記者の目

2011/11/11

程よいコミュニティが生まれる賃貸住宅

緑豊かなまちづくりが人気

 (社)プレハブ建築協会は先般、トヨタホーム(株)が開発した賃貸住宅「グリーンコート 社(やしろ)が丘」(名古屋市東区、全6棟、31戸)の見学会を実施した。同物件は、2010年11月に完成、賃貸住宅でありながら、緑豊かな住環境が整ったまちづくりが行なわれている。10年12月より入居を開始したところ、隣接した緑地との調和がとれた植栽が人気となり、11年4月には満室稼働となった。人気の理由をレポートする。

賃貸住宅「グリーンコート 社が丘」外観
賃貸住宅「グリーンコート 社が丘」外観
2階建てのメゾネットタイプで、戸建住宅のような外観デザインとなっている
2階建てのメゾネットタイプで、戸建住宅のような外観デザインとなっている
ペット入居可能なA棟には、玄関脇にペットシャワーが設置されている
ペット入居可能なA棟には、玄関脇にペットシャワーが設置されている
歩道やゲートのオブジェなど、細かいところも凝ったつくりに
歩道やゲートのオブジェなど、細かいところも凝ったつくりに
敷地内中心部には、中庭が設けられ、人々の憩いの場となっている
敷地内中心部には、中庭が設けられ、人々の憩いの場となっている
玄関周りにも多くの植物が植えられている
玄関周りにも多くの植物が植えられている
敷地内には防犯カメラも設置されている
敷地内には防犯カメラも設置されている

自然環境に恵まれた立地を生かす

 「グリーンコート 社が丘」は、従来の2×4工法の約1.5倍の強度を持つ壁パネルで構成されたTSW工法によって開発されており、トヨタホームの賃貸物件では大型のものとなっている。企画・設計、施工、貸主は同社を中心に住宅関連事業を手がけるトヨタすまいるライフ(株)(愛知県豊田市、代表取締役社長:中尾益大氏)。土地は50年借地で、建物はトヨタホームが所有している。

 同物件は、薄板軽量形鋼造2階建てのメゾネットタイプで、戸建住宅のような外観デザイン。子供が騒いでも下の階を気にしなくていいので安心だ。
 地下鉄東山線「本郷」駅から徒歩約16分、緑豊かで大きな公園などがある「猪高緑地」に隣接しており、自然環境に恵まれた場所に立地する。同緑地と調和のとれた植栽を施し、各戸の日当たりを十分に確保した住環境となっている。各棟は、全体のテイストは統一しつつも、屋根形状や外壁のカラー、デザインに変化を持たせており、6棟(A~F棟)のうちA棟は、ペット入居が可能。
 また、敷地の中央部には中庭を設けており、各棟が囲むような形で配置されている。中庭は、休憩や散策をはじめ、入居者のコミュニティスペースとして活用することができる。

中庭で入居者同士のコミュニティを

 敷地内は30種類以上の植物があり、芝生も整備され、緑豊かな空間が広がっている。緑地率28%を確保し、各住棟は、植栽と調和。また、壁がなく、開放的な雰囲気で、歩道やオブジェ、置き石など一つひとつがこだわりを持ってつくられた印象を受けた。
 入居者からは、自然に囲まれて四季のうつろいが感じられると、好評だという。
 各住戸の玄関には、植物がたくさん植えられており、管理も行き届いている。トヨタすまいるライフ(株)住宅事業本部・広滝良彦氏によると、「われわれ管理会社が特に呼び掛けなくても、入居者のみなさんが自ら率先して花を植えられるなど、きれいに暮らしていただいています」と言う。

 一方、同賃貸物件は子育てにも最適のようだ。
 敷地内につくられた丘は、子供たちが段ボールをお尻に敷いて、ソリのように滑るなど、遊び場になることもあるのだとか。各住戸から、中庭の様子が見られるので、住民同士でこうした子供たちの様子を見守ることができる。
 さらに、中庭には、入居者同士が交流しやすいように、パーゴラが配置され、人々の憩いの場となっている。
 入居者同士触れ合えるような配棟計画がなされているので、子供同士が仲良くなったり、ペットを通じて知り合うなど、自然とコミュニティが生まれている。
 中庭を歩いてみると、室内が若干見えてしまう場所もあるので、プライバシーの面で気になる人はいないのかと思ったが、入居者の方は、適度なコミュニケーションが生まれる配棟計画に共感した人が多かったそうだ。
 「われわれが掃除をしに訪ねたときも、『虫をつかまえた』といって見せてくれたり、子供たちは安心してのびのびと遊んでいます。住民同士みなさんが顔見知りで、仲良く暮らしていただいています」(同氏)。

 愛知県では、住戸に対して車を2台所有している世帯が多いことから、同物件では総戸数31戸に対して、駐車場43台分を用意。 また、将来を見据えて、A~C棟ではEV(電気自動車)に対応することも可能だという。
 同物件は、こうした取組みが評価され、人や地域にゆとりと安らぎを与える、やさしい空間づくりを提案した住まいを表彰する「第23回すまいる愛知住宅賞」で佳作を受賞している。

賃料は相場より割高で、9割が法人契約

 設備は、全住戸のリビングダイニングにガス床暖房があるほか、防犯カメラやロフト(6室のみ、約13平方メートル)なども備わっている。
 専有面積66.26~84.66平方メートル、間取り2LDK・3LDK。家賃10万6,000円~14万2,000円、共益費5,000円~6,000円。
 賃料は周辺相場と比べて1割ほど高くなっており、ターゲットは法人に設定している。狙いどおり入居者は、9割が法人契約となっており、ほとんどがファミリー層だが、ペット飼育可のA棟にはDINKSも入居している。
 総建築費は約5億円、現在の利回りは約10%という。

 緑が多いので、管理が大変なのではないかと感じたが、入居者たちには自然と「きれいな住まいにしたい」という思いが芽生えるようで、率先して住宅の周りを掃除するなど、きれいに使っているという。また、ペットを飼う人、飼わない人がいるマンションではトラブルがつきものだが、同物件では、入居者同士が顔見知りとなることで、マナーをしっかりと守り、トラブル、クレームともまったく起きていないそうだ。

 分譲マンションでは、住民同士のコミュニティ形成のために、ハードやソフト面での工夫を行なっている物件は多いが、賃貸住宅では珍しい事例である。
 賃貸住宅の入居者は、近隣との関係が希薄な傾向がある。しかしこれからは、子育て世帯を中心に、賃貸住宅でも住民同士で適度なコミュニケーションのあるライフスタイルが受け入れられていくのかもしれない。(さ)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/1

「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。