海外トピックス

2016/6/21

vol.300 都会のど真ん中にオアシスが出現! ミレニアムパーク

ミレニアムパーク(野外公会堂)ではさまざまなコンサートが催される(ヨーヨーマが出演した「シルクロード」を主題とした無料コンサート。イリノイ州シカゴ市。以下同)
ミレニアムパーク(野外公会堂)ではさまざまなコンサートが催される(ヨーヨーマが出演した「シルクロード」を主題とした無料コンサート。イリノイ州シカゴ市。以下同)
中西部の在来種が多く植えてあるルリィガーデン。開拓使時代のプレイリー(大草原)を思い起こさせる
中西部の在来種が多く植えてあるルリィガーデン。開拓使時代のプレイリー(大草原)を思い起こさせる
ボランティア達が手入れをするが、基本的にはそれ程手がかからない種の植物を植えてある
ボランティア達が手入れをするが、基本的にはそれ程手がかからない種の植物を植えてある
左側の常緑樹は都会の騒音を遮断するよう設置されている。風防の役目も果たす。後方はフランク・ゲリーデザインのパビリオン
左側の常緑樹は都会の騒音を遮断するよう設置されている。風防の役目も果たす。後方はフランク・ゲリーデザインのパビリオン
左の木々の塀で車の音が遮断されるので、水のせせらぎが耳にここちよい
左の木々の塀で車の音が遮断されるので、水のせせらぎが耳にここちよい
水の流れに足を浸してのんびりと寛ぐ人々。京都の疎水を思い起こさせる
水の流れに足を浸してのんびりと寛ぐ人々。京都の疎水を思い起こさせる
ルリィ ガーデンのプログラムディレクター(左)カレンと、植物研究家でボランティアのミシェール(右)
ルリィ ガーデンのプログラムディレクター(左)カレンと、植物研究家でボランティアのミシェール(右)

 シカゴ市の中心に時代を先取りした壮大な「ミレニアムパーク」ができた。

 ミシガン湖沿いの一等地で25エーカー(10ヘクタール)にも及ぶ大きな公園だ。東京ドームを2個分合わせたより大きい。約10年前にほぼ完成はしたのだが細部はいまだに続行中。巨大で前衛的な彫刻や噴水、賛否両論の議論が湧き上がった現代建築家フランク・ゲィリーによるジェイプリツカーパビリオン(野外公会堂)などが点在する。

 初夏からはさまざまなコンサートが無料で開かれ、椅子席と芝生に座って毎回1万人余りの聴衆で湧く。土曜と水曜の早朝にはパビリオンの芝生でヨガやタイチの無料プログラムが組まれ、200人から300人の老若男女が集まって各1時間ずつエクササイズに励む。

 パビリオンの周囲は「ルリィガーデン」と名付けられた庭園が巡らされており、平和で静けさに満ちている。

前市長が音頭。20年がかりで

 約20年前、ミシガン湖沿いの公園の隣の駐車場を広げて、もう少し大きくて魅力的な公園にしたい、とディリー市長(当時)が音頭をとって企画したのだが、世界中で一番大きな「都会の中の公園」にしようじゃないか!と次第にプランは膨らみ、総額約500億円かけ、さまざまな困難を乗り越えて現在のかたちに至った。

 その分、シカゴ市民に負担がかかるので不満の声も上がったが、世界中から観光客が訪れ、観光客を惹きつける目玉商品として市の収入も見込まれるから、ま、いいとしようか。

 夏には毎日無料で開催されるパビリオンのコンサートにサンドイッチや飲み物をバスケットにつめて友人同士で集まり音楽を聴きながらピクニックを楽しんだり…、市民に多くの恩恵があるのだから。

庭園は、騒音・風害防止の役割も

 これらの巨大な彫刻やパビリオンなどの建築群、ミシガン湖からシカゴ市をぐるりと見晴らす橋(フランク・ゲィリーデザイン)、フェスティバルや野菜や果物の朝市が開かれるプロムナードなどを巡って壮大なルリィ ガーデンが設置されている。

 著名な庭園デザイナー3人による共同作品で(Gustafson Guthrie Nocol Ltd. and Piet Oudolf)、 企画当初からさまざまな工夫が凝らされている。

 まず、木々の高い塀が建物の周囲を何メートルにも及んで延々と設置され、目隠しの役目を果たしている。庭園を歩くと、車の騒音がぱたりとやみ、静寂に包まれるのに驚かされる。また、この木の塀は高層ビルやミシガン湖からの強い風を防ぐ役目もする。

市民の憩いの場は、植物生態研究の場にも

 さらに植えられた240種の植物。すべて多年草なので、毎年繰り返し生えてくる。春先に新しい草花を植えたり、秋に咲き終えた草花を取り除く手間が省ける。中西部に昔からある在来種を植えているが、何パーセントかの外来種も加えて植え、それらがどのように在来種とせめぎあったり根付いてゆくかの研究もしている。プレーリィ(大草原)の再現と言えようか。

 中ほどに小川が作られている。京都の疎水を思い起こさせるが、ルリィガーデンの小川は高層ビルを背景に現代的なデザインだ。小川のわきで本を読んだり寝転んだり、ぼんやり水の流れる音に耳を傾けたり…、足を水に浸す人も見かける。

市民ボランティアでさまざまなワークショップ開催

 植物研究家の友人ミシェールは月に1回ルリィガーデンで約2時間の庭園ガイドツアーをしている。その時々の季節の植物や庭園のデザインを解説したり、植物の手入れや外来種と原生種の区別を説明する。長年ミシェールが学んできた豊富な経験と知識を今後はボランティア活動に生かしたいそうだ。

 パビリオンは野外公会堂で屋根がないが、後ろにリハーサル用の屋根付きの建物があり、その中で講義やワークショップがシーズン中に20回も無料で開かれている。毎回異なったトピックで、植物学者、科学者、哲学者、造園家、建築家、アーティストなどを招く(筆者は先日藍染めのワークショップを行なった)。

 こうした催しは植物を通して都市や自然界、環境保全などをさまざまな角度から学ぶよい機会だ。ミレニアムパークの中心であるルリィガーデンはまさに都心のオアシスとなっている。


参考資料
www.cityofchicago.org/city/en/depts/dca/supp_info/millennium_park.html
www.luriegarden.org/visit/


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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