記者の目

2011/4/22

“ユーザー主導”の住まいづくり(前編)

ウェブサイト編

 近年、ウェブサイトの傾向は「ユーザー主導型」に人気が集まるようになった。日本では数年前から人気のSNS「mixi(ミクシー)」や先頃映画が公開されて話題になっている「Facebook(フェイスブック)」をはじめ、「Twitter(ツイッター)」も急速に普及している。そのほか、素人がレストランを評価する「食べログ」や料理レシピを投稿する「クックパッド」なども人気で、情報ソースとしても重視されている。  こういった流れは不動産業界にも及びつつある。そして、「ユーザーが主体となって働きかける」という流れは必ずしもネットの世界に限ったことではない。実際に中古住宅や賃貸住宅をユーザー自らカスタマイズするという方法も、以前は一部の建築関係者やDIY好きのユーザーなどが中心だったが一般的に見られるようになってきた。  今回は、最近不動産や関連業界で注目されている「ユーザー主導型」のウェブサイトやセルフリノベーションなどの動向を筆者なりに記したいと思う。

「空想生活」サイトトップページ。「『ほしい』の声から商品化。みんなの『ほしい』をかなえるサイト」というキャッチフレーズがある
「空想生活」サイトトップページ。「『ほしい』の声から商品化。みんなの『ほしい』をかなえるサイト」というキャッチフレーズがある
投稿アイディアの一覧ページ。自分の希望と合致するものがあれば、投票できる
投稿アイディアの一覧ページ。自分の希望と合致するものがあれば、投票できる
「空想無印 βver.」トップページ。基本スタイルは「空想生活」と同じで、投票が集まれば無印良品の商品として生まれる。これまでに誕生したものは「本に貼るための透明な付箋」(1225票)、「書き込めるメジャー」(373票)で、他商品と同様にムジ・ネットのサイトで販売している
「空想無印 βver.」トップページ。基本スタイルは「空想生活」と同じで、投票が集まれば無印良品の商品として生まれる。これまでに誕生したものは「本に貼るための透明な付箋」(1225票)、「書き込めるメジャー」(373票)で、他商品と同様にムジ・ネットのサイトで販売している
「無印良品+ReBITA」の居室。同じ居室だが、上は二人暮らし、下は家族が増えた場合の暮らしを想定したレイアウト。SI工法により、フレキシブルな間取りとしている。同プロジェクトの開始に先駆けて実施されたアンケートでは、約9
「無印良品+ReBITA」の居室。同じ居室だが、上は二人暮らし、下は家族が増えた場合の暮らしを想定したレイアウト。SI工法により、フレキシブルな間取りとしている。同プロジェクトの開始に先駆けて実施されたアンケートでは、約9
500名が回答したという(リノア赤羽・204号室、写真提供:(株)リビタ)
500名が回答したという(リノア赤羽・204号室、写真提供:(株)リビタ)
「くらしの良品研究所」のトップページ。ユーザーと共有、意見を交わしたいテーマ、トピックスが集約され、常に更新されている状態
「くらしの良品研究所」のトップページ。ユーザーと共有、意見を交わしたいテーマ、トピックスが集約され、常に更新されている状態
「くらしの良品研究所」の「住まいと緑」のプロジェクトページ。ユーザーの声を受け、大規模マンション「ユトリシア参番街」に「家族の森」をオープンする。森に面する専用庭をモデルルーム内につくり、アンケートで一番人気だった家庭菜園コーナーなどを設けた
「くらしの良品研究所」の「住まいと緑」のプロジェクトページ。ユーザーの声を受け、大規模マンション「ユトリシア参番街」に「家族の森」をオープンする。森に面する専用庭をモデルルーム内につくり、アンケートで一番人気だった家庭菜園コーナーなどを設けた
時系列に写真が並ぶ「STORY」のトップページ
時系列に写真が並ぶ「STORY」のトップページ
「渋谷」の2000年代。「副都心線」開業や「マークシティ」に岡本太郎氏の絵画“明日の神話”が恒久設置されたことなどが取り上げられている
「渋谷」の2000年代。「副都心線」開業や「マークシティ」に岡本太郎氏の絵画“明日の神話”が恒久設置されたことなどが取り上げられている
「渋谷」の最初(1960年)はハチ公の写真から。現在の写真と比較検討できるのが楽しみ
「渋谷」の最初(1960年)はハチ公の写真から。現在の写真と比較検討できるのが楽しみ

ユーザーからリアルタイムに「リクエスト→投票」。 人気が集まれば商品化へ

 家電、照明や住宅設備など、ライフスタイルに関連する商品を販売する有名なサイトに「空想生活」(http://www.cuusoo.com/、運営:エレファントデザイン(株))がある。同サイトは、単純に同社が用意した商品を販売する訳ではなく、同サイトを通じて、ユーザーがほしいものを“掲示板”のようなフォームに投稿していき、それを見たユーザーが賛同するものに票を入れていくというシステム。
 その意見を参考にデザイナーがデザイン案を公表し、あらかじめユーザーにほしいかどうか募り、その反響によってデザイナーは正式にメーカー発注するかどうかを決める。これまで商品化したものは、「コンパクトに収納できるIH調理器」「住宅の外観に合うメーターボックス」などがある。

 同サイトの仕組みを「DTO(Design To Order)」といい、先駆的な取組みとして2000年にはグッドデザイン賞(新領域デザイン部門)を受賞している。設立されて10年以上経過した今でも、多くの意見が集まり、新たな商品が生まれている状態だ。

 また、こういった取組みは、他企業からも注目され、「無印良品」で有名な(株)良品計画と提携し、同社の商品を対象とした「空想無印 βver.」(http://www.cuusoo.com/muji/)なども展開している。

“提示→意見→提示”の循環で 「より良いモノ」づくり

 一方、その良品計画も「ユーザーの声」を拾うスペシャリストだ。同社は、従来から顧客の感想や意見を生の声や手紙を活用しながらフィードバックし、商品の開発・改良を進めてきたが、00年に子会社ムジ・ネット(株)を設立以来、その舞台はネットにも広がった。「無印良品の家」として戸建住宅やリノベーションなどを展開しているが、同事業においても「みんなで考える住まいのかたち」として、さまざまなテーマを掲げ、ユーザーからの意見を募っている。それをもとにリビタとのリノベーションプロジェクト「無印良品+ReBITA」、オリックス不動産との戸建分譲地「白井小町」(千葉県白井市)、三菱地所との集合住宅プロジェクト「MUJI VILLAGE」など多くのプロジェクトが生まれてきた。

 そして、09年、ウェブ上のコミュニケーション強化を図るため、社内研究所である「くらしの良品研究所」を設立。同研究所ウェブページ上では、無印良品の主軸として考えていきたいテーマを抽出・提示するほか、生活や社会に関するコラムを掲載することで、ユーザーからの感想・意見を募り、投稿内容やアンケート結果はわかりやすく編集して公開し、また次のテーマにつなげている。そのなかから、新商品が生まれることもあれば、既存商品の改良再販などもあるようだ。
 同サイトによると、10数万人の閲覧者のなかで、テーマ・コラムへの投稿数は年間4,000件に上るという(同サイト「研究所について」より)。

ツイッターを活用。 ユーザーが“宣伝部長”に

 また、リードでも述べたように最近ではウェブの“クチコミ効果”というのも軽視できない。少々古いデータにはなるが、マイクロソフトが08年に発表した調査によると「76%が口コミをきっかけに、商品・サービスの購入に至った経験がある」という。また、「信頼している情報源」として、「企業サイト」がトップで66%、次いで「価格比較サイト」62%、「ポータルサイト」45%、「SNS」22%、「ブログ」19%とランクインしており、ツイッター、フェイスブックが浸透してきた今であれば、よりその比率が上昇していると予測できる(「第2回MSN生活者アンケート『インターネットと口コミに関する調査』結果」より)。

 クチコミ情報を入手するツールとして、最近注目なのが「ツイッター」である。気になる個人や企業をフォローすれば、目ぼしい情報がタイムラインに集約される。(株)矢野経済研究所「ソーシャルメディアに関する調査結果 2010」によると、ツイッターを「情報収集」のツールとして活用しているという消費者が全体の53.0%を占め、「“つながり”より“情報収集(ソーシャルフィルタリング)ツール”として活用されている傾向がある」としている。
 そういった流れを受けて、企業のツイッターをフォローする、ハッシュダグを使用した「つぶやき」をするとプレゼントや割引きをしてもらえる、といったサービスも多くなった。ニュースサイトなども「つぶやく」機能を付与しているケースをよく見かける。
 ユーザーがつぶやきを情報ソースとして重視し始めていることを受け、企業はうまく活用しながら広告効果を期待しているということだ。

 最近、東急グループがオープンしたキャンペーンサイト「STORY」(http://www.tokyu.co.jp/story/)は、同グループが1950年代から手がけた多摩田園都市を中心としたまちづくりについて、「たまプラーザ」「永田町」「二子玉川」「渋谷」の再開発事業を年代・エリア別にごくごくシンプルな写真一覧で見られるというもの。同グループや関係者、近隣住民によって撮影された60年代から現在にいたるまでの懐かしいまち並みの画像によって、4エリアのまちの変遷がわかり、一見宣伝色は見てとれない。
 同サイトはツイッターと連動しており、同社へのフォローと提示したテーマへのつぶやきで、プレゼントが当たる企画を実施している。設定されたハッシュタグで検索してみると、ユーザーそれぞれの思い出話や新たな商業施設への期待などが、多くつぶやかれていた。

注目のセルフリノベーション。 不動産・建築会社のライバルは「ホームセンター」に?!

 一方、有名な物件サイト「東京R不動産」(http://www.realtokyoestate.co.jp/)を運営する(株)スピークでは、「R不動産toolbox β版」(http://www.r-toolbox.jp/)というサイトを開始している。
 ユーザー参加型ではないが、内装改修におけるさまざまなアイディアやイメージを、内装に関連するデザイナー、施工会社、メーカーや個人の職人から募り、カタログ化している。例えば、ユーザーが「会社に依頼するほどではないけれど、自分でちょっと壁のデザインを変えたい」などと考えれば、おもしろい塗料や壁一面の可動式棚など、商品のみではなく“アイディアごと”購入できる。もちろん、モノによるが、その部分だけ職人に来てもらうということも可能だ。

 同サイトの発起人である馬場正尊氏((株)オープン・エー代表)が参加していたリノベーションに関するトークセッションでは、今後、不動産・建設会社のライバルとなるのは「ホームセンター」であろうと予測している。中古不動産の流通が盛んなアメリカでは、「ザ・ホーム・デポ」をはじめ、すでに大手ホームセンターの人気が非常にあり、最近では日本も同様の現象が起き始めているそうだ。
 なお、アメリカ現地の様子は、当サイトの海外トピックス「ベビーブーマーズのスマートな改装アイディア」(https://www.re-port.net/oversea.php?ReportNumber=23933)の記事でも紹介しているので是非ご覧いただきたい。

 次回では、そのような「セルフリノベーション」について言及していきたい。(umi)

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