海外トピックス

2016/3/22

vol.294 独身女性は住宅市場の牽引力

犬を調教するダンリィ。犬を連れて旅をする機会も多いプロフェッショナルだ(イリノイ州シカゴ郊外)
犬を調教するダンリィ。犬を連れて旅をする機会も多いプロフェッショナルだ(イリノイ州シカゴ郊外)
ダンリィの一戸建ての住まい。背後には広い運動場を設け、犬の訓練に使っている。
ダンリィの一戸建ての住まい。背後には広い運動場を設け、犬の訓練に使っている。
ダンリィはアンティックにも造詣が深く、行く先々で手に入れた興味深い品が飾られている
ダンリィはアンティックにも造詣が深く、行く先々で手に入れた興味深い品が飾られている
引退してゆったりとした暮らしを楽しむトルーディ(緑色のブラウス)。自宅で催したパーティでケーキを切り分ける(イリノイ州ウィルメット市)
引退してゆったりとした暮らしを楽しむトルーディ(緑色のブラウス)。自宅で催したパーティでケーキを切り分ける(イリノイ州ウィルメット市)
たくさんの花々や庭の木にとりつけたバードハウスなど、女性らしい飾り付け。暮らしを楽しむ余裕が感じられる
たくさんの花々や庭の木にとりつけたバードハウスなど、女性らしい飾り付け。暮らしを楽しむ余裕が感じられる
パートナーは有名なトランペッター。トルーディの自宅で時折演奏会を催す
パートナーは有名なトランペッター。トルーディの自宅で時折演奏会を催す

 白い馬に乗った王子様(プリンスチャーミング)がいつか現れる、という神話を信じる女性は今の時代にどれくらいいるだろうか。現代の女性は待ってはいない。活発化してきた不動産マーケットだが、とりわけ独身女性の活発な動きが注目され、彼女らが不動産セールスを引っ張る主力と言っても大げさではなさそうだ。

 コンドミニアムや一戸建て住宅を購入する独身女性の増加で、不動産物件(商業物件は除く)全購入者のうち独身女性が15%の割合を占め、既婚者カップルに続いて購入者としては第2位、大きなグループとなってきているのだ(National Association of Realtors=NAR、2015年のデータ)。

独身女性の初めての住宅購入は平均32歳

 周囲を見回すと、働く女性には未婚が多い。ミルウォーキーのウィスコンシン大学で教えている友人(50歳過ぎ?)はアーティストなので、授業以外は自宅の近くに借りているスタジオで制作に専念。ギャラリーに行ったり食事を共にする男友達はいるが、彼女にとっては作品制作を順位の最初に置いている。

 NARの2015年のデータによると、独身女性が最初の不動産物件(一戸建て住宅、コンドミニアム、タウンハウス、新築、中古物件など)を購入する年齢は32歳が大多数だそう。確かに友人も30歳代前半に賃貸から最初の家(中古)を手に入れた。数年勤めてのちに助教授に昇格し、ウィスコンシン大学に腰を落ち着ける覚悟ができた時期だろう。

将来が見通せる段階になったところで、自分の城を

 時代の流れや私的な状況により、賃貸か購入か、その決断は難しい。賃貸なら水漏れやトイレの故障など、電話一本管理人にかければ修理してもらえるが、自分の家だとそうはいかない。所有する以上はそれなりの責任が降りかかってくる。

 しかし、働く女性にとって仕事のめどがつき、将来がほぼ見通せる時期となる30代前半に最初の家購入に踏み切るのは賢い選択だと思う。
家を購入したあとは自分一人の城。お金を貯めて、自分の住みやすいように改装や改造するのも楽しみだし、投資にもなる。いつかプリンスチャーミングが現れて結婚するかもしれないが、それは特別なご褒美としてとっておこう。

夫婦のようでも、家は別々に所有

 コンピューターソフトウェアのコンサルタントとして働き、現在は引退してパートナーとゴルフや旅を楽しんでいる友人トルーディは、かなりの収入があった30代の頃、高級住宅地に小さな中古住宅を手に入れた。

 不動産売買では、1にロケーション、2にロケーション、3にロケーションというが、立地条件は価格を決定する大切な要素。トルーディの買ったその家もロケーションが良く、数年後予想外の高値で売れたので、より大きな一戸建て住宅を購入し、大幅な改造を行ない最新の設備を整え、快適な暮らしをしている。

 われわれは彼らを夫婦としてつきあっているが、トルーディは法律的に結婚するつもりはなく、パートナー共々それぞれ自分の家を持ち自分のスペースを確保。従来の夫婦と違うカタチだが、女性に家と収入があって初めて可能であろう。

男性に依存しない、自分の生き方を選択

 周囲の独身女性達を眺めると、独立して仕事を持ち、暮らしを充分に楽しんでいる様子がうかがわれる。親しい友人のジョアンもトルーディ同様、すでに十数年前に中古一戸建て住宅を購入。そして最近ボーイフレンドができた。共に興味のあるメキシコの遺跡を見に旅をするなど二人で過ごす時間が増えたが、互いに経済的に独立した暮らしを保ち、精神的にも依存していない。

 女性は二十歳すぎたら結婚相手を探して子供を産み育てる、男性は家族を養う、というパターンは、数多くある選択肢のひとつに過ぎない。男性に頼ることなしに自分の生き方を「選択」する女性が増えている実感がある。

最初の経験を教訓に、50代で一戸建てへ

 前述したデータでは、独身女性住宅購入者の平均年齢は50歳だそうで、そのうちの72%は一戸建て住宅を購入するそうである。

 例えば32歳で初めてコンドミニアムを購入し、それを頭金に次の物件へと買い換える。若い頃に家を手に入れると、次に売ったり買ったりする場合に経験を積んでいるため、より賢い買い物ができよう。職場を解雇されたり、降格される場合もあるし、転勤の可能性もあろう。ローンは余裕を持って組み、売る場合も考慮して、小さくても管理の良いコンドミニアムやタウンハウス、そしてトルーディのように交通の便も良く安全な場所を選ぶ。

 実際に物件を見る際も、十数年前は両親を伴うケースが多かったが、現在は女性がしっかりしてきて親の意見に左右されることはなくなった。むしろ信用のおける友人を連れて行き、意見を聴くほうがよいと不動産ビジネス専門家は忠告している。

 山のような書類や審査や物件の検査等をこなし、ついに自分の家の鍵を手にした瞬間、女性は独力で成し遂げた満足感に包まれるに違いない。プリンスチャーミングがやってくるのをただ待つよりも大変だが…、鍵を手にした女性の素敵な微笑みが想像できる。


参考資料:シカゴトリビューン紙 2016年2月28日


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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