海外トピックス

2016/2/19

vol.292 ミレニアルズへ、世代交代の波

都会では便利な公共交通機関を利用する若者達が増えてきている(イリノイ州シカゴ市)
都会では便利な公共交通機関を利用する若者達が増えてきている(イリノイ州シカゴ市)
若者たちにはマーケットで買い物をする動きが見られる(イリノイ州エバンストン市)
若者たちにはマーケットで買い物をする動きが見られる(イリノイ州エバンストン市)
自家用車を持つよりも車を借りるさまざまな方法が開発されてきて、若者達の人気を集めている(カナダ、バンクーバー市)
自家用車を持つよりも車を借りるさまざまな方法が開発されてきて、若者達の人気を集めている(カナダ、バンクーバー市)
通りにはさまざまな触れ合いや交流が生まれる
通りにはさまざまな触れ合いや交流が生まれる
ミレニアル世代はベビーブーマーズに比べてはるかに健康に留意する(イリノイ州シカゴ市)
ミレニアル世代はベビーブーマーズに比べてはるかに健康に留意する(イリノイ州シカゴ市)
 新しく都心に建ったコンドミニアムや賃貸アパート。どの建物も都心にもかかわらず、緑を配置する傾向が見られる(イリノイ州シカゴ市)
新しく都心に建ったコンドミニアムや賃貸アパート。どの建物も都心にもかかわらず、緑を配置する傾向が見られる(イリノイ州シカゴ市)

 若者をターゲットとした乗用車を発売したが、あてがはずれて不人気。製造中止になるというニュースを聞いた。ガソリン価格が安くなって、経済的な小型車よりもパワーのある大型車に人気が移ったのか? しかしそれだけが不人気な理由とは考えにくい。名だたる自動車メーカーだから、周到なリサーチやマーケティングをしたはずだが…。

 数年前にも同様なことがあった。やはり若者を対象に、四角くて独創的な車をホンダがアメリカで売り出したが、若者よりも中年以上の人々に爆発的に好まれるという異変が起きたのだ。

 こうした結果は、現代の若者、ミレニアル世代の嗜好をつかみかねているとしか思えない。

経済や政治に対し常に不安感

 ミレニアルズは1983年から2000年に生まれた世代で、現在16歳から33歳。幼少時から青年期にかけて冷戦終結や社会主義の没落、アメリカ同時多発テロ事件を体験しているので、経済状況や政府の社会政策に対して不安感をぬぐいきれない。

 ベビーブーマーズが1950年代から60年代に抱いたような「アメリカンドリーム」や「大きいことはいいことだ」といった楽天的な価値観は持たず、X世代の「豊かな仕様の家をもち、より高価な車に乗る」という大望も、ミレニアルズにとっては空々しく映っているようだ。

デジタル化の中で芽生えた新しい価値観

 ミレニアルズは、生まれた時からすでにデジタル化された暮らしの中で育った。先日、大学生が授業の一環で筆者のスタジオにインタビューに来た。車でないと来にくい場所で気がかりだったが、学生はバスを待ったが来ないので、ウーバーを使ったそう。帰りは最寄りの駅まで車で送るつもりでいたら、「ウーバーで車を呼ぶから大丈夫」と言う。

 ウーバーとは、タクシーと似てはいるが、個人が自分の車を使い、ネット上で全ての処理がなされる。顧客は携帯電話からウーバーにタップ。呼び出しがかかると近くにいるドライバーがキャッチし、顧客の待つ場所へ向かい、顧客を乗せて目的地まで運ぶのだ(www.uber.com) 。

 学生はやってきた車(普通の乗用車)に乗り込み、あっという間に去った。クラスメート達の大半は車を持たず、ウーバーを多用しているそうだ。

車社会にもかかわらず、運転免許を持たない若者が増加

 ミレニアル世代はいまや購買層の中心となってきているが、彼らの暮らし方を知らないと、とんだ思い違いをする。

 ミレニアルズには「所有する」苦労を背負いたくない傾向がある。景気の低迷期で雇用の不安定さを体験、あるいは見聞きしているので、身軽に生きたいという姿勢はわからないでもない。

 例えば車の保有に関して。若者の車離れが始まっている。アメリカは車社会だが、運転免許証を持たない若者が増えてきている。車の免許を持つことは親に頼らず一人でどこへも行かれる独立の証し。ところが、ミレニアルズは都会で公共交通機関を使ったり自転車を利用したり…、車が必要であれば、ジップカー (www.zipcar.com) を数時間借りたりウーバーを利用する。ジップカーもウーバーもすべて携帯電話で手配、支払いもネット上で行なわれる。

収入の半分が家賃でも、便利な都心なら…

 賃貸住宅マーケットも世帯交代の様相を示す。

 例えば賃貸料が高くても車なしで過ごせる都市の中心部に賃貸物件を求めるミレニアルズが増えてきた。政府は賃貸料あるいはローン返済は収入の3分の1までがギリギリの線と示唆しているが、収入の2分の1を賃貸料として払っても都心にこだわるミレニアルズが少なくない。
 
 2BRで月々42万5,000円がサンフランシスコの平均の賃貸料というから驚く。中西部のミルウォーキー市は9万6,000円、デトロイト市は6万1,000円というリサーチ結果が出ているが(Apartment List 5/31/2015 Chicago Tribune newspaper)、安全性、仕事の内容や将来発展する可能性、そこで得られる文化的な楽しみなどを考え合わせると、サンフランシスコやシアトル、ロスアンゼルスなど西海岸はIT産業のメッカであり、たとえ賃貸料が高額であっても都市には支払った金額に価するものが得られる、とミレニアルズは納得しているのだろう。

所有より共有。独自の消費スタイル

 収入の半分も賃貸料に回すのなら、都心にコンドミニアム購入を考えないのだろうか?

 ここで同様の物件を望むベビーブーマーズと正面衝突するが、先を譲らざるを得ない。都心の贅沢な仕様のコンドミニアムに移り住むベビーブーマーズが増えているが、すでにローンを払い終えた家があるので資金面で潤沢。ミレニアル世代は都心のコンドミニアム購入をあきらめ、賃貸に甘んじることとなる。

 こうした現象を不動産ビジネスから見ると、公共交通機関が便利な都市であれば、賃貸料が高くてもミレニアル世代を取り込む可能性が見えてこないだろうか。彼らは所有するより共有する傾向がある。自分の庭を持たなくても緑を共有できる場があり、健康を保つジムが近くにあるなど、ミレニアルズ独自の消費スタイルと嗜好をとらえ、供給出来る内容をネット上でどう展開出来るかが、アメリカ人口の3分の1を占めつつあるミレニアル世代を惹きつける成功の鍵となろう。


参考資料
www.npr.org
Chicago Tribune newspaper (05/31/2015)
Chicago Tribune newspaper (01/11/2015)
Chicago Tribune newspaper (12/20/2015)


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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