海外トピックス

2016/11/21 18:00 更新

vol.310 バンクーバーのベブ

焼きあがったアップルパイとベブ。左側はパンプキンパイ(カナダ バンクーバー市。以下同)

ベブの自宅。木造住宅で古い家々が立ち並ぶ静かな住宅街にある

カナダのかえでは国旗にも使われているが、それをマスクにして子供たちにお菓子を手渡すベブ

ハロウィーンの夜は子供達がお菓子をもらいに家々を回る。扮装した両親が後ろで様子を見ている

ベブ宅の客用寝室に1週間滞在した。日差しが高い窓から入り明るい

ベブの家の近所のかぼちゃを売る小さな店

オリーブオイル、にんにく、そしてターメリックをからめてオーブンで焼いたさまざまな野菜

 ベブは、バックパックを背負って一人で世界中を旅する勇敢で好奇心の強い女性である。好奇心も手伝ってか、あるボランティア活動をしている。

 カナダのバンクーバーにメイワというアートスクールがあり、毎年秋から初冬にかけて長期間シンポジウムを開催するのだが、彼女は、そのシンポジウムで講習や講義を行なうために世界中から招待されたアーティストを自宅に泊め、期間中朝晩の食事や弁当、そして送り迎えをするボランティアのひとりだ。

 筆者はこの秋、同シンポジウムに招待を受けバンクーバーに1週間滞在、ベブ宅にお世話になった。

 見知らぬ町で集中的に仕事をする場合、ボランティアの暖かな心遣いがあると仕事の成果が格段にあがるような気がする。

食事しながら世界各地の文化や伝統の話を

 本場イタリアでシェフから学んで来たというカプチーノ(コーヒー)をベブは毎朝作ってくれる。ヨーグルトやブルーベリー、バナナ、ココナッツミルク入りのスムージーにいちじくが入ったパンをトースト、というのがある日の朝食。

 その後学校まで車で送ってもらうのだが、その際にはタマゴサンド、ぶどうや梨、りんごなどの果物、クッキーが入ったお弁当を持たせてくれる。

 夕食はベブが「料理を学ぶ旅」でイタリアから戻った直後なので、珍しい南イタリア料理が食卓に並んだ。ワインを飲みながらベブと料理や比較文化、カリブ海でのスキューバダイビングやアンコールワット修復時の話、メキシコのワハカ地方の伝統的な織物など…話題は尽きない。

3BRの一戸建て住宅に一人暮らし

 すでに成人した二人の娘がいるベブは、カナダのバンクーバー市で一人暮らし。リビングルーム、キッチンとダイニングルーム、3BR、広いロフトと小さな庭がついた一戸建て住宅に住む。風呂トイレは1階に1つ、2階の客用寝室に1つ、ベブの寝室に1つ。そして3階には大きなロフトスペースが設けられ、もちろん風呂トイレつきだ。4室も風呂トイレが設けてある分、リビングルームもダイニングルームもキッチンも実に小さい。アメリカの一般住宅に比べてアンバランスな程だ。

 しかしゲストの立場からすると、勝手な言い分ではあるが、よその家に泊めてもらう場合にトイレと風呂をそこの家族と共有せずにすむのは気楽だ。

ハロウィンの夜は子供達を待ちながらリビングでワインを

 たまたま筆者がバンクーバーに着いた夜はハロウィンであった。

 ベブは大きなカボチャをくり抜き蝋燭を灯したジャック・オー・ランターンを玄関脇に置き、お菓子をたっぷり用意して、黒い装束にかえでのマスクをつけて待機。夕暮れから続々と子供達が訪れ始め、ドアをノックする。われわれは玄関近くのリビングルームでワインを飲みながらノックを待つ。そして子供達が「トリック・オア・トリート」と乞うたびにお菓子を手渡した。

 ベブは子供達の衣装をほめたり、黙って去る子がいれば「何か言うことないの?」と、「ありがとう」を言うのをうながしたり。その晩は何と150人余りの子供達が訪れ、20時過ぎには山ほど用意してあったお菓子は品切れ。玄関のシェードを下ろして「閉店」と相成った。その頃にはすでにわれわれもワインですっかりでき上がっていた。

世界各地の知人を情報源に、時間さえあれば一人旅

 ベブは孫がいる年齢で決して若くないが、今年の春はインドに1ヵ月旅をして、その後オーストラリアへ。初秋は南イタリアへ出かけ、農場でトマトソース作りや地方色豊かなチーズやパスタ作りの実習に参加してきた。去年は中南米とメキシコへ一人で出かけたそうだ。

 長年の教師生活から引退し、その年金と投資などの蓄えで暮らしているベブは決して贅沢な旅行ができるわけでもない。一人用のテントをかついでキャンプをする時もあるし、電車やバスを乗り継ぎ、思わぬ出来事に遭遇することも多々あるそうだが、世界中に知人が多く情報豊か、リサーチも充分して出かけるので、向こう見ずな行動というわけではない。

娘二人も「自由な地球人」

 二人の娘もベブの精神を受け継いだのか、「自由な地球人」である。長女のジェニファーはカナダ政府の仕事で現在アフガニスタンに駐在しているが、爆弾に耐えられる小さなシェルター住居に住んでおり、住まいもオフィスも数人で共有している。命の危険があるため外出を禁止されているので、たまるストレスを考慮して政府から3ヵ月おきに有給の海外旅行が給付されるのだそうだ。ジェニファーはカナダに住んでいるご主人と落ち合って、日本やフランス、南米などへ旅行してこの政府からのご褒美を楽しんでいる。

 次女のステファニーは財務の仕事の休みを長期期間とり、2年前はホテル代を節約するために夜行バスを使ってバンコックから北ベトナムへ3ヵ月旅行してきた。今回はフィリピンを旅するというステファニー。バックパックを背負って「行ってきま〜す」と気軽に出かけてゆく彼女を、内心は不安もあろうベブと見送った。

多様性を受け入れ、多くのアーティストとの交流を楽しむ

 旅を通してさまざまな文化や宗教や人々を受け入れる広い心が醸成されるのであろうか。こうしたボランティア活動に携わる人々にはベブのような女性達が多い。

 メイワから1日当たり5,000円前後の手当が出るらしいが、家族でも友人でもない他人を自宅に泊めて送り迎えをし、3食面倒をみるのは気が張るに違いない。

 しかし、ベブは「さまざまな人生経験を積んだアーティストと親身に話ができて楽しい」と、さわやかな笑顔を浮かべてくれた。


Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


AKEMI NAKANO COHN

明美コーンコーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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