記者の目

2010/7/28

ホテル業界で初、「ドギーバッグ」への挑戦!

“もったいない精神”を大切に。まずはできる環境対策

 横浜を拠点にホテル事業を多展開する国際ホテル(株)(横浜市港北区、代表取締役社長:滝本満夫氏)。第1号の横浜国際ホテル(横浜市西区)は、「横浜」駅から徒歩5分の立地に1984年に開業。周囲には商業ビルも多く、横浜住民であれば、一度は前を通ったことがあるだろう地域密着の都市型ホテルだ。  その老舗ホテルをはじめ、同社が運営する新横浜国際ホテル(横浜市港北区)、立川グランドホテル(東京都立川市)で、2009年からCSR活動の一環として新たに「ドギーバッグサービス」を開始した。これはホテル業界では初の試みで、他業界においてもまだまだ浸透していない取組みでもある。衛生面や責任問題など課題が多いからだ。そこにあえてチャレンジした同社の取組みを紹介する。

横浜国際ホテル外観。まちに溶け込むその姿は、横浜在住者にはすっかりお馴染みの存在(写真提供:国際ホテル(株))
横浜国際ホテル外観。まちに溶け込むその姿は、横浜在住者にはすっかりお馴染みの存在(写真提供:国際ホテル(株))
ドギーバッグ持ち帰り用の紙袋(上)とその表にあるルール記載シール(下)
ドギーバッグ持ち帰り用の紙袋(上)とその表にあるルール記載シール(下)
持ち帰りの条件や決まりを提示した「ドギーバッグサービス」パンフレット(画像提供:国際ホテル(株))
持ち帰りの条件や決まりを提示した「ドギーバッグサービス」パンフレット(画像提供:国際ホテル(株))

■資金をかけず、従業員の力でできる環境対策

 国際ホテルの母体はもともと中堅ゼネコンである「奈良建設株式会社(本社:横浜市港北区)」。バブル崩壊とともに奈良建設、奈良不動産などのグループ会社を存続会社と清算会社にわけ、2002年10月再建を図り、ホテル事業の国際ホテルは残った。
 現在は、横浜国際ホテル、新横浜国際ホテル、立川グランドホテルの3拠点だが、以前は藤沢グランドホテル、ホテル横浜ガーデンも運営。また、奈良建設グループは、海外にも進出しており、オーストラリアに3ホテル、タヒチに1ホテルを運営していたが、いずれもグループ再建計画の一環として譲渡した。
 そうして一度立ち直った同社であるが、昨今の不況から、再び集客に悩むこととなる。

 そこで同社は、地域社会に密着した都市型ホテルとして、「やすらぎに満ちた空間と心温まるサービス」を提供するとともに、環境問題が人類共通の最重要課題であるとして、「環境に配慮したホテル」をめざすことにした。
 同社専務取締役で、環境管理責任者も務める寺谷捷彦氏は「滝本社長の方針のもと、お金をかけず、従業員皆の力でできる、環境に配慮したホテルをめざしています。
 『ドギーバックサービス』はお客さまにも環境問題に感心を持っていただくという狙いもあります」と話す。

■残飯廃棄量は世界トップレベルの日本

 ドギーバッグとは、レストラン等の飲食店で食べきれなかった料理を持ち帰る際に使う容器のことで、食べきれなかった料理を持って帰るのは恥ずかしいので「犬のエサにする」という名目で持ち帰ったことが名前の由来といわれているそう。欧米では、食べ残した料理を持ち帰る習慣として定着している。
 一方、“もったいない精神”を重んじている日本だと思われがちであるが、実は残飯廃棄量は世界トップレベルだという(ドギーバック普及委員会より)。
 最近では、ドギーバッグという言葉の認知度は上がってきているものの、衛生面などのハードルがあるためか導入している企業・店舗はまだまだ少ない。

■細菌検査、従業員が箱詰め作業など、提供方法を徹底

 国際ホテルのドギーバッグサービスは、立食パーティーの食べ切れなかった料理で、細菌検査で安全性を確認したものが対象。提供する料理は、事前に恒温25度(夏場は30度)の状態で、6時間後、12時間後に細菌が増殖していないかどうかの検査を実施しているそうだ。その検査にクリアにした料理は、ドギーバッグの対象とわかるよう、立食宴会時の料理名が記載されたプレートに、あらかじめ明記してある。意外にも、ローストビーフはOKだが、えびのチリソース炒めはNGだそう。
 また、宴会終盤には、幹事や司会者から持ち帰りの条件や決まりのアナウンスをお願いし、衛星管理上や他メニューの持ち帰りを避けるため、ドギーバッグへ詰める作業は必ずホテルのスタッフが行なうという徹底ぶりだ。もちろん、当日中の消費が前提で、手提げ袋にもはっきりと表示している。

 ドギーバッグとして使用しているボックスは、サトウキビから生まれた「バカス」(「サトウキビの絞りカス」という意のフランス語)を使用。砂糖の生産工程から出た残渣(ざんさ)を利用しているため、森林保護になるほか、燃えるゴミとして処理できる。

■顧客にも好評、「自己責任」への理解啓蒙が重要

 09年11月~10年3月における同社のドギーバッグ実施量は、ボックス数が4,249個、持帰り重量が849kg(ドギーバッグ1個当たり200gで計算)。利用率はパーティー参加人数3万1,586人中、持帰り人数が2,620人で8.3%。12人に1人が持ち帰った計算だ。
 この実績に対して、寺谷氏は、「大変多くのお客様に利用していただけるようになり感謝しています。アメリカでは自己責任でお持ち帰りいただくことは当たり前になっていると聞いており、このような運動に他のホテルも同調してくだされば、“自己責任”の考え方が一般的になり、もっと食べ残しの無駄が少なくなると考えています」と述べる。

 余談ではあるが、記者が利用させていただいた横浜国際ホテルの立食料理は中華をメインに、洋食や新鮮なフルーツなども並び、大変美味だった。ただ、立食パーティーは、公の機会も多く、会話がメインとなりがちのため、来場者はなかなかゆっくり味わえないことも多い。そういった面でもお土産として持ち帰られるのは大変うれしいと感じる人が多いはずだ。ちなみに記者が持ち帰ったドギーバッグには、揚げ魚の甘酢あえ、焼きそば、パンが入っていたが、いずれも冷めていてもおいしかった。
 「お客様からの評価はとても良く、いい取組みだとお褒めの言葉もいただいております。まだ持ち帰りできるメニューを制限しているため、『なぜ他メニューはダメなのか』という声もうかがっております。
 今後、様子を見ながら徐々にバージョンアップし、持ち帰りできるメニューを増やすほか、立食だけでなく着席形式の宴会時にもサービスを拡大していければと考えております」(寺谷氏)。

 同社は、ドギーバッグ以外にも、「食品リサイクル法」「省エネ」法に順守したさまざまな取組みを行なっている。
 2001年2月に、環境活動の国際規格であるISO14001を、新横浜国際ホテル、横浜国際ホテル、立川グランドホテルに加えて、当時運営していた2ホテルの計5ホテルで同時に取得。グループホテルが同時に取得するというのは全国的にも早いほうであったという。
 そのほか、水質汚濁防止のため連泊客にシーツ交換要否の確認や、調理場から出る野菜くずを肥料化し、レストランの利用客に無料で配布なども行なっている。

※※※

 環境問題対策は、成果が見えにくい分、理想だけ大きく掲げがちだが、まずは身近にできることから取り組むことが重要なのではないだろうか。
 意図していなくてもそういった取組みは、ユーザーに伝わるもので、企業のイメージアップやファンづくりにつながるものだ。
 今回、ドギーバッグサービスを記事にさせていただいたのも、記者が実際に横浜国際ホテルにて行なわれた立食パーティーで体験して、いたく感動したのがそもそものきっかけ。また、横浜住民である“ハマっこ”の一人として、地元企業がこういった先進的な取組みをしていることへの喜びもある。

 最後に、話は同ホテルから離れるが、今回ドギーバッグを調べていて驚いたのがそのデザインの多様さだ。見た目がおしゃれなのはもちろん、洗って繰り返し使える折りたたみ式なんていうものもある。
 ユーザーが使いたくなるデザイン性はとても重要だとは思うが、いざ認知度があがったとき、近年の「エコバッグ」ブームのように、さまざまなブランドから販売されては、それを追うように購入するユーザーが続出。結局、ほとんど使わず捨てる(人ばかりではないと思うが)…などという本末転倒が起こらないことを祈る。(umi)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年6月号
「特定空家」にしないため…
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/5

「月刊不動産流通2024年6月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年6月号」の発売を開始しました!

編集部レポート「官民連携で進む 空き家対策Ⅳ 特措法改正でどう変わる」では、2023年12月施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」を国土交通省担当者が解説。

あわせて、二人三脚で空き家対策に取り組む各地の団体と自治体を取材しました。「滋賀県東近江市」「和歌山県橋本市」「新潟県三条市」「東京都調布市」が登場します!空き家の軒数も異なり、取り組みもさまざま。ぜひ、最新の取り組み事例をご覧ください。