記者の目 / 開発・分譲

2010/7/2

生まれ変わる集合住宅

横浜最大級のマンション建替え事業「横濱紅葉坂レジデンス」

 2009年時点でのマンションストック戸数は約562万戸(国土交通省発表資料)にのぼり、11年には築30年以上を経過する戸数が100万戸を超える見込みとなっている。  こうした背景から、老朽化したマンションの再生策は注目を集め、2002年には「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」が施行されるなど、法整備も行なわれた。  大手ディベロッパー各社がマンション建替え事業に参画する事例も増加しているが、所有者の合意形成に時間を要するなど、簡単な事業とはいえない。  そんななか、住民の全員合意でスタートした建替プロジェクト「横濱紅葉坂レジデンス」(横浜市西区、総戸数368戸)が販売開始となった。

歴史のある「紅葉坂」を再現。道路沿いにイロハモミジやノムラモミジを植樹している
歴史のある「紅葉坂」を再現。道路沿いにイロハモミジやノムラモミジを植樹している
建物外観。赤レンガ調タイルとダイレクトウィンドウを採用した
建物外観。赤レンガ調タイルとダイレクトウィンドウを採用した
全体のランドスケープ。4つの庭を配置している
全体のランドスケープ。4つの庭を配置している
モデルルーム室内。実際の物件は2LDK~4LDK+SICとなる
モデルルーム室内。実際の物件は2LDK~4LDK+SICとなる

横浜最大級の建替え事業

 同プロジェクトは、JR根岸線「桜木町」駅徒歩5分に立地。日本住宅公団によって1958年に建設された「花咲団地」(総戸数88戸)を、3棟の分譲マンションと1棟の共用棟に建て替えるというもの。

 同団地では建物の老朽化が進み、居住水準を満たすことが難しくなったことから、1999年に建替え・改修を目的とした管理組合が発足。05年には建替推進決議がなされ、06年には事業協力者として(株)新日鉄都市開発と三菱地所(株)の参画が決定した。08年には建替決議が可決、翌年には「マンションの建替え円滑化等に関する法律」に基づく権利変換が認可され着工となった。

 これに伴い、建替え組合は隣接する県用地を取得したほか、高さ制限の緩和を受けるための環境設計制度や一団地認定といった横浜市の許認可を受けることで開発規模を拡大。従前は敷地面積8,522平方メートル、延床面積約5,953平方メートルだったところを、敷地面積1万2,749平方メートル、延床面積約3万8,822平方メートルとし、横浜市内の建替えマンションとしては過去最大級のプロジェクトがスタートした。


“耐震”が最重要項目に

 前述したとおり、「花咲団地」は58年に建築されたものであり、81年に制定された新耐震基準を満たしていなかったため、所有者は少なからず建物に対する不安を抱いていたようだ。
 建築設計段階で所有者が最も重要視した点は「耐震構造の採用」だった。そこで、建替え後の建物は、地盤と建物の間に免震装置を入れることで、建物自体に対するダメージの低減する仕組みとし、室内の家具の転倒といった二次災害も防ぐことができる構造を採用。所有者からも高い評価を得た。

 また、共用施設の充実にも注力し、各棟に趣向の異なるラウンジを設けたほか、共用棟にはライブラリーや、和室と洋室の2タイプのゲストルーム、ルーフテラスなどを設置する。

 一方、居室内にはディスポーザーを設置するなど、最新機能をもった洗練された住宅室内を実現している。


横浜という立地を意識した外観
 
 「横浜」はよく知られているように、日本開国の舞台となったまちであり、さまざまな西洋文化を取り入れてきた。その名前を聞いて「赤レンガ倉庫」や石畳みの「馬車道」などを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
 
 同物件では、そういった“横浜らしさ”を外観で表現するため、赤レンガ調タイルとダイレクトウィンドウを採用した。そのほか、ガス灯や石積みのゲートウォール、アイアンワークによる門扉など、横浜を象徴するモチーフをところどころに配している。

 また、物件の接する道路が、かつて「紅葉坂」と呼ばれ、紅葉の景勝地であったことから、その景観の再生を計画。公開空地にイロハモミジやノムラモミジを植栽し、「紅葉を楽しむ庭」を設置した。庭内には、居住者以外も楽しめるよう、ベンチを設置するなどの工夫をしている。
 

再生の土壌つくる必要も

 説明会において、新日鉄都市開発取締役住宅事業部長の林 英治郎氏は、「住民の方のコミュニティがすでに出来上がっており、関係も良好でとてもやりやすかった」と語った。

 建替え事業において一番の課題となるのが所有者の合意形成であり、全員合意の同プロジェクトでさえも竣工までに約10年を費やしている。
 大規模物件であればさらに合意が難しいことは想像に難くない。
 
 よって新築マンションの供給者には、その商品が最終的にどのような形で最後を迎えるかということまで考慮する必要がある。
 モノには寿命があり、マンションも例外ではないが、修繕や建替えなどによって若返りや生まれ変わりも可能と伝えることや、スムーズな建替えのためのコミュニティ創造をバックアップすることも供給者の責任の一つといえるかもしれない。
 
 同プロジェクトでは、キッチンスタジオや多目的ホールを設置するなど、コミュニティを活性化するための仕組みを採り入れている。また、新築マンションにおいてもコミュニティ創造のための取組みが多種見られるが、今後、どのように結実するかに注目していきたい。(中)

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【関連ニュース】
横浜最大規模の建替事業「横濱紅葉坂レジデンス」販売開始/新日鉄都市開発、三菱地所(2010/6/9)

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