~アメリカ・ロスアンゼルス現地取材
ロスアンゼルスのロングビーチにあるコンドミニアム「ヴィラ リビエラ(以下、リビエラ)」(カリフォルニア州ロングビーチ、総戸数134戸、16階建て、総敷地面積5万5,342平方フィート≒5,000平方メートル)は、1928年竣工。80年以上を経て、なお現在も取引が行なわれている分譲集合住宅である。 現地のエージェントによれば、周辺に新築物件も立ち並ぶ中、この物件は常に人気が高く、若い世代を中心に活発に売買が行なわれているという。 人気の秘密を知りたくもあり、また、ここに住む人たちの生活ぶりを覗きたくもあって、内部を見学させてもらった。









歴史的建造物としての威容と深み
リビエラの売買価格は、最近の成約データから割り出すと坪当たり平均110万円前後。これは周辺の築年数の浅い物件相場と比較しても、遜色のない価格だという(現地エージェント)。
ゴシック調の風格を備えた建物は、鉄筋コンクリート造り、屋根は銅版の、当時としては重厚な構造だ。元はコープ(コーポラティブアパートメント)として建設され、その後さまざまな歴史の波に翻弄されてきた。ホテルとしても使用されたことがある。現在はコンドミニアムとなっているが、災害などで損傷することもなくその威容を保ってきた。1986年にはアメリカ合衆国国定歴史建造物にも指定されている。
建物内部に足を踏み入れると、歴史的建造物特有の重厚感とともに、内装の深みのある色彩が落ち着いた雰囲気を漂わせ、壁や床などそこかしこから居住者の営みや暮らしが沁み込んだ匂いと温かみが伝わってくる。
1階の玄関正面にはホワイエ(フランス語でロビーの意味)と呼ばれる共用スペースがあり、居住者が思い思いに時を過ごしている。壁には、リビエラの設計図書やこの建物が歩んできた時代の変遷がわかる写真、役目を終えた屋根などの部材が小さな博物館のように展示されている。
クリエーター系の若い世代に人気
住戸は、スタジオタイプ、1ベッドルームタイプ、2ベッドルームタイプの3タイプがある。
スタジオタイプの専有面積は413平方フィート(37平方メートル)と580平方フィート(52平方メートル)の2タイプ。1ベッドルームタイプは869平方フィート(78平方メートル)。2ベッドルームタイプは、広さが1,281平方フィート(115平方メートル)で、隣接する2戸を購入したオーナーが改修してつなげたものということだ。
居住者は、20歳代~30歳代、もしくは60歳以上の単身もしくはカップルが主だという。
たまたま売り出し中の2ベッドルームタイプの住戸に入ってみた。この部屋の内装を手掛けたのは、あのケネディ家のインテリアも手掛けたというデザイナーだそうだ。
風景が少し歪む昔ながらの窓ガラス、オイルヒーター、真鍮のドアノブ、何重にも上塗りされた壁や天井、深みのある色合いに変色したヘリンボーン張りの床材など、長い年月を経過した建物が持つ風合いを残しながら、それと調和するような家具やインテリアが施され、ここに住む人が工夫して楽しんでいる様子がうかがえる。4,240万円で売り出していた。
リビエラは、クリエーターなど住まいにちょっとしたこだわりを持ち、比較的生活に余裕がある人たちに人気があるようで、この部屋のインテリア、調度などからもそうした雰囲気を感じることができた。
売主についての情報は教えてもらえなかったが、このエリアの居住者の平均的な世帯年収は600万円程度だという。
歴史的建造物ならではの規制もあるが、税金は半額
築80年の建物がこれだけ美しく、しっかりと使われ続けているのには、地震などの自然災害に見舞われなかった幸運もあるが、なんといっても、設備や構造について定期的かつ大がかりなリニューアルが行なわれてきたことが大きな要因だろう。
管理費(月額)は、スタジオタイプで3万5,000円~4万9,300円、1ベッドルームタイプで4万6,750円~4万9,300円、2ベッドルームタイプで6万3,750円~6万5,450円。また、2年前に外壁の塗装を行なった際には、各住戸から170万円程度徴収したという。決して安くない。築年数のせいもあるのかと思ったら、このエリアではそれほど高い価格ではないらしい。そもそもアメリカ、特にカリフォルニア州の住宅の管理費というのは日本などに比べるとえらく高いのだそうで、物件のグレードによっては10万円、20万円などというコンドミニアムもざらのようだ。
また、国定歴史建造物に指定されていることで、外観や窓などの色や形を変えることができないのは当然のことながら、専有部分の、例えばキッチンやバスルームの配管、配線、壁の移動などについても都度HOA(ホーム・オーナーズ・アソシエーション=管理組合)の許可が必要とされている。こうした細部にわたる規制もまた、リビエラを建築当時のままに現代まで保全することにつながったものといえる。
歴史的建造物に住むのはいろいろうるさくて息苦しいのではないかと思ったが、必ずしも悪いことばかりではない。通常は購入価格の1.25%掛けられる不動産税が、この物件では半額に軽減されているということだ。
居住者の「誇り」「愛着」が生み出す“プレミアム”
「リビエラ」を見学してなにより印象に強かったのは、居住者の「誇り」と「愛着」がいたるところから感じられたことであった。
欧米には、このように歴史的な建築物がまちの中に多数残り、築年数にこだわらず新築と遜色のない評価をされているケースが当たり前のように見られる。
日本のように地震や台風などの影響を受けにくいという理由もあろうが、古いものの良さを尊重し、建物を富と文化的価値を産み続ける資産ととらえ、それを生かし続けようとする意識が強いのだと感じる。
今回訪れたリビエラも、そうした居住者の「思い」があればこそ、長い歴史を経てなお高い評価を得続けることができるのだろう。だからこそ、ここに住み続けたい、ここに住んでみたい、ここを取引したい、という人々が絶えないのだ。もっとも、同物件がそもそも砂浜とヨットハーバーのちょうど分岐点に立地し、これ以上の眺望は他では絶対望めないという最高のロケーション(現地エージェント談)という好条件もあるようだが…。
造る、保つ、魅せながら(楽しみながら)住む、売る、買うという住宅ストックのサイクルの好循環を実現する要素がこの物件には散りばめられていた。(yn)
◆公式サイト: http://www.villariviera.net
◆取材協力:末吉一敬(アットホーム株式会社)、清田晴美(C21 Union Realty、ブローカーアソシエート)