記者の目

2010/7/14

「都会に住む」、「郊外に住む」とはどういうことか

―価値観ごっちゃ煮ニッポン住まい考―

 海外ドラマをこよなく愛する面々にはおなじみのアメリカの人気テレビドラマシリーズ「セックス アンド ザ シティ」と「デスパレートな妻たち」。  どちらのドラマも4人の女性が主人公だ。日々たくましく、生き生きと暮らす彼女たちの日常をコミカルに描くことで、各人各様の価値観や、人生の選択などを写し出している。人生賛歌をうたう現代版悲喜劇ともいえよう。  と、紹介すると、「ああ、この記事は女性の生き方の話ね」と誤解されてしまいそうなので、そうではないことをまず断っておきたい。  私がここで注目したいのは、そのドラマが繰り広げられている「まち」におけるライフスタイルの違いなのである。

土地の値段が高く、十分な敷地の広さを確保できない都心部では、建物は「横にのびる」ことが許されず、「縦に伸びる」しかなかった。現在では、タワーマンションならではの「眺望を楽しむ」といった面が強調され、ほとんどのタワーマンションの高層階には入居者専用の共用施設として、ラウンジやバーが設けられている。地方都市のタワーマンションから見える景色は、一体どんなものだろうか(写真はイメージ)
土地の値段が高く、十分な敷地の広さを確保できない都心部では、建物は「横にのびる」ことが許されず、「縦に伸びる」しかなかった。現在では、タワーマンションならではの「眺望を楽しむ」といった面が強調され、ほとんどのタワーマンションの高層階には入居者専用の共用施設として、ラウンジやバーが設けられている。地方都市のタワーマンションから見える景色は、一体どんなものだろうか(写真はイメージ)
米国のテレビドラマ「セックス アンド ザ シティ」の舞台となったニューヨーク・マンハッタン(エンパイアステートビルからセントラルパークを望む)。商業・文化の中心都市であるこのまちには、オフィス、住宅をはじめ、レストランやショップ、ギャラリーやナイトクラブなど、都会生活を満喫できる要素が詰まっている
米国のテレビドラマ「セックス アンド ザ シティ」の舞台となったニューヨーク・マンハッタン(エンパイアステートビルからセントラルパークを望む)。商業・文化の中心都市であるこのまちには、オフィス、住宅をはじめ、レストランやショップ、ギャラリーやナイトクラブなど、都会生活を満喫できる要素が詰まっている
ニューヨーク・マンハッタンのフィフス・アベニュー(五番街)とセントラルパークに面する伝説的ともいえる名門「プラザホテル」。現在では、ニューヨーク市の歴史的建造物にも指定されているが、同ホテルの上層部がコンドミニアム(日本でいう区分所有の分譲マンション)として売り出され、世界中の富豪から熱い注目を集めた。いわば、「都会生活」の究極形か
ニューヨーク・マンハッタンのフィフス・アベニュー(五番街)とセントラルパークに面する伝説的ともいえる名門「プラザホテル」。現在では、ニューヨーク市の歴史的建造物にも指定されているが、同ホテルの上層部がコンドミニアム(日本でいう区分所有の分譲マンション)として売り出され、世界中の富豪から熱い注目を集めた。いわば、「都会生活」の究極形か
広々とした前庭とバックヤードを持つ、米国・ニュージャージーの郊外型住宅。平均的所得の人が購入できる住宅だそうだ
広々とした前庭とバックヤードを持つ、米国・ニュージャージーの郊外型住宅。平均的所得の人が購入できる住宅だそうだ
日本最初の大規模ニュータウンである「千里ニュータウン」(大阪府豊中市・吹田市、開発面積約1
日本最初の大規模ニュータウンである「千里ニュータウン」(大阪府豊中市・吹田市、開発面積約1
160ha)。2012年で初入居から50年を迎える。ニュータウンは都市通勤者への住宅として人気があったが、少子高齢社会の到来とともに地域商業の衰退などが問題化、しかし最近ではさまざまなまちづくり活動がみられるようになった。「ニュータウン」はいわば、「郊外」の象徴的存在だ。ちなみに、「千里ニュータウン」駅から「梅田」駅までは電車で30分程度。東京郊外育ちの記者にとっては、「近い」という感覚だが、代々、東京・浅草で生まれ育ち働いている友人に言わせれば「まどろっこしい距離」
160ha)。2012年で初入居から50年を迎える。ニュータウンは都市通勤者への住宅として人気があったが、少子高齢社会の到来とともに地域商業の衰退などが問題化、しかし最近ではさまざまなまちづくり活動がみられるようになった。「ニュータウン」はいわば、「郊外」の象徴的存在だ。ちなみに、「千里ニュータウン」駅から「梅田」駅までは電車で30分程度。東京郊外育ちの記者にとっては、「近い」という感覚だが、代々、東京・浅草で生まれ育ち働いている友人に言わせれば「まどろっこしい距離」
日本有数のオフィス街から数分のところにも、「戸建住宅」はある(写真はイメージ)
日本有数のオフィス街から数分のところにも、「戸建住宅」はある(写真はイメージ)
かつてヘレン・ケラーやデール・カーネギーといった著名人も暮らしたことで有名な、ニューヨーク市クイーンズ地区の高級住宅街「Forest Hills Gardens」。広々とした敷地にゆったりと建てられた同住宅地は、もともとは中堅所得者層向けに建てられたもの。しかし住民の手でチューダー様式の意匠やまち並みが保存されるなど、住環境の良さから人気が高まり、今ではクイーンズ地区でもっとも高級な住宅地として知られている
かつてヘレン・ケラーやデール・カーネギーといった著名人も暮らしたことで有名な、ニューヨーク市クイーンズ地区の高級住宅街「Forest Hills Gardens」。広々とした敷地にゆったりと建てられた同住宅地は、もともとは中堅所得者層向けに建てられたもの。しかし住民の手でチューダー様式の意匠やまち並みが保存されるなど、住環境の良さから人気が高まり、今ではクイーンズ地区でもっとも高級な住宅地として知られている
日本でも郊外型住宅のモデルとなるような住宅地が誕生している。写真は「あおしの里・長倉」(新潟県長岡市)
日本でも郊外型住宅のモデルとなるような住宅地が誕生している。写真は「あおしの里・長倉」(新潟県長岡市)

 「セックス アンド ザ シティ」は「ニューヨーク・マンハッタン」界隈という「都会」、「デスパレートな妻たち」は「ウィステリア通り」(架空)という「郊外」がその舞台。
 
 前者の女性たちはマンハッタンの高層住宅に住み、ナイトライフを満喫するという「都会生活」を、一方、後者はよく手入れされた広い前庭のある戸建住宅に住み、読書会やガーデンパーティーを近隣で開き合うといった「郊外生活」を送っている。

 詳しくは両ドラマをご覧いただき、ライフスタイルの違いを見比べていただきたい。まったくもって異質であることがおわかりいただけるだろう。
 しかしなぜ、「都会」と「郊外」のライフスタイルについてここで取り上げたくなったのか。それには、次のような理由があった。


人がいないまちの「都会生活を満喫する?」家

 きっかけは、とある地方都市に行ったときに感じた「違和感」である。
 人口10万人にも満たないその都市の駅前には、新築のタワーマンションがぽつんと1棟建っていた。周辺にはのどかな大地が広がっていて、お店もまばら。

 周囲の田園風景とタワーマンションのギャップに興味を覚えながら近づいてみると、そのタワーマンションの広告には、あたかも都会生活を満喫できるかのような宣伝文句があった。
 そしてそれを目にした記者は独り唸った…。

 確かに、都会にはタワーマンションが林立しているし、建物の形状だけみれば、目の前にあるそのマンションは都会のそれと似ていなくはない。
 が、ここは明らかに都会ではない。商工業や文化活動の中心となっている様子は伺えないし、そもそも人の姿が見えないのだ。

 一体、ここでどうやって「都会生活」を満喫するのだろう…、もとい、都会生活って何?

 そうして、「都会型生活」と、その対称の一つとして「郊外型生活」について、考えてみたくなったのである。


都会と郊外では「家の目的」が異なる

 前置きが長くなったが、前述の2つのドラマの登場人物とその生活を比べると、「家の目的」に大きな違いがあると感じる方も多いだろう。

 郊外型の家は、日々の生活の場であることはもちろん、友人とのおしゃべりの場、子供たちが遊ぶ場、食事会やパーティーの場、勉強の場、くつろぎの場など、さまざまな機能や役割を内包している場合が多い。そのため、大型化した家に滞在する時間は長く、また決して少なくない時間を家の内外のメンテナンスに充てることになる。

 一方、都会型の家は、本質的には、寝て体を休め、外に出る準備をする場である。
 おしゃべりの場は自宅近くのカフェであったり、家の台所や食堂の機能を近所のレストランが担っていたりする。つまり、都会の家は、機能を外部化しているのだ。

 ところが日本ではどうだろうか。都会に求めるライフスタイルと家、郊外に求めるライフスタイルと家とが、ごっちゃになってやいないだろうか。


「なんのためにこの家を買ったのだろうか…」

 核家族で郊外部に居住するスタイルは、「近代に新しく誕生したライフスタイル」と、まちづくりに詳しい東京都市大学教授・小林重敬氏は指摘する(月刊不動産流通2010年2月号新春対談「社会・経済の変化と不動産業」)。

 昔は仕事も子育ても男女一緒にやるというのが一般的な生活だった。
 しかし、住宅が郊外化すると、夫婦2人のうち1人が働きに出て、もう一方が家に残るというスタイルが確立。電車に長いこと揺られて会社に出勤するお父さんと、働くお父さんが家にいない間、子育てと家事を担う専業主婦が誕生したというのだ。
 もちろん、企業の誕生と給与所得者の増加といった社会構造の変化が背景にある。郊外型住宅と企業戦士+専業主婦という組み合わせは、相性が良かった。

 しかし、美しい丘陵地に広がる郊外型戸建団地に住む専業主婦の友人から、こんな話を聞いた。

 子供のいない夫婦共働き世帯が近所に引っ越してきたらしい。
 共働きのため、2人して夜遅くに帰ってくることも多く、日中、その家の周囲には人の気配がない。庭の手入れなどもされておらず、草の茂る夏場は荒れ放題。ご近所としても防犯面で不安がある。そもそも町内のゴミ当番や地域活動などにもあまり協力してもらえず、コミュニティを築きにくい面がある、とのこと。
 おそらくこれから生まれるかもしれない子供が育つ環境を考えて、夫婦2人で力を合わせてがんばって家を購入したのだろうが、ほとんど家に居ることができない様子を見るにつけ、「なんのためにこの家を買ったのだろうか」と、端で見ていてかわいそうになってしまうということだった。

 つまり、彼女の指摘は、2人ともフルに働くのであれば、もっと勤務地である都心に近く、いろいろと手がかからないマンションライフを選択したほうがよかったのではないか、ということである。

 話が遠回りしたが、言いたいことは、働き方や育児への関わり方などによって選ぶ住まいは当然変わる。
 逆に、都市にある家と郊外にある家では、家の活用のされ方が異なり、よって家に求められる機能は本来、大きく異なるはずであるということだ。

 しかし現実問題、日本の家には、都会生活に求められる機能と、郊外生活に求められる機能がごっちゃになって備えられていたり、逆に備えられていなかったりしているのではないだろうか。


フランチャイズチェーン化するまち

 日本ではどんなに交通網が発達した「都会」で暮らしていようと、車を所有すること自体にステイタスがあるのだろうか、密集した狭小敷地に軽自動車がぎりぎり入るか入らないか程度の駐車場を設けた戸建住宅が散見される(でも、そんな車庫からは車を出すだけでも一苦労! そのためか、実際にその車が動いた姿は見たことがない。その程度の使用頻度であれば、レンタカーで十分?)。

 逆に、都心から1時間強かかるベッドタウンには、本来ゆったりとした敷地と自然あふれる住環境を期待したいところだが、価格を抑える意味もあるのだろうか1区画30坪弱の開発分譲地が売り出されていて、広告文句は「東京まで6○分」とアクセスの良さ(いや、むしろ悪さ?)をうたっている(東京の通勤圏であることをアピールしているのだとは思うが…)。

 そして、その双方の家を比較すると、それぞれの家が建っているまちの地域性や風土、役割は大きく異なるはずなのに、なぜか「そっくり」なのだ。

 話をさらに広げてみると、これは、家だけでなく、「まち」に対しても同じことがいえるのではないだろうか。

 現在、日本全国どこへいっても、同じような店、似たような風景を目にする機会が多くなった。
 どこの店においても同じ味を提供する「フランチャイズチェーン」の飲食店のように、どのまちにいっても同じ生活ができることを、われわれが求めてしまっているのか、まちが均一化してきているように感じている。

 均一化が進めば、本来そのまちや界隈が保有している潜在的な可能性や良さが失われていくことになる。


家やまちを使い分ける

 白洲次郎は、イギリスの貴族である地方の領主「カントリージェントルマン」という生き方を標榜し、実践した。
 そして、カントリー・ジェントルマンが所領にもつ本邸(カントリー・ハウス)とロンドン滞在中に使用する別宅(タウン・ハウス)を使い分けていたように、白洲次郎もカントリー・ハウスとタウン・ハウスとをそれぞれの目的に応じて使い分けていたという。

 しかし、庶民にとって、それぞれの目的に応じた家を複数所有することは簡単なことではない。
 そこで、出てくる考え方が、ライフスタイルやライフステージに合わせた「住替え」である。

 生涯に住み替える平均回数がおよそ7回といわれるアメリカに対し、日本は平均2~3回程度。
 (社)不動産流通経営協会の調査(2009年4月発表)によると、持ち家居住世帯の一生涯における「住替え確率」は0.835回である。

 「心の豊かさ」とは己が満足している状態を、また、「社会的な豊かさ」とは、選択の機会と選択肢がさまざまある状態を指すのだと記者は理解している。

 家を自分の人生のステージに併せて住み替えていくと同時に、服を購入する、食事をする、散歩をする、二人で住む、子供と住むといったそれぞれの目的や気分に応じてまちを選べる豊かな生活。
 もちろん、自分の生き方や美学に合うまちがあれば、同じまちでずっと暮らし、地域を守り育てていく役割を担うという選択もあるだろう。

 そうしたさまざまな選択肢が支えられていくよう、これからもまちづくり企業でもある不動産各社に期待を寄せたい。(ひ)

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