記者の目

2012/5/29

元大工の社長が自宅で「実証実験」

目指すは、節電が楽しめる「究極のエコ住宅」

 東日本大震災をきっかけとしたエネルギー事情の大きな変化により、今年の夏も「節電」が大きなテーマとなる。そんな中、住宅メーカー(株)アキュラホーム社長の宮沢俊哉氏は自宅を実験棟に「都市住宅での快適なエコ暮らし」の実現に向けチャレンジ中。実は、これまでに引っ越しを繰り返し、3軒の自宅で実験を重ねており、実験棟の失敗から学んだことを商品開発に活かしてきた。4軒目となる実験棟では、どんな取り組みを行なっているのだろうか。

4軒目となる実験棟。真夏はヒートアイランドと化す立地で、昨年の夏、「買電ゼロ」生活に挑戦した
4軒目となる実験棟。真夏はヒートアイランドと化す立地で、昨年の夏、「買電ゼロ」生活に挑戦した
今回の実験の柱「井戸」。「災害時に飲み水として提供したい」という思いから始めた取り組みだが、実現に至るまでには何段階もの実証が必要とか
今回の実験の柱「井戸」。「災害時に飲み水として提供したい」という思いから始めた取り組みだが、実現に至るまでには何段階もの実証が必要とか
1階駐車場に積み上げられた「薪」。1年以上の乾燥期間が必要であるため、冬に備えて準備中
1階駐車場に積み上げられた「薪」。1年以上の乾燥期間が必要であるため、冬に備えて準備中
再生可能エネルギー利用でもある「薪ストーブ」。海外からの輸入物で50万円と高価だが、広く提供できるよう、日本製の安価なものを探しているという
再生可能エネルギー利用でもある「薪ストーブ」。海外からの輸入物で50万円と高価だが、広く提供できるよう、日本製の安価なものを探しているという
5年ほど前から京都に通うようになり、京都の住まい方がすっかり気に入った宮沢社長。京都から建具を直送してもらい、夏と冬とで建具を変えている
5年ほど前から京都に通うようになり、京都の住まい方がすっかり気に入った宮沢社長。京都から建具を直送してもらい、夏と冬とで建具を変えている
夜11時以降に充電を始め、昼間に使用するため設置したリチウム蓄電池。薪ストーブや太陽光発電、太陽熱温水器の設置により、月に3
夜11時以降に充電を始め、昼間に使用するため設置したリチウム蓄電池。薪ストーブや太陽光発電、太陽熱温水器の設置により、月に3

「買電ゼロ」を目標に、大節電に挑戦!

 宮沢氏の自宅は、1階が重量鉄骨造の駐車場スペース、2・3階が木造の住居部分(2005年竣工、5LDK・262平方メートル)の混構造3階建て。真夏は典型的なヒートアイランドと化す、さいたま市の中心に位置する。

 昨年の夏、この立地でエアコンをなるべく使わず「買電ゼロ」生活に挑戦したという宮沢氏。チャレンジにあたり、太陽光発電、風力発電、リチウム蓄電池を装備。日射遮蔽策として、2階ベランダに庇と可動式のオーニングを設置、蓄熱対策としてベランダの床を芝生に、塀をアクリルから木製格子にするなど、熱の侵入を徹底してカットした。
 また、立地条件から風の流れを計算し、一番気温の低い北側の外壁に風の道を開ける工事を実施。南側の入口にはドライミストを設置して、あらかじめ風をクールダウンさせるよう工夫した。

 さて結果は…。
 不運なことに、9日目の夜に大停電が発生、蓄電池の残量がゼロになってしまった。結局、買電ゼロ生活は21日間達成した段階で断念。しかし、遮熱・蓄熱対策等が奏功し、最も室温が高かった3階寝室の温度を最大で6度下げることに成功。東京電力からの買電率も72%削減することができたという。
 また、リチウム蓄電池を一般住宅で使用するには深刻な問題があることも分かり、「多くの成果を得た実験だった」(宮沢氏)と、十分な手応えを感じたようだ。

深さ6mの井戸を掘削

 今回の実験の柱は、玄関脇の植栽近くにある深さ6mの井戸。「災害時に井戸水を提供できたら…」という思いから実験を始めたそうだが、今後どう使えるかについてのアイディアを広く集めるために、注文住宅を建てた顧客を対象に無料モニター募集を行なっている。

 すでに宮沢氏の頭の中は、井戸水を使うアイディアでいっぱい。まずは、緑のカーテンや芝生に散水するための水(社長のお宅は自動散水のため、水道代が月に2万円ほど掛かるらしい)として、また洗車用として。さらに、ろ過装置を設置して、風呂やトイレ用水への利用も計画している。
 また、5m以下の地下水は水温が15~16度に安定するという性質を活かし、雪国での消雪などにも使えるのではないかと思案している。最終目標はもちろん、災害時に飲み水として顧客に提供することだ。

 井戸をつくる前、井戸掘り会社が持ってきた見積もり額は約70万円。「こんな金額ではお客さまに提供できない!」と、何と宮沢社長は手堀りで井戸をつくったのだとか。現在、10万円程度での商品化を検討しているという。

つくって、使って、住んでみる

 2階リビングには、再生可能エネルギー利用でもある薪ストーブを置いている。これも災害時には活躍すると考え、知り合いの植木屋から薪を分けてもらっているのだとか。
 薪ストーブで燃やすのに適した木材の含水率は15~20%程度で、1年以上の乾燥期間が必要なため、駐車場の薪置き場には、冬に備えてたくさんの薪を乾燥していた。
 
 窓は遮熱効果のあるLow-Eガラスより、冬の日射しを利用するため、ペアガラスに紫外線をカットするフィルムを貼ったものを使用している。ちなみに、夏は庇を出し、カーテンを閉じれば、日射しは入ってこないという。

 また、京都の住まい方を手本に欄間付きの建具を採用、夏と冬とで建具を変えている。
 5年ほど前から京都に通うようになり、さまざまな夏の暮らし方の工夫に感心させられた宮沢氏。自宅に中庭をつくり、そこで風を冷やしてから家の中に取り込むなど、良しと思った体験や教えをどんどん実験材料に活かしている。

 宮沢氏の奥様は、「引っ越しや実験にはもう慣れました。自宅は主人の大きなおもちゃ箱のようなものです」と、少々呆れながらも微笑む。
 「失敗も多々あるけれど、限界をたどったり試行錯誤したり、実験とはそういうもの」と話す同氏。つくって、使って、住んでみる。自らの生活で試し、徹底した顧客目線で家づくりに取り組む根底にあるのは「誰もが長く、快適に住める家をつくりたい」という思い。
 元大工・宮沢氏の挑戦はまだまだ続いていくようだ。(I)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年6月号
「特定空家」にしないため…
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/5

「月刊不動産流通2024年6月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年6月号」の発売を開始しました!

編集部レポート「官民連携で進む 空き家対策Ⅳ 特措法改正でどう変わる」では、2023年12月施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」を国土交通省担当者が解説。

あわせて、二人三脚で空き家対策に取り組む各地の団体と自治体を取材しました。「滋賀県東近江市」「和歌山県橋本市」「新潟県三条市」「東京都調布市」が登場します!空き家の軒数も異なり、取り組みもさまざま。ぜひ、最新の取り組み事例をご覧ください。