記者の目

2012/12/3

地方で挑戦!空き物件の再生(後編)

山形市で大学生とまちなかの空き店舗を有効活用

 地方ではなかなか実現が難しいといわれているリノベーションによる空室対策。しかし、「山形R不動産」では、大学生とともに再生に取り組むことで、低コストで高稼働な物件づくりを実現している(前回参照)。今回は、その経験を生かして、同グループが行なっているまちなかの空き店舗などを活用した地域活性化プロジェクトを紹介しよう。

フリーレントプロジェクト第1弾では、空き店舗を期間限定で地元アーティストに貸し出した。期間中はアーティストによる展示会が開催された。その中で物件宣伝も行なっている(写真提供:「山形R不動産」、以下同)
フリーレントプロジェクト第1弾では、空き店舗を期間限定で地元アーティストに貸し出した。期間中はアーティストによる展示会が開催された。その中で物件宣伝も行なっている(写真提供:「山形R不動産」、以下同)
3日間でおよそ90人が来場、盛況となった
3日間でおよそ90人が来場、盛況となった
元の店舗内装
元の店舗内装
「山形R不動産」によってホテルを改装したシェアハウス「花小路トランク」では、共用部を期間限定でカフェなどに変身させた
「山形R不動産」によってホテルを改装したシェアハウス「花小路トランク」では、共用部を期間限定でカフェなどに変身させた
アーティスト作品の販売スペース
アーティスト作品の販売スペース
夜行なわれたトークイベントは満員状態
夜行なわれたトークイベントは満員状態

■空き店舗をフリーレント、創作の場に

 山形駅を出て目抜き通りをしばらく歩くと、ビル・店舗の空室が目につく。「山形市は中心部や大通り沿いでも空き店舗が多い状況。山形R不動産では、昨年からそういった空き物件をどうしたら活用できるのかと考え始めました」(千歳不動産(株)専務取締役・水戸靖宏氏)。
 「山形R不動産」では、意見を交わし、オーナーとの交渉なども経て、2012年1月、まちなかの空き店舗を期間限定でフリーレントするプロジェクトを始動した。アーティストを対象に期間限定で無償提供し、自身の作品などを展示・販売してもらうという内容だ。「一種のオープンハウスのような考えで、空き店舗のままにしておくよりも人に集まっていただくほうが物件への訴求力にもなるとオーナーを説得しました。アーティストの方には無料でお貸しする代わりに、展示中も室内に入居者募集のチラシや看板を置いたりするなど告知をさせていただきました」(同氏)。

 通常の看板や広告だけでは、物件を探している人の目にしかとまらない。しかも、中を見学するには不動産会社に問い合わせる必要があり、道路から中を見ても暗くてよくわからない。しかし、こういったイベント形式で開放すれば、立ち寄りやすく、これまで考えていなかった人にも「こんな利用方法があるのか」と“気付き”を与えることができるという。
 もちろん、集客だけでなく若いクリエーターを応援する場として提供することで、若年層の定着や地域の活性化にもつながるはずだ。
 第1弾は3日間開催したが、90人近くが来場し、盛況となった。その後、テナントも決まったという。

■シェアハウスの共用部でイベント開催

 同プロジェクト第2弾として、空き物件ではないが、2009年に竣工したシェアハウス(詳細は(前編)を参照)で、入居者募集のオープンハウスと合わせ共用スペースを東北芸術工科大学の学生・卒業生たちに5日間貸し出した。夜間に限定し、カフェバーやアート作品の展示・販売を行なうミュージアムショップをオープンし、DJブースも設け音楽イベントも開催したところ、古い飲み屋街にある物件ということもあり、多くの人を呼び込み、界隈の賑わいにもつながったという。

 そして、12年の夏には、まちなかにあるビル地下1階の空きテナントスペースを活用してオールナイトイベントを開催。200平方メートルのスペースを“臨時クラブ”にして、朝まで対談・ライブ・DJイベントなどを行なった。対談では「山形R不動産」の旗揚げ役である馬場正尊東北芸術工科大学准教授も参加し、盛況となった。「即入居とならないまでも、活動や物件の認知度を上げていくことができる。以前イベントに参加された方がまた違うイベントに参加してくださるなど、良い宣伝効果はあると思います」(同氏)。

※※※

 このようにリノベーションや建物再生によって、空室対策からまち全体の活性化にも活動の幅は広がり、成果も少しずつ上がっている。とはいえ、大学や学生とともに物事を進めていくというのは、社内だけでリノベーション事業を行なうよりも時間や手間はかかる。しかし、水戸氏は「それ以上に大学生から得られることは大きい。われわれだけでは、従来のリフォームへの固定概念が払拭できず、付加価値のある再生につなげていくことは難しかった」と話す。

 また、こういった活動を続けていくことで、「建物自体の再生によって地域貢献していくのはもちろん、未来ある学生に地域への愛着を持って、山形を盛り上げていってもらいたいという思いもあります。今の蓄積が将来われわれにとって財産になると考えています」(同氏)。

 今後、さらなる人口減少など地方都市の状況はさらに厳しいものになっていくと考えられる。民間企業として収益性のある事業展開は必須であるが、まちをよく知り、地域に根付いた営業を行なう不動産会社だからこそ、まちの活性化や人口の定着に関連した貢献活動も効果的に行なうことができるはずだ。地方の不動産市場を盛り上げていくには、そういった包括的な活動が求められているのではないだろうか。(umi)

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