記者の目

2011/10/20

住まい手が“編集”できる家

木の家モデルハウス「有楽町家センター」がオープン

 無印良品有楽町店2階に「有楽町家センター」がオープンした。無印良品を手がける(株)良品計画のグループ会社で、住宅事業を展開する(株)ムジ・ネット。同社の商品である「木の家」のモデルハウスが「有楽町家センター」だ。全国各地にある同社のこれまでのモデルハウスとの違いや、独自路線を展開する「無印の家」の特徴とは?  実際に入居している「木の家」の見学会にも参加し、記者が感じた「無印良品『木の家』」とそれを支持するユーザーの声をレポートする。そこから見えてきた消費者の住まいに対する価値観の多様性についても考えてみたい。

木の家モデルハウス「有楽町家センター」の外観
木の家モデルハウス「有楽町家センター」の外観
モデルハウス内部1階の様子。玄関を入るとリビング(手前)、キッチン(奥左)、ダイニング(奥右)がある
モデルハウス内部1階の様子。玄関を入るとリビング(手前)、キッチン(奥左)、ダイニング(奥右)がある
キッチン。標準仕様は業務用を思わせる色とデザイン。下方部分には、無印良品の収納棚が入る設計になっている
キッチン。標準仕様は業務用を思わせる色とデザイン。下方部分には、無印良品の収納棚が入る設計になっている
2階の主寝室。後方のキャビネット棚は無印良品の商品
2階の主寝室。後方のキャビネット棚は無印良品の商品
1階リビング上部から2階まである吹き抜け
1階リビング上部から2階まである吹き抜け
モデルハウスのバスルームは石張りで高級感を演出
モデルハウスのバスルームは石張りで高級感を演出
入居者の家見学会で訪問した「木の家」I邸(東京都豊島区)の外観
入居者の家見学会で訪問した「木の家」I邸(東京都豊島区)の外観

事業発端はWEBサイトのユーザーの声

 良品計画が住宅事業を開始したのは2004年、今年で7年目を迎える。事業発端のきっかけは、WEBサイトに集まったユーザーの声だ。無印良品は元々WEBサイトが充実しており、WEBを使った販促や商品企画などを得意としていた。その無印ユーザーの声に、「無印の7000品目におよぶ日用品や生活雑貨を入れこむ器(家)が欲しい」というものがあった。社内でも同様の声があったため、その後、本格的な事業設立に至ったという。
 生活雑貨や家具販売を主軸事業とする同社が考えた家は、「生活(暮らし)ありきの家」だった。同社「有楽町家センター」店長・小島悦也氏は、「当社の家は、構造体としてのハードウェアも大事ですが、それよりも“暮らし”そのものを中心にした家、住まい手の暮らしに寄り添うような家づくりを重視しています。それは、年月が経過したとき、家族構成や生活スタイルの変化にも対応できる家です」と言う。同社の考え方では、長持ちする家を、ライフスタイルなどの変化に対応できる家と位置づけている。

「木の家」の特徴

 「木の家」は家全体が一つの箱となっており、空間を遮る柱や壁がない。これを実現させたのが構造計算をしたSE工法(ビルなどの大規模建築物の構造に似ている)だ。そして同工法を支えるのが高い強度を誇る集成材と柱と粱を接合するSE金物である。また、季節に合わせて自然光の入射を調節できる深い軒や、軽くて丈夫なガルバリウム鋼板の外装材、結露の発生を防ぐ外断熱や断熱サッシ、24時間換気システム、外壁に設けた壁体内通気層などを標準装備。価格は木造2階建て、延床面積109.30平方メートル、6間×4間(10.92×7.28m)の標準プランで2,015万円だ。
 四方の壁で家を支えるSE工法により、外枠の箱(スケルトン)が成立する。内部は住まい手が自由に変えられる空間(インフィル)であり、子どもの成長や暮らし方に合わせて、間仕切りを変えて空間を“編集”できる。あくまで中心は住まい手であり、家自体は主張しない。家はシンプルでアレンジしやすく、生活を引きたてる脇役なのだ。

有楽町家センターのこだわり

 これらのコンセプトが詰まった「木の家」を体感できる施設が「有楽町家センター」だ。延床面積80.33平方メートルの木造2階建て、1階にLDK、2階に主寝室とトイレ・バスを配置。1階リビングの天井部分は2階まで吹き抜けとなり、開放感を味わえる。また窓が大きいことが特徴で、自然光をたっぷり取り込める造りとなっている。このように、店舗の中に家を丸ごと設置したモデルハウスは、同社では同センターが初だという。店舗にいながら、家の中にいる感覚を体感できる。

 さらに、同センターでは、通常の「木の家」モデルハウスとは違った演出をしている。例えば、トイレ・バスルームは床や壁を石張りにしてホテルのような高級感を出し、床のフローリングは標準よりも幅広いオーク材を利用して落ち着いた雰囲気に仕上げている。また、壁は柱を隠す形で木材を多めに使うことで、造りつけの壁を施すなど、全体的に木や石の素材感を表現した。内装デザインはグランドハイアットやリッツ・カールトンなどの海外ホテルを手がける杉本貴志氏が担当するなど、同モデルハウスの特徴は、グレードアップした仕様の木の家であることだ。
 これは、無印ユーザー世代の年齢層が今後上がっていくことを見込んでのものだ。子どもが独立した夫婦や時間とお金にゆとりのある高齢世代が、落ち着いて住むことをイメージできる新しい家として提案している。これによりユーザー層のさらなる拡大を狙っていく。

 そして、等身大のモデルハウスを作っている点も特徴だ。「たしかに素敵だが、豪華で広すぎて、実際の生活がイメージしにくい」といったモデルルームにありがちな短所はない。実際に見学した顧客からも「生活がイメージできる、しっくりきた」という感想を聞くことが多いそう。

「入居者の家見学会」に参加して

 実際に「木の家」を購入したユーザーの声を聞き、購入にいたるポイントを探ってみたいとの思いから、記者は後日「木の家」に住んで約1年半という入居者宅を訪れた。

 今回訪問したのは、東京都豊島区にある木造3階建てのI邸(敷地面積約16坪、延床面積約70平方メートル)だ。1階は主寝室と風呂・トイレ、2階にLDK、3階はフリースペースとしての空間が一つ、家の中央部分には1~3階まで吹き抜けがある。I邸は30歳代夫婦と4歳の女の子の3人住まいだ。
 夫婦に住み心地の率直な感想を尋ねると、「吹き抜けによる開放感や明るさは魅力です。窓が大きく北道路でも自然光が入るのでわりと明るい。また、昨年の猛暑でもエアコンなしで過ごせたし、通気性は良いと思います。ゆくゆく子どもが成長したときには、3階に間仕切りを設置し、もう一つ部屋を作ることを考えているんですよ。将来、自分たちのライフスタイルに合わせて空間を作っていくのは、楽しみですね」(I氏)。
 無印の家に興味を持ったきっかけを問うと、「主人が無印良品の家具や雑貨が好きだったから(笑)。驚いたことに、家の中のさまざまなサイズが、無印の家具がピタッとはまる寸法に工夫されているんです」と奥様。「他社のハウスメーカーを何社くらい比較しました?」という質問への答えはなんと「0社」。無印良品で家が作れるなら、まずは同社で話を進めたいと思ったため、他社は全く検討していないという。I氏が感じる無印の魅力は、著名なデザイナーや建築家とも連携した独特なデザインやコンセプトだそう。

 「有楽町家センター」の小島氏が、「当社の顧客は、他のハウスメーカーを比較検討する方が非常に少ないですね。ユーザーは、無印良品のコンセプトやデザインに共感する人、無印良品が好きな人、自身の生活スタイルを大切にしている人、住まいへのこだわりを持っている人といった合理性を持った人が多い」などと述べていたことを思い出した。

「無印の家」の強さや、魅力とは

 今回の取材を通して記者が感じたこと、それは無印良品の他社にないブランド力だ。ブランドといっても高級志向ではなく、無印良品が打ち出すデザインやコンセプトが、シンプルでありながらも強烈な存在感を持っていること。個性的なオリジナリティを持っていることだ。そして、それに共感し、無印良品を好きと感じるファンの心をしっかり掴んでいることもある。柔軟で変化できる家(箱)は、住まい手にあわせられる魅力を持つ。
 現代では、暮らし方も人それぞれの個性が認められ、自由になっている。価値観が広がり、生活スタイルの変化に富む時代だ。そして、モノを長く大事に使う価値観が見直されている。こういった世の中の流れに同社の家はマッチしているように思えた。家も自由なものへと変化する時代なのだろう。間取りがあり、個室があるものが、家とは限らない。もっと住む人の自由な発想にあわせて存在するという考え方(同社のコンセプト)を強く感じた取材だった。
 最近、既存住宅のリノベーションが浸透しはじめたように、自分好みに家を作り上げ、仕上げることがユーザーにも広まっている。最後の仕上げを住まい手に委ねた、余地のある家こそ、「木の家」最大の魅力であると思う。

 異業種からの進出という点で珍しい同社の住宅事業。10~15年後の将来、同社の家は、よりユーザーの支持を得ているのか。今後の展開が大変興味深い。(yu)

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