記者の目

2012/3/23

次代の商業施設、キーワードは“自然”と“コミュニティ”

4月18日、商業施設「東急プラザ 表参道原宿」開業

 (株)東急不動産の商業ビルブランド「東急プラザ」の1号店が誕生したのは1961年。地域に愛される商業施設となった「自由が丘東急プラザ」の前身である「自由が丘東急ビル」(東京都目黒区)が開業した。そして約50年が経過した今、“東急プラザ”は新しい商業施設へ生まれ変わろうとしている。そのリブランディングの第1弾として、東急不動産(株)は「東急プラザ 表参道原宿」(東京都渋谷区)を、4月18日に開業する。今後の東急プラザが目指すものや、リブランディングのコンセプト、それを実現するための取り組みなどを紹介しよう。

「東急プラザ 表参道原宿」外観イメージ
「東急プラザ 表参道原宿」外観イメージ
東急プラザ第1号店となった1961年開業当時の「自由が丘東急ビル」(東京都目黒区)。当時のビルは、銀行や保険・証券会社など経済センターの機能をもちながら、地下や上層階に飲食店が配された総合ビル。自由が丘駅前には高層建物が全くなかったため、大変目を引いたという
東急プラザ第1号店となった1961年開業当時の「自由が丘東急ビル」(東京都目黒区)。当時のビルは、銀行や保険・証券会社など経済センターの機能をもちながら、地下や上層階に飲食店が配された総合ビル。自由が丘駅前には高層建物が全くなかったため、大変目を引いたという
屋上テラス「おもはらの森」では、自然と人々の視線が中央に集まり、コミュニケーションが生まれるよう設計されている
屋上テラス「おもはらの森」では、自然と人々の視線が中央に集まり、コミュニケーションが生まれるよう設計されている
施設中央部に設置された吹抜けの内観。天井部には屋上テラスがのぞき、自然光が入るため明るい
施設中央部に設置された吹抜けの内観。天井部には屋上テラスがのぞき、自然光が入るため明るい
旬のトレンドや話題の情報を届けるポップアップスペース「OMOHARA STATION」。カフェが併設され、人々の憩いの場にもなる
旬のトレンドや話題の情報を届けるポップアップスペース「OMOHARA STATION」。カフェが併設され、人々の憩いの場にもなる
万華鏡の中に人々が吸い込まれるようなイメージでデザインされたエントランス
万華鏡の中に人々が吸い込まれるようなイメージでデザインされたエントランス
同社代表取締役社長・金指 潔氏(写真中央)と開発プロジェクトメンバー4名。写真右から電通の岸 勇希氏、NAP建築設計事務所代表取締役の中村拓志氏、PR担当の(株)よしもとクリエイティブ・エージェンシーの永谷亜矢子氏、トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長の中村貞裕氏
同社代表取締役社長・金指 潔氏(写真中央)と開発プロジェクトメンバー4名。写真右から電通の岸 勇希氏、NAP建築設計事務所代表取締役の中村拓志氏、PR担当の(株)よしもとクリエイティブ・エージェンシーの永谷亜矢子氏、トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長の中村貞裕氏

時代とともに変わる、商業施設へのニーズ

 最初の「東急プラザ」(当時:自由が丘東急ビル)ができたのは1961年。それ以来、同社は地域とそこに住む人々に根ざした商業施設づくりを進めてきた。65年に渋谷、68年に蒲田、69年に赤坂、2010年に戸塚と同施設の開業を続けてきたが、年月の経過とともに人々が求める商業施設像は移りゆく。そこで、同施設創業50年を迎えた今、同社が時代に合った新しい商業施設づくりに真正面から向き合ったもの、それが「東急プラザ 表参道原宿」プロジェクトだ。顧客ターゲットは、女性を意識しているものの、年齢はあえて限定せず、好奇心が強い人や新しいものをつくり出そうとする“高感度で自己編集が好きな人”とした。

 リブランディング戦略では、「東急プラザ=都市の広場」という原点に立ち、“今の時代に合った都市の広場”を明確化することに力を入れたという。地域の人びとが集う新しい広場とはどのようなものとなるのだろう。その概要をレポートしていこう。

豊かな緑と人が触れ合う施設

 同施設は、JR山手線「原宿」駅徒歩4分、東京メトロ千代田線・副都心線「明治神宮前」駅徒歩1分という、明治通りと表参道の交差点角地に立地する地下2階地上7階建ての商業施設。建築面積は1,662.98平方メートル、延床面積は1万1,852.34平方メートル。“「ここでしか」「ここだから」をカタチに”を開発コンセプトに、日本のファッション・カルチャーの情報発信拠点にふさわしいエリア初出店・新業態を取り揃えた27のテナントで構成。日本初上陸となるカジュアルファッション「アメリカンイーグル アウトフィッターズ」や、アパレルブランド「トミー ヒルフィガー」の旗艦店などの出店を予定している。

 そういった有力テナントの誘致や原宿の一等地と言える場所へのオープンとあって、同施設は、多くの一般メディアでも注目を浴びているが、本稿では、表参道のケヤキ並木や明治神宮の森に象徴されるエリア特性を活かした緑多き建築計画に注目したい。

 会見で、デザイン設計を担当したNAP建築設計事務所代表取締役・中村拓志氏は、「一言でいえば、この建物は“木を尊重する建物”。次の時代に必要なのは自然を尊重する感性です。内部機能を多少使いづらくしても、建築デザインにおいて自然を尊重することを優先した」と述べており、同施設では緑豊かな環境を随所に取り込んだ建築デザインとなっている。

 屋上には誰もが気軽に利用できるパブリックな憩いの場「おもはらの森」を設置。同名称には、この森が表参道と原宿のまちを見守り、地域の人や来訪者に愛され、親しまれる場所になってほしいとの願いが込められている。さらに、四季を感じられるこの森がエリア全体のコミュニティ機能を果たすことを目指している。
 「おもはらの森」では、樹木やテラスの配置を工夫することにより、人々の視線が自然と中央に集まるよう工夫されている。そこでは、お互いの視線が行き交うことで、テラス内に独特の一体感を生み出すという。利用者同士が自然にほほえみ合い、コミュニケーションを生み出しやすい設計とすることで、新しい公共性が生まれることを期待している。また、3・5・7階にも自然を感じられるテラスを設けるほか、建物中央部には吹抜けを設置し、開放的で自然光や緑を感じられる環境を創出する。

コミュニティ形成のための工夫

 自然を盛り込んだ建築設計の他に力を入れているのが、「コミュニケーティ形成」の仕組みだ。人と人がコミュニケーションを交わすことが、ファッション・カルチャーの新たな情報発信につながると考え、そのための取り組みとして、先に紹介した「おもはらの森」のほか、エントランス上部の人通りの絶えない場所に、情報発信機能をもつポップアップスペースを設置する。

 これは、人気ブランドの日本初上陸や、最旬ブランドショップなどの情報を期間限定でいち早く伝えていくもので、カフェも併設されるもの。表参道・原宿エリアに立ち寄る人が、最新の価値ある情報を求め、必ず立ち寄っていく「街の駅」のような存在となることを願っていることから、「OMOHARA STATION」と名付けられた。「カフェを併設することで、施設全体の休憩スペースとしても活用できる。衣食住の混ざったライフ提案ができる、イキイキ、ワクワクした空間となるよう、企画していきたい」(トランジットジェネラルオフィス(株)POPUPSPACEプロデューサー・中村貞弘氏)。

 さらに、ネットでなくリアル店舗だから実現できるコミュニケーションについて、コミュニケーションデザイン担当の(株)電通・岸 勇希氏は、「ネットで何でも入手できる時代だが、コミュニケーションを育むことを目的に、リアル店舗に重きを置いた施設としたい。ただモノを買うための場所から、実際の店舗でモノや人に触れるときの高揚感(+α)を提供できる場所でありたい。そこから、新たな情報発信が生まれるはずだ」などと話した。

世界に向けた情報発信拠点

 同施設の立地は、表参道と原宿の交差点という、情報感度の高い人と最先端のファッション・カルチャー情報が混在する刺激の多いエリアだ。「何かがぶつかるところ(クロスする場所)は、新しい発信が生まれる。この交差点への想いは強く、この立地に対し、尊敬の念をもち、大切にしなければならないと思っている」(電通・岸氏)というが、この場所は昔から最先端の情報が集まる流行の発信地でもあった。
 会見で東急不動産(株)代表取締役社長・金指 潔氏は、「この交差点に開業することに責任感を感じている。創業時から受け継がれているまちづくりのDNAを進化させ、地域と環境が共生する施設づくりを展開したい。さらには、渋谷エリア全体の価値向上、日本を代表するカルチャー情報発信の中心地となることを期待している」と抱負を述べた。

 この場所に誕生する「東急プラザ 表参道原宿」が、今後、人の交流と新しいモノ・コトを生み出し、国内のみならず世界へも情報発信していくことを期待するとともに、ここでの新しいファッション・カルチャーのムーブメントや流行の誕生が大変楽しみだ。4月の開業が待ち遠しい。(yu)

***

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