海外トピックス

2016/4/6

vol.295 クィーン・エスターを讃えるユダヤの祭り、プーリム

小さい子供達は大人が付き添い、プレゼントを持ってユダヤ系アメリカ人の家々を回る(イリノイ州シカゴ市。以下同)
小さい子供達は大人が付き添い、プレゼントを持ってユダヤ系アメリカ人の家々を回る(イリノイ州シカゴ市。以下同)
スイスかオーストリアの牧夫に扮装した少年達
スイスかオーストリアの牧夫に扮装した少年達
牧夫に扮装した家族は本物の羊を2頭も町へ運び込んだ!!!隣人達が芝生を食べさせている
牧夫に扮装した家族は本物の羊を2頭も町へ運び込んだ!!!隣人達が芝生を食べさせている
消防士か工事の人の扮装をし、あちこちの家を訪れて回る
消防士か工事の人の扮装をし、あちこちの家を訪れて回る
ご丁寧に胸毛まで付けたロックバンドグループ。よく観察すると、後ろを歩く人がVサインを…!
ご丁寧に胸毛まで付けたロックバンドグループ。よく観察すると、後ろを歩く人がVサインを…!
伝統に従いつつ、祈って飲んで食べて笑って楽しく一日過ごすプーリムである
伝統に従いつつ、祈って飲んで食べて笑って楽しく一日過ごすプーリムである
季節限定のクッキー、“ホメンタッシェン”。ホメンがかぶっていた三角形の帽子に由来する。
季節限定のクッキー、“ホメンタッシェン”。ホメンがかぶっていた三角形の帽子に由来する。

 ディズニープリンセスはアメリカの女の子達を魅了するが、プーリムに登場するクィーン・エスターはユダヤ系女性の憧れだ。

 プーリムは、世にも稀な美しさと賢さを備えたクィーン・エスターが大勢のユダヤ人を救った歴史上の出来事を記念して祝う大切な祭りで、ユダヤ歴に従い毎年早春に行なわれる。互いに贈り物を交換したり、仮装したり、クィーン・エスターの勇気を讃えつつおいしいものをたらふく食べ、ワインを飲んで楽しく過ごす祭日である。

 国により時代により、クィーン・エスターの物語にはいく通りもの解釈があるが、旧約聖書のエステル記(アメリカではエスター)が基本で、ユダヤ教では「ブック・オブ・エスター」としてマギラと呼ばれる単独の巻物になっている(en.wikipedia.org/wiki/Book_of_Esther)。

身分を隠し、ペルシャ王に嫁いだエスター妃

 クィーン・エスターの物語とは…。

 紀元前5世紀、ユダヤの首都ジェルサレム (Jerusalem) はバビロニアに滅ぼされ、ユダヤ人達は囚われてバビロンの各地に送られた。その後バビロニアを滅ぼしたペルシャ帝国によってユダヤ人達は引き続き支配される。

 ペルシャのアハシュベィロシュ大王は、当時インドからアフリカまでを勢力下に置き、世界一絶大な軍事力を誇っていた。新しい首都を定め、祭りを何十日も催した折に、泥酔した王は、美しい妃ヴァシティに舞い踊るよう命令。誇り高い妃は王の命令を拒否したため、怒った王はヴァシティを殺してしまう。

 家来達は次なる王妃を探すため、国中奔走し、多くの娘達を宮殿へ連れて行く。叔父のムラハイに育てられた孤児のエスターは、大王の家来によって他の娘達と共に宮殿へ。エスターはユダヤ人であることを秘していたが、王は彼女を見てたちまち気に入り、新しい妃にする。

サイコロの目の数で、ユダヤ人虐殺の日を決める

 当時王国一の金持ちだった軍人ホメンは大王のお気に入りで首相であった。国中の人々が権力者ホメン首相にへつらって低く頭を下げたが、エスターの叔父ムラハイだけは頭を下げなかった。

 「ホメン首相閣下は大きな金のメダルを首から下げているため、自分はまるでメダルに描かれている肖像に頭を下げているようです。ユダヤ人は偶像礼拝を禁止しているので頭を下げられません」とムラハイは言う。

 怒ったホメン首相は王に「ユダヤ民族は我々と同じ食べ物を避ける(ユダヤ人はコーシャーを守るので。)我々のように7日間働かない(ユダヤ人は休息日を定めている。)これでは国家統一は不可能です!よろしければ私が彼らを一掃いたします」と讒言。

 大王の命令一下、サイコロを投げ、出た数の日にユダヤ人達を虐殺し始める。

 サイコロをへブル語でプーリム/PURIM と言い、この物語のかなめとなっている。

死を覚悟で、秘密を打ち明けたエスター

 これを知ったエスター妃も叔父のムラハイもひどく心を痛める。叔父ムラハイの願いで、エスター妃は多くのユダヤ人達と共に3日間の断食と祈りの後、勇気を奮って大王のもとへ。

 王が「愛する私のエスター妃や、何が欲しいのか?お前が望むのなら我が王国の半分でさえ、そなたに与えよう」(と言ったかどうかは定かではないが…)、紆余曲折の長い話をはしょると、エスター妃は殺される覚悟をして自分がユダヤ人であることを大王に打ち明け、同胞のユダヤ人達の虐殺を止めてくれるように王に嘆願したのだ。

 エスター妃の願いは叶い、腹黒いホメン首相の企みが暴かれ失脚、ホメンはのちに殺される羽目に。

 ユダヤ人達は王の許しを得て彼らを殺す幾多の敵と戦い、めでたく勝利を収める。彼らは神に祈って同胞と宴を催し、喜びを分かち合う。
 後にエスターの勇気を讃えてこの日を「プーリムの祝日」と定めた。

2400年続く、祝いの日

 プーリムの日は3つの楽しいことをする。

 第1に贈り物。と言っても、キリスト教でのクリスマスプレゼントとは元来の意味が全く違う。それぞれの品に意味が込められ、2種類以上の品に祝福が与えられる品物を注意深く選ぶのが特徴。例えば、三角形の焼き菓子は「ホメンタッシェン」。ホメン首相が被っていた三角形の帽子を表し、悪者ホメンを食べてしまえ!というわけだ。コミュニティや貧しい人々にお金や品物を寄付したり、ジュースやワインなどの飲み物や食べ物などを友人や隣人に届ける。食べ物のほか、おもちゃやキャンドル、コーヒーマグなどを含む事もある。

 第2に、大人も子供も仮装して家から家へと回り歩く。イタリーのカーニバルから影響されたらしいが、ナッツを投げたり、太鼓や鈴を鳴らして騒ぐ。

 第3にご馳走をお腹がはちきれる程食べる。普段ユダヤ人達はあまり酒は飲まないが、この日ばかりはワインをグイグイ飲んで酔っ払っても許されるらしい。

 このようにして紀元前の戦いが終わった日を記念して。世界中のユダヤ人達は2400年もの間、プーリムを祝い続けているのである。


参考資料
The Jewish Encyclopedia. Funk & Wagnalls Company. NY. London 1925.
judaism.about.com/od/holidays/a/The-Story-Of-Purim.htm
www.aish.com/h/pur/f/48970006.html


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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