記者の目

2011/4/27

単身若年世代の新しい住まい方

若者に人気のシェアハウスとは?

 「無縁社会」という言葉が認知されるようになったのはいつ頃だろうか。  少子高齢化、核家族化、ネット社会への転換、女性の社会進出、雇用不安などさまざまな現代事情が影響し、家族、親類、友人、職場仲間、近所の人との関係が希薄化していくなかで「無縁社会」が生まれている。  そのようななかで、注目されつつある「シェアハウス」という住まい方。水回りやリビング・ダイニングなどを共用することで、専有部分の面積が減少するため賃料が安く抑えられることはもちろん、コミュニケーションを図る場として20~30歳代の若者に人気のようだ。

「シェアプレイス田園調布南」外観
「シェアプレイス田園調布南」外観
3階の女性専用フロアにある有料のバスルーム。かわいらしいタイル張りでポップな印象に
3階の女性専用フロアにある有料のバスルーム。かわいらしいタイル張りでポップな印象に
1階・社員食堂【before】だった場所(写真上)は、キッチン・ラウンジ【after】(写真下)に
1階・社員食堂【before】だった場所(写真上)は、キッチン・ラウンジ【after】(写真下)に
社員寮のときに利用していた照明はレトロな印象なデザインを生かそうとそのまま使用(写真左)。厨房に設置されていたレンジフードは用途を変更しキッチンの照明として再利用(写真右)
社員寮のときに利用していた照明はレトロな印象なデザインを生かそうとそのまま使用(写真左)。厨房に設置されていたレンジフードは用途を変更しキッチンの照明として再利用(写真右)
ラウンジの隣りに設けられた「DOTE」。川のような土手の芝生をイメージしたカーペット敷きの空間では、入居者がリラックスして語らえる
ラウンジの隣りに設けられた「DOTE」。川のような土手の芝生をイメージしたカーペット敷きの空間では、入居者がリラックスして語らえる
ラウンジの壁に設置された周辺MAP(写真左)。入居者が自由に書き込み情報の共有化を図る(写真右)
ラウンジの壁に設置された周辺MAP(写真左)。入居者が自由に書き込み情報の共有化を図る(写真右)
標準的な居室【after】。クロスを貼り替え、設備更新も行なった。サッシや机は再利用
標準的な居室【after】。クロスを貼り替え、設備更新も行なった。サッシや机は再利用
洗濯干場だった屋上は屋上菜園に。居住者がハーブや野菜を自由に育てられる空間
洗濯干場だった屋上は屋上菜園に。居住者がハーブや野菜を自由に育てられる空間

ここ10年で激減した社宅・独身寮

 近年、企業の独身寮・社宅を廃止するケースが増えてきており、(財)労務行政研究所が2008年に実施した調査によると、00年以降社宅を保有する企業の約5割が独身寮を、約6割が社宅を廃止しているという。背景にあるのは長引く不況と施設の老朽化である。一方で、リノベーション事業を手がける(株)リビタはそういった物件に注目。これまで9棟の社宅をリノベーションし、シェアハウスとして貸し出す事業を展開してきた。

 今回、訪れた物件は、同社が築42年の女子寮を、耐震、設備配管の更新などを施し、フルリノベーションを行なった物件だ。シェアハウス「シェアプレイス田園調布南」(東京都大田区、総戸数73戸)として、3月上旬から入居者の募集を開始し、すでに残り5戸(4月27日時点)という好調ぶりだ。


女性専用フロアにはバスルームも完備。
設備更新しオール電化対応に

 「シェアプレイス田園調布南」(東京都大田区、総戸数73戸)は、東急多摩川線「沼部」駅徒歩7分に立地。鉄筋コンクリート造地上4階地下1階建て。敷地面積1,161.95平方メートル、延床面積2,162.64平方メートル。

 女子寮のときに66戸あった住戸を73戸にし、3階を女性専用フロア、それ以外の階は男女兼用とした。いずれも最多専有面積は14.08平方メートル。各住戸にはベッド、机、椅子、冷蔵庫、照明、エアコンを備えつけている。なお、水回りの機能は各階の中心部に集約し、トイレ、シャワーブース、ランドリースペースなどを共同で利用するようになっている。また、女性は「湯船に浸かりゆっくりしたい」というニーズが多いため、女性専用フロアには有料制のバスルームも用意した。タイル貼りのかわいらしい空間が女性の関心を引くデザインだ。

 もともと食堂と調理場があった場所は、内装を全面的に改修し、白を基調とした明るく清潔なダイニングキッチンとし、オール電化使用にするなど設備更新も行なった。また、入居者が共同で利用するため、個人の食器や調味料を入れておく専用ラックを設けるなど、細かい配慮がなされている。
 さらに、オール電化となることで不要となった地下のボイラー室は、居住者同士が自由に使える空間に。音響設備や大きなスクリーンも設置しているが、もともとボイラー室だったため遮音性が高く使い勝手が良いようだ。

 
コミュニケーションを求める若年層

 1階は、ダイニングキッチンとしての機能のほかに、居住者間のコミュニティを図る工夫がなされた空間が多いのが特徴だ。
 少人数で落ち着いてコミュニケーションを図れる和室や、読書や勉強を楽しむスタディスペース、川の畔の土手の芝生をイメージしたカーペット敷きの空間「DOTE」を設置した。また、ラウンジには、空間だけでなく、情報を居住者でシェアできるようにとボードやマップを設置し、エリアやイベントなどの情報を居住者が書き込む仕組みも作っている。

 気になる賃料であるが、平均的な住戸で月額6万5,000~7万円に共益費1万5,000円がかかる。但し、共益費には水光熱費・インターネットおよび建物維持管理費なども含む。
 周辺相場と比較すると若干割安である程度だ。それでも人気がある理由は、「シェアハウス」という物件の付加価値に惹かれて入居する人が多いからであろう。
 とはいえ、ただ、築年数の経過した物件をシェアハウスとすれば良いわけではなく、シェアハウスを志向する単身若年世代の心を掴むプランが必要だといえる。今回訪れた物件でも、コミュニティの形成を促す空間としての工夫や、築42年というレトロなデザインを生かした空間づくりに共感した入居者が多いという。

 今回の取材を通し、単身若年世代の住まい方が変化しつつあるように感じた。
 子供の頃から、近所づきあいなどが少なく、個室を与えられプライバシーが尊重され成長してきた若年世代が、親元を離れ独立し、「無縁社会」に対する危機感を目の当たりにした今、“プライバシーを守る”住まい方から、“人との関わり合いを持つ”という、新しい住まい方を求めだしたのではないだろうか。(tam)

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