってささやかな「偲ぶ会」を催した。墓はない。

故人の思い出話を語り、送別

 シカゴに住む友人、ジュリーの父親が亡くなった時も故人の遺言で宗教的な葬儀はせず、家族のみで埋葬した。

 数週間経ってエバンストン市の公園の中にあるホールで送別会が行なわれた。50人位集まり、ステージを設け、孫や友人達がそれぞれ故人にまつわる思い出を話した。友人達による室内楽やビアノの演奏、ギターを弾いて共に歌をうたったりと、故人の若い頃から晩年までの生涯を改めて思い起こさせる楽しい集いであった。楽しい、という言葉は葬儀にはふさわしくなかろう。しかし、話しをする誰もがさまざまな角度から故人を表現して、本人がその場に活き活きと一緒に過ごしているような気がしたほどであった。

 ケータリング(出前)のケーキとお茶が出され、互いに紹介し合って話題を共有した。故人が核となって大勢の人たちを結びつけた楽しい会というのが正直な印象だったのである。

香典や花の代わりに寄付を

 アメリカでは国民の半分以上がキリスト教なので、筆者もキリスト教の葬儀に列する場合が多いが、キリスト教(新教の場合)は葬儀場で行なわれる通夜(ヴィジテーションと呼ばれる)及び葬儀に参列する。どちらか片方に出る場合もある。葬儀は多く教会で行なわれ、牧師が司り賛美歌を歌って黙祷を捧げる。そのあと、棺を墓地に運び埋葬するが、家族と親しい友人達が霊柩車の先導で墓地に行く。静々と進む車の列は赤信号も通過するし、他の車を排して優先される。何十台も続くと交通渋滞になるが…、待つより仕方がない。

 棺を埋葬したあとは、教会か家族の家で軽い食事を共にする。この時も「しめやかな」雰囲気でないことにいつも驚くのだが、誰もが明るい話題をとりあげるように思える。

 香典の習慣はなく、キリスト教では花束を贈ったり墓に供える。キリスト教に限らず行なわれるのは、故人の遺言で花の代わりに大学の奨学金設立や動物愛護協会、ガンリサーチなどのために援助の寄付を募るといったようなことだ。大学入学寸前で亡くなった娘を偲んで奨学金制度を設立した友人がいるが、その奨学金で毎年大学へ進めるようになった若者の数が増えてゆくのはうれしい限りである。

自分の葬られ方は自分で考える

 アメリカは宗教色が強く、自分の信じる宗教に従って葬儀は行なわれるし、あるいは前述したように宗教色のない葬儀も家族や友人達によってなされる。キリスト教と一口に言っても、新教(プロテスタント)と旧教(カソリック)があり、新興宗教もある。ユダヤ教は信じる度合いで幾つかのグループに分けられ、自分が属するシナゴーグ(教会と同様の集会所、聖堂)で律法師(キリスト教の牧師や神父に近い)が執り行なう。

 筆者はイスラム教やヒンズー教の葬儀の様子はわからないし、仏教もいくつかの宗派と寺があるようで詳しくない。だから生前にどのように葬って欲しいか言い残しておかないと、残された人はとまどってしまう。

 自分の人生の幕を引くのは自分しかいない、という自覚を持って、どういうカタチに納めるか考えてみるのも必要ではないだろうか。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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