海外トピックス

2017/7/6

vol.325 タウンハウスを選ぶ理由

ミシガン湖をながめられる素晴らしい立地条件のタウンハウス(イリノイ州 シカゴ市)

 いまタウンハウスがミレニアルズを惹き付けている。タウンハウスは多くが平屋か2階建てで、壁と壁が接する集合住宅。

 同じ集合住宅でもコンドミニアム(日本ではマンションに該当)は上下左右に他人が住むためにプライバシーの保護が弱く、ベランダがついているだけで庭がない。一戸建ては自分一人の城でプライバシーは万全、多くは広い庭つきだが、家の手入れや修理がやっかいだ。
 その点、タウンハウスは小さくても庭がつく住まいが多く、しかも最低限のメインテナンスで済む点、コンドミニアム及び一戸建て両方の住まいのマイナス面を補う。
 付け加えて、タウンハウスが注目を浴びるきっかけとなった買い手の志向の変化も見逃せない。

広さより、プールやジムなどのアメニティが魅力

入り口は一軒ずつ別になっているので、一戸建てと同じ感覚である
珍しく3階建てのタウンハウス。大抵は平屋か2階建てだ(カナダ バンクーバー市)

 これまでに3,500戸以上の住宅を手がけたウッズ氏(ナショナル・アソシエーション・オブ・ホームビルダーズの前理事)によると、ミレニアルズは一戸建て住宅よりは「アメニティ・パッケージ」を含むタウンハウスに興味があるようだと述べている(6月18日Chicago Tribune newspaper)。

 アメニティとは、住宅に付帯する設備や施設のことを指し、プールやテニスコート、ジムやエクササイズルーム、多目的メンバールームなどをいう。
 これまでは同じ物件価格であれば、居住面積が大きい住まいほど買い手を惹き付けたので、供給者側は可能な限り居住面積を増やそうと建ててきたが、ウッズ氏の指摘は「広さ」は第一希望ではないという劇的な変化を示唆している。

競争力あるタウンハウス

広く裏庭がとってあるのでBBQを楽しんだりランチを戸外で楽しめる

 そう考えると、ミレニアルズをターゲットとする住宅建設の場合、第一に一戸建ての家を何軒か建てるよりは壁で隣り合ったタウンハウスの方が建築費を節約できるうえ、一戸一戸接して建設される分だけ土地も余裕ができる。建築業者はその分をアメニティに回したらどうであろうか。
 同じ価格の物件を比較した場合、いま新鮮な付加価値を求める若い買い手達はアメニティ・パッケージを見逃すわけがない。他の物件を大きく引き離す鍵となろう。

 第二に、旧来のタウンハウスは細長く狭く暗いので、新たに建設するためには全体を長方形でなく正方形にし、明るく広い印象を買い手に与える必要がある。タウンハウスの建築様式は前後しか開口部がないので、窓は可能な限り高く大きく設けたい。

タウンハウスの窓はできる限り高く大きくとりたい(この写真は一戸建てだが参考に使用)

タウンハウスとコンドミニアムの明確な違い

 3戸とか4戸だけ並ぶタウンハウス、ずらりと横に広がる大規模なタウンハウス群、外から遮断され塀で囲まれたゲイティッド・コミュニティ内のタウンハウス、さらには「タウンハウス風」にデザインされたコンドミニアムまで見かける。だからタウンハウスと一口に言っても、、、混乱する。

 タウンハウスとコンドミニアムとの一番はっきりした違いは、どの部分を所有するかだ。タウンハウスの所有者は自分が住む部屋の内部と外側及び玄関前庭裏庭を所有する。コンドミニアムは自分が住む部屋の内部だけを所有する。従ってタウンハウスの方がその分だけ価格が高い。

ゲイテッドコミュニティのタウンハウス。敷地内に色々な施設が整っている(カリフォルニア州 ハンティングトン・ビーチ市)

共有部が少ない分、HOA会費も安い

 タウンハウス、コンドミニアムいずれも月会費をHOA(=ホーム・オーナーズ・アソシエーション:Home Owners’ Association*)に払う点は同じである。HOAはその建物に住む人々により運営され、建物やそこでの生活上の問題は集会で議題にされ討議される。ごみ処理や芝生刈りなど共有部分はHOA会費で賄う。しかし、タウンハウスは自分が所有する室内と外側、そして自分の庭まで責任を持つので共有部分は少なくHOA会費は高くはない。 

 一方コンドミニアムは、門番やエレベーター、セキュリティなどさまざまなサービスがHOA会費に含まれるために月会費はタウンハウスよりかなり高くなっている。
(*コンドミニアムの場合はCondominium Association と称するが、一括してHOA と言う場合が多い。)

典型的な様式のタウンハウス(イリノイ州 シカゴ市 以下同じ)

アメニティがコミュニティ形成のカギに

 ミレニアルズとは20歳代を中心とした若者世代で、専門職を持つ都会住まいの独身者や若いカップル、およそ18歳から30歳位までのグループ。いまやアメリカの不動産ビジネスにおいて購買層の中心となってきている。
 一戸建てか、コンドミニアムか、あるいはタウンハウスか…、どれを選ぶかは自分が望むライフスタイル(と予算)に関わってくる。

 彼らは忙しい。それでも新しい友達を作ったり仕事以外での社交を望んでいる。だからもしタウンハウスの付帯設備が充実していれば、忙しい時間をやり繰りしてわざわざプールやジムに通う時間が省け何よりも便利なのがうれしいのだ。タウンハウス内のテニスコートでお互いに知り合う機会があるし、エクササイズを通して仲間もできよう。
 そうやってタウンハウス内でのコミュニティが次第に築かれてゆく。アメニティを充実することで、ミレニアルズたちが精神的充足感を得られるという大きなボーナスがつくというのが、人気の理由と言えなくはないだろうか。

参考資料
http://www.investopedia.com/articles/real-estate/082516/condo-vs-townhouse-vs-house-which-right-you.asp?lgl=myfinance-layout-no-ads
http://articles.chicagotribune.com/2012-01-21/classified/sc-cons-0119-condo-vs-house-20120121_1_condo-boards-owner-occupancy-ratio-single-family-house
http://www.diffen.com/difference/Condo_vs_Townhouse#Homeowner_Association_.28HOA.29

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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タウンハウス

2階建ての連棟式住宅のこと。各住戸の敷地は、すべての住戸の所有者が共有していることが多い。

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