記者の目

2012/9/10

あの人気シェアハウスは、いま?

巨大シェアハウス「シェアリーフ千歳烏山」の実態に迫る

 日本土地建物(株)が今年3月に竣工、入居募集を開始して、約2ヵ月で満室を達成したシェアハウス「シェアリーフ千歳烏山」(東京都世田谷区)。驚きなのは同物件が総室数87室という巨大シェアハウスであること。また、駅からは徒歩23分と“駅遠”物件で、賃料も周辺のワンルーム賃貸などと変わらないこと、それにもかかわらず、入居開始から半年近くが経った今でも満室稼働している。  この成功の背景には、「充実の設備」「広い共用部」といった建物スペックの評価を得ての部分もあるがそれだけではない。その運営方法に人気の理由があるようだ。稼働から3ヵ月後取材する機会を得たので、今回は入居後の運営面や入居者の様子を中心に紹介したい。  なお、建物概要や開発内容などについては以前、当コーナーで紹介した記事「個性異なる2つの『シェア』」をご参照のうえ読み進めていただけるとありがたい。

「シェアリーフ千歳烏山」の共用部である計65畳分あるLDK。天気が良いときは窓を開けてテラス部分も一体利用できる。入居者の交流拠点となっている
「シェアリーフ千歳烏山」の共用部である計65畳分あるLDK。天気が良いときは窓を開けてテラス部分も一体利用できる。入居者の交流拠点となっている
撮影した日は週末。入居者同士で談笑しながら遅めの朝食をつくっていた
撮影した日は週末。入居者同士で談笑しながら遅めの朝食をつくっていた
「ライブラリー」はカウンター席があるため、一人でゆっくりしたい人はここで気ままに過ごせる
「ライブラリー」はカウンター席があるため、一人でゆっくりしたい人はここで気ままに過ごせる
本は入居者間でシェアしているとか。節約にもつながるほか、お互いにオススメ本を紹介し合うなどの交流も生まれそうだ
本は入居者間でシェアしているとか。節約にもつながるほか、お互いにオススメ本を紹介し合うなどの交流も生まれそうだ
共用部入口にある「シェアマップ」。オススメショップなどを入居者が書き込み、地域情報を共有しているほか、自己紹介や伝言板としても利用している。イベントの告知なども記載されていた
共用部入口にある「シェアマップ」。オススメショップなどを入居者が書き込み、地域情報を共有しているほか、自己紹介や伝言板としても利用している。イベントの告知なども記載されていた

◆ワンルームと変わらない賃料でも 「シェアハウス」を選択する人が多数

 まずは、同物件の集客方法について触れておこう。昨年12月頃に物件専用ホームページを開設、今年1月末に現地への物件案内を行なうなど集客を行なった。中でもシェアハウス専用のポータルサイトである「ひつじ不動産」(http://www.hituji.jp)からの反響が高かったという。「同サイト利用者が多かったことをみても、同物件を賃貸住宅の延長で検討されている訳ではなく、当初からシェアハウスに住みたいという思いの方が集まったことがわかりました」(同社都市開発事業本部都市開発部・三浦 拓氏)。
 入居者の8割は一般的な社会人で、6割が20歳代だ。同物件の賃料は周辺のワンルーム賃貸とほぼ同等であることからも、シェアハウスという暮らし方に価値を見い出す人が増えていることがみてとれる。

 また、同物件は新築棟(個室)とリノベーション棟(3部屋1ユニットタイプの部屋)からなるが、新築に人気が偏るということもなかったという。「一人の時間も大切にしながら共用部で交流を持ちたい方は個室、居室のなかでも交流を持ちたい方はユニットタイプと、はっきり傾向が分かれました」(同氏)。ユニットタイプでは、ほとんどが初対面の人同士の入居だったが人間関係はうまくいっているそう。また、共用部では個室居住者とユニット居住者が共存するかたちになるが、両者間の温度差なども特に生まれていないという。「人数が多い分、多様な職業の人が入居されています。部屋では一人の時間を確保できて、共用部ではさまざまな人と交流できることが魅力と聞きました」(同氏)。

 一方、同物件は、京王線「千歳烏山」駅から徒歩23分。バス便となるため、通常の賃貸住宅であれば敬遠される可能性が高い。「当初社内でもこの立地で大丈夫なのかと不安視する声が挙がっていました。しかし、実際、入居者に伺ったところ逆に『立地が気に入った』という意見が多かったのです。吉祥寺や新宿などターミナル駅からアクセスが良いところが評価されました」(同氏)。駅から遠いという点はバス便があるので気にならないという意見が中心で、入居者の約半数が自転車を利用しているが、「ちょうど良い運動になる」と歩く人も多いという。

◆入居者主体のイベントを毎週開催。 入居者の自主性を尊重した運営

 入居開始から現在に至るまで、トラブルもなく順調に運営できているという。それは同社や運営会社である(株)リビタによるコミュニティ形成への仕掛けが成功しているからだろう。

 具体的には、入居開始後しばらくして、両社主催で入居者向けウェルカムパーティーを開催。それまでも入居者主体でいくつかイベントなどは行なわれてきたというが、それを契機に参加者の幅がぐっと広がったという。その後は毎週のように入居者自らイベントを行なっている。当初は20~30人だった参加人数が徐々に増え、共用部にいる人数も増えているとか。

 また、その後入居ルールなどについて入居者自らが考える「入居者会議」を開催。これはリビタが入居者の中核メンバーに声を掛け、入居者自ら集まって、始まった会合だ。「シェアハウスで問題になりがちなのは共用部の『騒音問題』や『使用方法』。共用部で楽しみ過ぎて、うっかり周囲にご迷惑をかけてしまうということはあります。また、キッチンのお皿が洗われていないなど、共用部での問題はどうしても出てきてしまう。そういった問題意識を入居者皆さん自らが持って、解決していこうと話し合いの場として会議が開始されました。入居者の方々も社会人が中心なので自ら運営していきたいという思いが強いようです。われわれはあくまでもきっかけをつくり、入居者の自主性を尊重した運営が重要です」(同氏)。

 運営がうまく稼働していないと入居者がなかなか定着しない。「ハード面も重要だと思いますが、シェアハウスは内部のコミュニティをいかに形成していくかが重要」と話す同氏。付かず離れず、干渉はしないが、きっかけは提供する。運営側と入居者が良い距離感を持ちながらコミュニケーションを図っていくことがポイントになる。もちろん、必要な場面ではしっかり介入して、意見を述べていくことも大切だ。

 ちなみに記者が現地に伺ったのは週末の午前中。遅めの朝食を複数人の入居者で集まって用意して、楽しそうに過ごしていた。同社の入居者アンケートによると、同物件選択の理由として「会社以外のコミュニティが欲しい」など、交流を求めて入居した人が多かったようだ。実際、入居後、「すごく楽しい」と反響は上々だそうで、入居者の中には、描いていたライフプランを実現できている人も多いのではないかと見受けられた。

 また、取材した時点ですでに退居者も数人いた。「コミュニティに馴染まない」「浴槽につかりたくなった」(同物件はシャワーのみ)などが理由だったようで、こればかりは入居してみないとわからない問題だ。ただ、常に入居待ちがいる状態なので、運営上問題はないという。

◆人気のシェアハウス。 重要なのは各社の“ポジショニング”

 シェアハウスの人気ぶりは今回の事例からもわかる。徐々に一般的な住まいの選択肢の一つとして市場が確立してきているのではないだろうか。
 また、シェアハウスは必ずしも今回紹介したタイプのものに限らない。同物件が「大規模」「充実した共用施設」「個室タイプ」など、大手企業などが得意とするタイプだとすると、地域と縁の深い、築年数の経過した建物を再生したシェアハウスづくりなど地域との関係性が強い地場企業だからこそできるシェアハウスもある。つまりは、多くの事業者に参入チャンスがあるということだ。
 事業参入するに当たっては、シェアハウス市場の全体を分析したうえ、自社のポジショニングとその物件ならではの“特徴”を明確にすること、そして運営ノウハウを高めることが求められるだろう。(umi)

***
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