記者の目

2012/9/3

独自の取り組みで、地域の魅力を伝えるホテルに

東京・浅草の雷門前にホテルが竣工

 ヒューリック(株)とヒューリックホテルマネジメント(株)は8月10日、東京・浅草の雷門前にホテル「THE GATE HOTEL 雷門 by HULIC」(東京都台東区)を開業した。ヒューリックは不動産賃貸を中核事業とし、オフィスを中心とした既存所有物件の建て替えを積極的に実施しているが、今回の物件もその一環。老朽化した築57年の既存物件の建て替えを3年前から検討し始め、今回のホテル開業となった。しかし、オフィスからオフィスへの建て替えをメインに行なってきた同社が、ホテルを手掛けたのは初の試み。その開発に至る背景や特徴を紹介していこう。

「THE GATE HOTEL 雷門 by HULIC」外観
「THE GATE HOTEL 雷門 by HULIC」外観
エレベーターで13階のフロントに上がると、全面ガラス張りの窓からスカイツリーが宿泊客を迎える。浅草の喧噪を離れ、非日常的な空間へと導く
エレベーターで13階のフロントに上がると、全面ガラス張りの窓からスカイツリーが宿泊客を迎える。浅草の喧噪を離れ、非日常的な空間へと導く
14階にある屋上テラス。テラスには隠れ家的な小さなバーが隣接しており、屋外での飲食も可能
14階にある屋上テラス。テラスには隠れ家的な小さなバーが隣接しており、屋外での飲食も可能
13階レストラン内のバー。カウンターはスタッフと客が適度な距離感を保てる幅を心がけたほか、一人客が気兼ねなく食事できるよう長めに設定した
13階レストラン内のバー。カウンターはスタッフと客が適度な距離感を保てる幅を心がけたほか、一人客が気兼ねなく食事できるよう長めに設定した
レストランでは、窓越しにスカイツリーを眺めて食事を楽しめる
レストランでは、窓越しにスカイツリーを眺めて食事を楽しめる
スイートルーム「ザ・ゲート」のベッドルーム。ウィリアムモリスのデザインによる壁紙が特徴。またベッドは全室で寝心地を追求したスランバーランド製を採用。ナイトウェアは珍しい二重ガーゼ素材のセパレートタイプを用意し、快適さを追求した
スイートルーム「ザ・ゲート」のベッドルーム。ウィリアムモリスのデザインによる壁紙が特徴。またベッドは全室で寝心地を追求したスランバーランド製を採用。ナイトウェアは珍しい二重ガーゼ素材のセパレートタイプを用意し、快適さを追求した
デスクと椅子を用意した部屋。ビジネス客が書斎として利用することもできる
デスクと椅子を用意した部屋。ビジネス客が書斎として利用することもできる
各フロアのエレベーター前にはデザインにこだわった鏡や照明を設置するなど、内装の細かい部分まで気を配っている
各フロアのエレベーター前にはデザインにこだわった鏡や照明を設置するなど、内装の細かい部分まで気を配っている
フロントの壁面に設置された日比野克彦氏が手掛けた絵画。風神雷神とスカイツリーを描いたもので、力強さを表現した。そのほかレストラン内に3枚、ロビーに1枚、同氏の作品が飾られている
フロントの壁面に設置された日比野克彦氏が手掛けた絵画。風神雷神とスカイツリーを描いたもので、力強さを表現した。そのほかレストラン内に3枚、ロビーに1枚、同氏の作品が飾られている

なぜホテルに?

 同ホテルの前身は、築57年の鉄骨鉄筋コンクリート造地上3階地下1階建てのビルだ。テナントにはスーパーマーケットが入居しており、地元利用者で賑わっていたが、建物の老朽化が進んだため、建て替えを検討することとなった。オフィスへの建て替え実績が豊富な同社だが、検討の結果、本物件はホテルに建て替えを決定。その理由は、まず、同物件の立地だ。東京・浅草の雷門前に位置し、5月に開業したスカイツリーが目前にあるロケーション、浅草が年間約2,000万人以上が訪れる観光地であることから、この立地のポテンシャルを最大限生かせる用途が、“ホテル”だと考えたという。浅草という場所柄、オフィスビルではテナントニーズとフィットしにくいが、マンションではもったいない。そういった検討を重ねた結果、ホテルという選択肢が現実的となった。実際、同社では、過去にこれほど観光に適した立地での建て替え事例はなかったそう。

 もう一つが、ホテル運営による個人ユーザーへのアピール効果を狙っているためだ。同社は、4年前に東証1部上場を果たし、不動産業界内での知名度は高い。しかし、オフィスビル賃貸事業を主軸に展開していることから、一般消費者である個人ユーザーからの認知度が低いのが実情であった。個人ユーザーと直接的に接点をもてるホテル事業に参入することで、会社の知名度向上を図りたいと考えている。そうすることで、同社の新たなイメージを創出する効果も狙っているのだという。

独自運営で、競合他社との差別化狙う

 開発にあたり、同社に対しホテルチェーンからの入居依頼や、運営委託会社からの声が多数掛かった。しかし、競合が多い同エリアでビジネスホテルを展開しても価格競争に陥る。そこで、「他社との差別化を図っていくためには、ホテル自体に独自の特徴や色を出すことが重要」(同社代表取締役社長の西浦氏)と考え、自社で運営していくことを決めたという。

 同社はまず、自社で独自運営を行なうための専門子会社として、ヒューリックホテルマネジメントを立ち上げた。そして、ホテル運営の基礎についてはホテルアドバイザーといわれる外部のコンサルティング会社に協力を求め、数社集めてのコンペを実施、その中で最終的に選ばれたホテルバリューアドバイザーズ合同会社による運営指導を受けつつ、同ホテルの運営に取り組んでいる。

建物は環境に配慮。行政のCO2先導事業に採択

 同ホテルは、東京メトロ銀座線・都営地下鉄浅草線「浅草」駅徒歩2分に位置する、鉄骨造地上14階建て(ホテルは3~14階部分)。敷地面積1,036.45平方メートル、延床面積7,192.96平方メートル。建築・インテリアなど全体のデザインプラン を(株)内田デザイン研究所の内田 繁氏が担当、顧客に印象づけたいフロント・レストラン・バーが入る13階フロアには、東京藝術大学教授の日比野克彦氏のアートワークを飾ることで特徴を出した。フロントをあえて13階に設け、全面ガラス張りとすることで、来訪者がスカイツリーや浅草の眺望を見られるよう演出している。

 建物は、環境面での配慮を実現。ホテルの主な運用時間帯が夕方以降であるため、昼間に集熱した太陽熱を、廊下の床下に敷設した潜熱畜熱材に集熱し、夕方以降に放熱するシステムを導入。これにより、自然エネルギーを夕方以降の空調に有効利用でき、年間CO2排出量を約31%削減する。このシステムは、「国土交通省住宅・建築物省CO2先導事業」の補助金事業に採択されている。また、給湯には高効率小型コジェネの排熱を利用するほか、屋上と壁面の緑化やLED照明、節水型器具、潜熱回収型高効率温水器等を導入することで、エネルギーの削減に取り組んでいる。

コンセプトは、“インティメイトなホテル”

 同ホテルが目指すオリジナリティについても紹介していこう。同ホテルは、個人客に愛される“インティメイト(intimate=親密な、隠れ家のような)なホテル”をコンセプトに、国内外の観光客や東京近郊在住のアッパー層をメイン顧客としている。デザインを担当した内田氏は、「浅草のまちの喧噪とは180度違った異空間にすることで、ほっと寛げる空間を目指した」という。そのため、外観は窓の配列美を意識したシンプルかつ知的でクールなデザインを、内装は居心地の良さを感じられるようグレーなど暗めの壁紙を採用。浅草っぽさを出さず、対照的な印象となることを心がけ、非日常性を高める工夫を凝らした。そのほか、英国王室御用達の「スランバーランド」製ベッドや、空気と水が混ざり合い、柔らかな水の質感を実現する「レインダンスシャワー」も導入している。

 客室は全7タイプ、137室(客室面積15~58平方メートル)。宿泊料金は、1人当たり1万4,000円~8万円(2名利用1室料金で1万7,000円~)、中心価格帯は2名利用1室料金で2万5,000円(いずれも税・サービス別)。総事業費は約8億円で、年間売上10億円が目標。

“浅草というまち”を伝えるための取り組み

 また、“インティメイトなホテル”を実現するため、ソフト面での取り組みを充実させている。その一つが、全スタッフが職種間横断でサービスに従事する「マルチタスクメソッド」である。フロント、レストラン、調理、バックオフィスといった部門間における役割の制約を取り払い、サービスの単一機能性を排除することで、スタッフ一人ひとりがホテル全体への意識や知識を高めていくものだ。例えば、コック服を着た調理スタッフが、フロントでチェックイン業務を行なう姿を、当たり前のように見受けるだろう。全スタッフが自分の担当業務に縛られず、顧客が求めることに柔軟に対応していくサービス姿勢を重視している。これにより、顧客に対し、点でなく面でのサービスを提供し、顧客満足と従業員満足の向上を目指していく。

 もう一つが、「浅草ショールーム」と称したサービス。スタッフが“浅草コンシェルジュ”として自ら地域に出向き、見聞きした浅草の魅力や名店、名産品のうんちくを顧客に伝えていくものだ。ホテル内における単なる浅草土産の販売に終始せず、地域の名店や注目店のこだわりを紹介することで、顧客がまちに興味を持ち、自ら「地域を体感しに行く」ことを目的としている。同ホテル総支配人の宇野敬介氏は、「浅草という地域と人を結び付けるための“フック”“動機づけ”となるサービスを行ないたい」と言う。2~3時間の滞在では分からない、地域の魅力を深く知ってもらい、じっくり体感してもらうための取り組みである。

 ホテルが地域と人(ユーザー)をつなぐことで、まちおこしや地域活性化につながるのであれば、真の新しい価値や独自性が生まれるだろう。それは非常に意義深いことだと思う。(yu)

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