海外トピックス

2016/4/21

vol.296 カリフォルニアの陽光がいっぱい! アンヌリース・スクール(その1)

アンヌリース校の入り口。校門とは言っても、石やコンクリートは使わず、自然素材に楽しい色で塗り分けてある(カリフォルニア州ラグナビーチ市。以下同)
アンヌリース校の入り口。校門とは言っても、石やコンクリートは使わず、自然素材に楽しい色で塗り分けてある(カリフォルニア州ラグナビーチ市。以下同)
小学5年生。いたずら盛りだが生き生きしていて本当に可愛らしい
小学5年生。いたずら盛りだが生き生きしていて本当に可愛らしい
教室に続くオフィス。職員室といういかめしさはどこにも見られない
教室に続くオフィス。職員室といういかめしさはどこにも見られない
ロバやポットベリー豚などが飼われ、子供達は触ったり撫でたり…
ロバやポットベリー豚などが飼われ、子供達は触ったり撫でたり…
都市なので、田舎の農場のようなわけにはいかないが、よく手入れがしてある農園。ピンクの柵が緑に映えて可愛らしい
都市なので、田舎の農場のようなわけにはいかないが、よく手入れがしてある農園。ピンクの柵が緑に映えて可愛らしい
アメリカインディアンのティピ。中で授業が行なわれるのはひときわ楽しそうだ
アメリカインディアンのティピ。中で授業が行なわれるのはひときわ楽しそうだ

 とびきり魅力的な環境で幼児教育をする学校がカリフォルニア州にある。学校の校舎からして、楽しいおとぎの国に迷い込んだようだ。黄色やエメラルド色に塗られた可愛らしい建物が、なんと、校舎とは?

 もっと驚いたのは、アメリカインディアンのティピの中で授業が行なわれているのだ!

 校内に溢れる沢山の野菜や花々、巨大な鳥小屋で羽を広げる孔雀や白鳥、ロバやアルパカにも目を瞠る。

 アンヌリース校では、人間が自然と共に生き、地球人としての自覚と責任を持つことを教育の基本に置いている。この基本理念は創造性と密接な関係があり(筆者は客員として招かれ、5年生を教える機会に恵まれたのだが)、幼少の頃から彼らの創造力を伸ばすよう、さまざまな教育の工夫がなされているように見受けられた。

「園芸」の授業は、害虫管理や水の再生・利用法まで

 ロスアンジェルスの南、潮風と陽光溢れるラグナビーチ市に3ヵ所に分散してアンヌリース校がある。

 そのうちの一つ、幼児から小学6年生までを預かるウィローブルック分校のユニークな教育の一つになっている、園芸プログラムを紹介してみたい。

 カリフォルニア南部は気候が温暖なため、園芸プログラムは一年中通して続けられる。生徒達は校内の有機ガーデンで種や苗を植え、世話をし、収穫。腐葉土を作ったり、害虫管理、水の再生と利用など、農業の全プロセスを通して多岐に渡っている。

 通常、多くの小学校では数学の先生が掛け算や足し算を教え、理科の先生は気体や液体の勉強等、科目ごとに単独に教える場合が多いが、アンヌリース校ではさまざまな科目が重なり合うような授業展開となっている。そのためには教師自身、自分の専門分野を広げねばならず大変と察するが、生徒達にとっては柔軟性に富み、好奇心が刺激される教育法のようだ。

食材を通じて、原産国の文化や歴史を学ぶことも

 例えばアメリカ以外の国の園芸も取り上げる。従来の科学的に研究する園芸からさらに踏み込み、生物学から生命循環の科学、さらに諸専門分野に広く深く関わり合ってゆくこともある。

 あるいはその土地での食物や農業を調べることによって、地理をはじめ、言語、その国独特の社会性や歴史の意義を学ぶこともできよう。その国の言葉で歌を歌ったり、ゲームをする。その国独特の食材がランチに取り入れられ、味の好き嫌いはともかく、幼児にとっては新しい料理の発見、それをきっかけとして教師は食文化の紹介をする。

旬の食材を使った健康志向のランチメニュー

 9月から6月までのメニューが発表されているが (annelieseschools.com/pdf/menu.pdf) 、野菜や果物、豆類が主体で、幾つかの珍しい外国料理が取り入れられている。

 5月18日のランチは「豆腐入りのココナッツカレー、バスマティライス、キュウリのサラダ、季節の果物」といったインド風のメニューで、生徒の親のためにココナッツカレーの作り方も加えられている。メニューには、地元の農園から届く毎月の「旬」の果物、野菜の特徴や栄養についても説明がされており、アンヌリース校のネットでも紹介されている。

 アメリカでは野菜や果物が世界中から輸入されスーパーマーケットの店頭に並ぶ。そのため季節に関係なくいつでも入手でき、子供達は「旬」を知らずに成長する。その意味でも旬の食材は、親や先生との話し合いのきっかけともなるテーマともなろう。

 イタリア料理「パスタ・プリマベッラ」では、アスパラガスが多く使われているが、アスパラガスには炎症を抑えたり、発ガンを止める幾つかの栄養が含まれているそう。インドや中国など歴史の古い国では薬膳とか漢方をはじめとして、数々の食材が病気の予防や治療に応用され、日々の暮らしにも取り入れられてきているが、アメリカではそういった考え方はまだ定着していない。

 美味しくてお腹がいっぱいになるドーナッツやポテトチップス、甘味飲料と比較して、この点も生徒、先生、親達とで話し合う興味深いトピックに違いない。

 日々のメニューを眺めると、5月24日には「ベジタリアンチリソース、蜂蜜入りバターのとうもろこしパン、グリーンサラダ、季節の果物」と、健康志向が強くうかがわれる。

地球人として生きる責任と自覚を学習

 給食は有機農業による地元の食材を使って校内ですべて調理される。学校で収穫される野菜も時折テーブルに上がるとか…。

 最終的には園芸プログラムを通してすべての野菜を給食用にまかないたいと望んでいるようだが、都会の学校の限られた広さの畑で数百人分の野菜の収穫は現実的ではなかろう。

 ハリウッドやサンタモニカのファーマーズマーケットへも出荷している近隣の有機栽培の農場や果樹園 (JJ’s Lone Daughter Ranch) から、野菜の他、アボカド、いちじく、ざくろ、オレンジ、レモン、みかん、ライムなどを取り寄せている。幼児のおやつには、菓子よりも地元で採れた新鮮なこれらの果物が多く与えられる。

 園芸プログラムは、手や体、頭を使いながら環境保全を学び、地球人として生きる責任と自覚を目的としているが、現在われわれが住む世界の主要な環境問題の本質を園芸プログラムを通して勉強してことになるだろう。

 広い意味での文化や科学、政治にまで授業がだぶっていくので、結果として、生徒達は環境保全専門家と言って良いほどに成長してゆく。これによって幼児期に得た経験や知識は、一生役立つに違いない。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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