記者の目

2010/7/21

「顧客満足」を考える

 「顧客満足(CS)」「お客様第一主義」という言葉を、多くの企業がスローガンに掲げるようになった。消費者の時代といわれる昨今、ユーザー、顧客に目線を合わせた企業戦略、営業展開が求められていることの現れといえよう。  企業生き残り、勝ち残りのキーワードともなってきた「顧客満足」。 本稿では、この「顧客満足」について考えてみたい。

「顧客満足」とは何か? 買い手は不動産業に何を求めているのか…?(イメージ写真)
「顧客満足」とは何か? 買い手は不動産業に何を求めているのか…?(イメージ写真)

「顧客満足」への企業の取組みは…

 「顧客満足」を実現するために、企業は具体的にどのような取組みをしているのか。多くの企業では、自社の商品やサービスについて購入者・利用者に「顧客アンケート」を実施し、満足度や不満な点等の実態を把握、企画スタッフや営業現場にその結果をフィードバックし、商品企画・業務改善に役立てたり、クレームへの対応法等について検討するという形が多いようだ。
 また、その延長線上に「社内コンプライアンスの徹底」「人材育成」「コミュニケーションの徹底」を掲げ、企業イメージの向上に取り組んでいるケースも多い。

そもそも「満足」とは、どんな気持ち?

 ところで、「顧客満足」とはなにか。そもそも「満足」とはどういう状態をいうのか。
 「満足」という概念はある意味抽象的、また個人主観的であって、その度合いを何かで計ったり客観的数値で表すことは難しいもの。
記者が以前宿泊したある旅館から受け取ったアンケート用紙には、「担当者の接客態度についてはどうでしたか?」「当旅館のサービスは?」「館内の設備は?」等の質問に対し、「大いに満足」「満足」「まあまあ満足」「普通」「やや不満」「不満」「大いに不満」といったように、「満足」の度合いが何段階かに分類され、回答欄が設けられていた。
 はっきり言って、回答が難しかった。特に強い印象がなかったからだ。「大いに満足」か「大いに不満」か、どちらか極端な感想を持ったならともかく、正直言って担当者(部屋係)は可もなく不可もなくという感じであったし、滞在中、特に感動するようなできごともなければトラブルもなかった。行く前からいろいろ調べていたので、行ってみたら期待外れとか、期待を上回るほどの感動があったということも特別なかったのだ。

 そういう場合の「満足」とか「まあまあ満足」というのは、「大いに満足」まではいかないが、不満でもないというレベルの評価ということになる。だが、旅館側はこれをどうとるのか…。

 いささか理屈っぽいかもしれないが、そのように考えていくと、企業側(商品・サービスの提供者)のとらえる「満足」と、顧客側(購入者、利用者)の感じる「満足」とは必ずしも一致しないと考えてもおかしくない。その意味で「顧客満足」の実現というのは言葉で言うほど簡単なテーマではないこともいえる。

不動産仲介業における「顧客満足」とは

 不動産仲介は言うまでもなくサービス業。最終的に売るのは「建物」や「土地」等の商品だが、そこに行きつく過程で、情報、調査、交渉等々さまざまなサービスを顧客に提供することで話をまとめ、その対価を得る仕事だ。顧客と直接向かい合うのは営業第一線の「現場」。顧客に「満足」を与えるのも営業現場ということになる。
 では、果たして不動産の取引を経験する(した)ユーザーが求める「満足」とはなんだろう。

 ここで、参考になるデータがある。
 アメリカの不動産団体NAR(全米リアルター協会)が住宅購入経験者に対して行なった調査で、「買い手がエージェント(不動産業者)に対し最も強く求めるものは?」との問いに対し、

条件に合った住宅を見つけること…46%

売り手との条件交渉…16%

価格交渉…13%

効率的な事務処理…9%

比較対象物件の提案…8%

支払い能力の判断…4%

融資を受ける金融機関や返済方法についてのアドバイス…2%

との回答が得られたとしている(「REALTOR MAGAZINE」2010年5月号掲載)。この回答を裏返せば、「買い手が満足するもの」が何か、ある程度みえてくるのではないか。

 このなかで、「条件にあった住宅を見つけること」を第一にあげた買い手が最多であることは当然といえば当然だが、とはいうものの全体の半数以下であることに注目したい。記者には46%は低い数字に思えるからだ。すなわち、他の半数以上の買い手は、必ずしも「自分の条件にピッタリと合う物件を見つけだすこと」を最大の望みとしていないということだ。例えば、13%の人が、エージェントには物件探しよりも価格交渉をしっかりやってほしいと望んでいる、というように…。

 そこで、2位以下に挙げられた内容を総合すると、買い手がエージェント(不動産業者)に望んでいることは、買い手に代わって障害となるものを取り払い、煩わしい手続きや交渉等もすべて効率よく行なってほしいということともとれる。言ってみれば、そのプロセスがスムーズにいけば、あるいは買い手が納得する形で行なわれれば、たとえ買い手にとって必ずしも条件通りの物件がみつからなくても結果は「大満足」と感じる買い手もいるということだ。

 一方、逆に言うと、このような「ウォンツ」を買い手が認識し回答していること自体、いかにこれができていないかの証明でもあるのではないか。なぜなら、できていれば、当然のこととして受け止め、意識に上らないとも言えるからだ。

 残念ながら、日本では、同様に業界横断的な調査を行なったデータが見当たらなかったが、不動産取引にかかわるユーザーの心理に日米で大きな違いはないものと考えると、参考になるのではないか。

顧客は、「結果」だけで満足するのではない

 実際、過去に住宅を購入した知人・友人らに聞いた話でも、「価格、立地などの条件で必ずしも思い通りにならず、物件そのものは満足とは言えなかったが、営業担当者がよくやってくれたので、最後は納得して買えた」という人がいた半面、「物件は気に入ったのだが、営業担当者の態度の悪さや知識のなさが気に入らなくて、不動産会社に何度も替えてほしいとお願いした。ようやく上司らしき人物が出てきて表向きはその人が対応してくれたのだが、実際は、以前の担当者が陰でずっとやっていたようだ。彼の成績にしてあげたかったのかもしれないが、そういう会社の甘さが、本人をダメにし会社の信用を下げていることに気づかないのかと、やるせない気持ちになった」という人もいた。

 そういう意味で、不動産取引における「顧客満足」とは、「結果」だけをとらえて考えられるものではなさそうだ。そこに行きつくまでの「過程」が顧客にとって納得できるものであれば、たとえ、最終的に取得した物件が当初の条件にピッタリのものでなかったとしても、顧客満足は得られるのではないか。

 買い手の条件に適った物件が見つからないからといって必ずしも落胆することはないのだ。

 実は、トップセールスというのは、この「過程」における営業能力がずば抜けて高い人に多いようだ。

 女性不動産従業者ばかりのある勉強会に時々参加させていただくのだが、このグループで常に目覚ましい実績をあげている女性たちを見ていると、そのことが明確にわかるような気がする。

 次の機会には、どういう人がトップセールスになるのか、その人たちが顧客にどのような「満足」をあたえているのか、について考えてみたい。(yn)

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2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。