記者の目

2012/2/16

シンガポールの女性エージェントはアグレッシブ!

会社に保育所を併設、出産後も安心して働ける環境

 ロンドン、ニューヨーク、香港に続き、いまや「世界第4の金融センター」といわれるまでに成長したシンガポール共和国。経済成長もさることながら、最近では「マリーナ・ベイ・サンズ」(公益カジノを有する巨大リゾート施設)がCMで話題になり、人気観光スポットとして注目を浴びている。記者は2011年11月、5日間にわたって同国の不動産市場や住宅事情、供給物件などを視察した。なかでも印象に残った、地場大手不動産会社の女性エージェントについて紹介したい。

1980年創業の地場大手不動産会社「HSR」。約1
1980年創業の地場大手不動産会社「HSR」。約1
700名ものエージェントを抱えている
700名ものエージェントを抱えている
HSRは、ニュージーランド、オーストラリア、マレーシア、フィリピン、英国など世界中で10プロジェクトを展開中
HSRは、ニュージーランド、オーストラリア、マレーシア、フィリピン、英国など世界中で10プロジェクトを展開中
トップセールスを誇るJenさん。女性が働きやすい環境づくりに注力しているため、結婚・出産後も働き続ける人がほとんどだという
トップセールスを誇るJenさん。女性が働きやすい環境づくりに注力しているため、結婚・出産後も働き続ける人がほとんどだという
入口には、トップセールスのエージェント写真が貼られている
入口には、トップセールスのエージェント写真が貼られている

結婚・出産後も働く女性がほとんど

 今回の視察は、(財)日本賃貸住宅管理協会・レディース委員会が主催したもの。訪れた不動産会社は、1980年創業の地元では有名な不動産会社「HSR」。現在は、ニュージーランド、オーストラリア、マレーシア、フィリピン、英国など世界中で10のプロジェクトを展開中とのこと。現在、約1,700名のエージェントを抱える同社を立ち上げたのは女性(現在のCEOは彼女のご主人)で、全エージェントの6割は女性が占めているという。創業者が女性とあって、参加者一行は視察前から、同じ働く女性としての親近感を感じていたようだ。

 さて、われわれの対応にあたってくれたのは、同社でトップセールスを誇る取締役のJenさん。自信に満ち溢れた堂々とした姿に、参加者から思わず感嘆の声があがった。早速、Jenさんへの質問が飛び交った。

 まず、働く女性の一番の関心事である「結婚・出産後も働けるのか」という質問に、彼女は「結婚・出産後も仕事を続ける人がほとんどです。当社には、朝7時から夜9時まで子供を預かってくれる保育所がありますし、会社もある程度、その費用を負担してくれます。安心して働けますから、仕事を辞める必要がないんです」と答えた。

 日本でも、結婚・出産後も働く女性は増えつつあるが、保育所の確保に悩んでいる人は少なくないだろう。やはり、女性創業者だけに、その辺りの気配りが行き届いている。こうした不動産会社が増えていくと、子供を持つ日本の働く女性も、今以上に仕事に打ち込めるかもしれない。 

社会的地位が向上した、シンガポールのエージェント

 次に気になるのは収入面。聞くと、トップエージェントの平均月収は日本円で約65万円、シンガポール人の平均月収が10万円前後だというから、かなりの高収入を得ていることになる。

 同国では、不動産仲介のほとんどをフリーランスのエージェントが手掛けている。会社の名義を借りる代わりに、ロイヤリティ10~20%を支払えば、不動産仲介業務に携わることができるという。
 しかし、すべては個人裁量。ミスをしてもカバーしてくれる上司がいるわけではなく、会社側も責任を取らないため、何かとトラブルが多いのも事実だ。こうしたトラブルを回避するべく、2010年末、日本の宅地建物取引主任者に相当する資格制度がスタートした。同資格保有者にしか、不動産仲介が認められなくなったのだ。

 「これまでは、不動産知識の乏しい人でも自由に仕事ができたので、さまざまな問題が噴出していました。しかし、免許が必要となってからは、われわれエージェントは特別な存在となり、社会的地位も向上しています。現在では、憧れの職業にもなっているようで、ますます自分の仕事に誇りを持ってお客さまに接することができます」、とJenさんは胸を張る。

 ちなみに、視察中「シンガポール不動産事情」について講義してくださった、現地在住・東京不動産(株)代表取締役の高野 徹氏によれば、12年1月現在、シンガポールには不動産会社は1,487社、登録するエージェントは3万577名いるとのこと。11年は不動産会社1,559社、エージェント3万4,301名がいたとのことで、単純に考えても72不動産会社、3,724エージェントが不動産業界を離れたことになる。ただし、これまで不動産仲介を行なってきた人は、今年6月までは試験に合格しなくても営業活動を継続できるため、6月以降はさらにその数が減少するものと思われる。

 なお、不動産仲介を離れた人にはパートタイマーが多く、「フルタイムの仕事に集中する」「フルタイムの仕事を他で見つけた」ことが理由にあがっているよう。ほかにも、「家族との時間をもっと大切にしたい」「不動産の仕事を少し休みたい」などの理由で現場を離れていく人もいるのだとか。
 やはり女性にとって、仕事と家庭の両立は難題のようだ。それを乗り越えるためには、Jenさんのように、自身の仕事に対する誇りや揺るぎない覚悟を持つなどの強い気持ちが必要なのだろう。

東日本大震災の被災者に約500万円の寄付

 一方、彼女たちの仕事以外での目下の関心事は、社会貢献活動なのだとか。HSRグループでは、「“Give Back”Challenge」と称したチャリティ活動を推進しており、これまで孤児院や学校建設などさまざまな事前事業活動に取り組んできた。東日本大震災の被災者のために、約500万円の寄付も集めたという。
 「さまざまな活動を通して、HSRを多くの方に知っていただきたい。住まいのお手伝いに限らず、私たちにできることはたくさんあるはず。こうしたことから、社会に認められる会社、認められる職業として地位が向上していけば、仕事へのモチベーションも高まると思っています」(同氏)。

 シンガポールのアグレッシブな女性に出会い、参加者一同も元気を得たようだった。最近では、不動産業界でも女性の意見を生かした商品づくりなどが盛んに行なわれている。女性パワーは、今後ますます求められていくことになるだろう。記者(女性です)もシンガポールの女性を見習って、イキイキと活気に満ちた毎日を過ごしたいものだ。(I)

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【関連記事】
・月刊不動産流通2012年3月号:拡大版☆WORLD VIEW シンガポールの不動産事情レポート『経済発展背景に空前の建設ラッシュ』
・月刊不動産流通2012年2月号:流通フラッシュ『世界の投資家が注目。シンガポールはいま建設ラッシュ』

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